地獄変(読み)ジゴクヘン

デジタル大辞泉 「地獄変」の意味・読み・例文・類語

じごくへん【地獄変】[書名]

芥川竜之介の小説。大正7年(1918)発表。地獄変相屏風びょうぶ画を描くために、愛する娘の焼死をもいとわない絵師良秀を通して、芸術至上主義者の悲劇を描く。

じごく‐へん〔ヂゴク‐〕【地獄変】

地獄変相」の略。
[補説]書名別項。→地獄変

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精選版 日本国語大辞典 「地獄変」の意味・読み・例文・類語

じごく‐へん ヂゴク‥【地獄変】

[1] 〘名〙 「じごくへんそう(地獄変相)」の略。
御堂関白記‐長和四年(1015)一二月一九日「地獄変御屏風画々師等賜祿」
古今著聞集(1254)一一「弘高、地獄変の屏風を書きけるに、楼の上より桙をさしおろして、人をさしたる鬼をかきたりけるが」
[2] 小説。芥川龍之介作。大正七年(一九一八)発表。地獄変相の屏風画の完成のためには、愛する娘の死さえいとわない絵師良秀を通して、芸術至上の世界を描く。作者王朝物の一つ。

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改訂新版 世界大百科事典 「地獄変」の意味・わかりやすい解説

地獄変 (じごくへん)

芥川竜之介短編小説。1918年(大正7)5月1~22日,《大阪毎日新聞》に連載。芥川の芸術観をおのずからに示す中期の力編である。本朝第一の絵師と自負する良秀に,堀川の大殿は地獄変の屛風の制作を命じる。この両者の葛藤が作品の軸となるが,絵を完成するためにはその主眼となる図柄をという良秀の願いにこたえ大殿が用意したのは,己の寵愛に従わぬ良秀の娘を檳榔毛(びろうげ)の車に入れ火を放つことであった。苦悶にゆがむ良秀の顔はやがて〈恍惚とした法悦の輝き〉を見せ,大殿は青ざめる。やがて地獄変図は完成し世の人の絶賛を得るが,良秀はみずから縊(くび)れて命を絶つ。作者の〈心熱が燃えてゐる〉〈最傑作〉とは正宗白鳥の評するところであり,ここに芸術と倫理の避けがたい相克を見るとしても,それ以上にすべてを一代の傑作に賭け,その余の生を残滓と見る当時の作者の芸術至上的心熱の燃焼をこそ読みとるべきであろう。
執筆者:

地獄変 (じごくへん)
dì yuè biàn

変相図の一つで,地獄を描いた図をいう。地獄変相ともいう。浄土変が《阿弥陀経》《観無量寿経》,降魔変(ごうまへん)が《仏本行経》などとおのおのが拠った経典があるのに対し,地獄変は十八地獄などの観念によって描かれたとされる。唐の長安の諸寺院の壁に地獄変が描かれていたことは,張彦遠歴代名画記》に詳しく,中でも呉道玄(道子)の描く地獄変がリアルに地獄を写して人々を恐れさせたことが《酉陽雑俎(ゆうようざつそ)》などの記録に見える。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「地獄変」の意味・わかりやすい解説

地獄変
じごくへん

芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)の小説。1918年(大正7)5月『大阪毎日新聞』に連載。『宇治拾遺物語』巻3の6「絵仏師良秀(よしひで)の家の焼くるを見て悦(よろこ)ぶ事」から主人公を借りて書かれている。時の権力者堀川の大殿(おおとの)から地獄図を描くように命じられた絵師良秀は、自分の周りに地獄のような状態をつくってはそれを写して絵を描き進めていた。そしてついには、火炎に包まれてもだえ苦しむ愛娘(まなむすめ)を救い出そうともせずに見つめ続け、それを画面の中心に描き上げて絵を完成させた。良秀の狂的な姿を通して、現実的なものの全否定のうえに芸術至上主義的な世界を樹立した力作で、芥川の代表作の一つである。芸術家としての作者自身の覚悟を表明した作品であるが、最後には良秀を自殺させており、芸術至上主義と倫理との問題を提示している。

[海老井英次]

『『羅生門・偸盗・地獄変・往生絵巻』(講談社文庫)』

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百科事典マイペディア 「地獄変」の意味・わかりやすい解説

地獄変【じごくへん】

地獄変相図,地獄絵とも。勧善懲悪のため地獄の苦しみのさまを描写したもので,インドから西域・中国にかけて行われた。日本では平安初期より仏像の後壁に描く風が盛んとなり,また仏名会(ぶつみょうえ)に罪障懺悔(ざんげ)のために地獄変の屏風(びょうぶ)を立てる風も行われるようになった。極楽と対照したり,十界図(じっかいず)の一つとして,独立の地獄草紙としても描かれた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「地獄変」の意味・わかりやすい解説

地獄変
じごくへん

芥川龍之介の短編小説。 1918年発表。平安時代のある一時期,並びない権勢を誇る堀河の大殿と,その権勢に屈しない絵師良秀の画筆への執念との悽惨な対立を描く。堀河の大殿は侍妾に望みながら従わなかった良秀の娘を牛車に乗せたまま焼殺し,その実景を凝視しつつ良秀は「地獄変」の名作を描