地熱(読み)ちねつ(英語表記)geothermy

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

地熱(ちねつ)
ちねつ
geothermy

地球誕生以来地球の内部で発生し蓄積された熱エネルギー。それは、太陽の周りに散らばっていた微小天体が集積して衝突したときのエネルギー、地球の核が形成されたときのエネルギー、地殻の中やマントル上部にある長寿命の放射性元素の崩壊の際に放出される熱エネルギーなどに由来する。これらのエネルギーはプレート運動、造山運動、地震、火山などの多くの自然現象を引き起こす原動力になっている。
 現在の地球内部の温度は推定の方法がまちまちではっきりわかっていないが、一例をあげると、大陸地殻の底で約400℃、海洋地殻の底で約200℃、マントルと核の境付近で約4000℃、内核で約6000℃といわれている。このような温度分布に対応して地球の内部から地表に向かって熱の流れがあり、地殻内部のものを地殻熱流量という。これによって、地球全表面から放出されている熱エネルギーは1年間に約10の28乗エルグ、すなわち世界の地震や火山のエネルギーの数十倍から100倍くらいの大きさになる。[湯原浩三]

地熱資源

地殻内部の温度分布は場所的に一様ではなく、火山地域では地下数キロメートル程度の所に約1000℃前後のマグマ溜(だま)りがあると考えられている。地表に降った雨の一部は透水性地層を伝って地下に深く浸透し、マグマ溜りからの熱伝導と高温物質の供給によって加熱され、高温の流体となり、透水性地層や岩盤の割れ目の中に地熱貯留層を形成する。貯留層内の流体は熱対流によって天然の割れ目を通って上昇し、ふたたび地表に現れ噴気や温泉などの地熱現象を生じる。このように水の循環によって地下の熱を地表に運び出すシステムを熱水系という。
 貯留層は帽岩(ぼうがん)といわれる不透水性の地層に覆われていて被圧状態になっていることが多い。地熱流体は圧力と温度の関係で、液相のみからなる場合と気相を多く含む場合とがあり、前者を熱水型貯留層、後者を蒸気卓越型貯留層とよぶこともある。貯留層から地表に向かって上昇する地熱流体は、さらに二次的、三次的に地下水と混合して、より低温の熱水型貯留層を形成することもあり、温泉帯水層とよばれる。以上を総称して火山性熱水対流系地熱資源という。一方、マグマ溜りのような火山性熱源が潜在していても、熱水系が発達しえないような地質条件のもとでは、乾燥高温岩体地熱資源ができる。日本では北海道豊羽、富山県黒部、長野県中の湯、山形県肘折(ひじおり)などにその存在が知られている。
 一方、火山性の特殊熱源がなくても、地下深くにはかなりの高温の地下水がある所があり、これを非火山性深層熱水地熱資源という。
 以上のほか、活火山やマグマ溜りそのものを一つのエネルギー資源とみなし、それを利用するための基礎的技術の研究を始めようとする動きもおこっている。
 地熱資源の包蔵量の予測を正確に行うことはきわめてむずかしい。しかし、エネルギー政策上や開発計画の作成上その値がしばしば要求される。現在のところ、地熱徴候や地質構造から地熱貯留層の面積、厚さ、温度を類推し、それに空隙(くうげき)率や回収率の適当な値を乗じて採取可能資源量を算出している。発電量の予測にはさらに機械効率、発電効率を乗じる。このような算出法に用いる各因子の値はいずれも確かなものではないので、結果はおよその値を与えるにすぎない。日本の地熱資源の分布を図A図Bに示す。[湯原浩三]

地熱開発

石油代替自然エネルギー資源のなかで、地熱資源はすでに利用技術が確立されていて、実用規模の開発段階にあるものとして世界各国で開発が推し進められている。現在、おもに開発の対象となっているものは火山性熱水対流系地熱資源であるが、ヨーロッパを中心にして深層熱水の開発も進められつつあり、高温岩体からの熱抽出法の研究はアメリカのロス・アラモス研究所を中心に日本やヨーロッパ各国でも行われている。地熱エネルギーの利用法の主力は地熱発電であるが、中・低温の地熱資源の直接利用も注目を浴びている。
 地熱資源の開発にあたっては、まず各種の地熱探査を行い、ついで地熱井(せい)の掘削を行うのが普通であるが、日本では地熱地域の多くは国立公園内にあるため、自然保護や環境問題、さらには温泉との利害の調整のため、調査、開発にかなりの規制が加えられている。[湯原浩三]

直接利用

地熱資源は発電以外にもいろいろな目的に熱を直接利用することができる。図Cに示したように、利用する目的によって適した温度があるので、一つの資源をいろいろな目的に多段利用して経済性を高めることもできる。地熱を利用した大規模な暖房・給湯システムはアイスランドの首都レイキャビーク、アメリカのオレゴン州クラマスホール、フランスのパリ近郊ムラン、ハンガリーのブダペストなどにその例がある。レイキャビークでは1927年から地熱利用暖房給湯事業が始まり、現在では近郊を含めて約10万人がその恩恵に浴している。ここでは水質が良好なため熱交換器は用いられていない。クラマスホールでは市内各地にある約400の温泉井にダウンホール熱交換器を設置して、暖房・給湯に利用している。とくに同市にあるオレゴン州立大学では新キャンパス移転に際して、適地を求めて全学舎を地熱暖房にしたことは有名である。ムランでは約3000戸の住宅団地を対象に地熱利用の暖房・給湯を行っているが、ここでは深さ約1800メートルにある約70℃の深層熱水をくみ上げ、真水と熱交換したあと同じ地層に還元している。日本には地熱を利用した地域地熱供給事業といえるほどのものはまだない。
 寒冷積雪地では地熱を利用した道路融雪を行って大きな効果をあげている所がある。地熱利用道路融雪は、路床にパイプを埋設し高温水を通水して道路を加熱して雪を融(と)かす方式で、路面に地下水を散水する消雪道路とは区別する。埋設管としてはポリブテン管、鋼管などがあり、径25ミリメートル程度の細い管を約20センチメートル間隔で深さ約10センチメートルに10~40本並列に埋設したものや、径100ミリメートル以上の太い管を深さ30センチメートル程度に数本埋設したものなどいろいろある。日本の地熱利用融雪道路は札幌市定山渓(じょうざんけい)、群馬県吾妻(あがつま)郡草津町、長野県下高井郡山ノ内町、岐阜県高山市などにあり、2002年(平成14)現在、道路延長は合計約8キロメートル、融雪面積約4万平方メートルである。また広い意味の地熱利用として、普通の土地に深さ50~100メートル程度の坑井を掘削し、坑井には熱交換パイプ、地上にはヒートポンプを設置し、夏は冷房、冬は暖房を行うシステムがアメリカ、ヨーロッパで普及している。これを地中熱利用ヒートポンプという。環境にやさしいシステムであるため日本でも普及の促進が図られている。
 地熱の農業利用は世界各地に例がみられるが、もっとも盛んなのはハンガリーで、ここではほぼ全土に存在する深層熱水を利用して大規模な施設園芸が行われている。日本では北海道渡島(おしま)総合振興局管内の森町での野菜栽培、鹿児島県指宿(いぶすき)市での観葉植物の栽培が有名であり、そのほか小規模な利用は多くの温泉地で行われている。養魚、畜舎暖房、育苗などへの利用もいくつかの例はあるが大規模なものは少ない。地熱の二次産業への利用としては農林水産物の乾燥加工、製塩、化学薬品の抽出に用いられている例があるが、その規模はいずれも小さい。[湯原浩三]
『湯原浩三・瀬野錦蔵著『温泉学』(1969・地人書館) ▽早川正巳著『地熱 第四のエネルギー』(1970・日本放送出版協会) ▽森康夫・陶山淳治著『地熱エネルギー読本』(1980・オーム社) ▽鎌田政明著『地熱流体の化学 環境科学の視点から』(1985・東京大学出版会) ▽湯原浩三著『大地のエネルギー 地熱』(1992・古今書院) ▽イアン・グラハム著、菊池美代子訳『エネルギーの未来を考える4 地熱・バイオエネルギー』(2000・文渓堂)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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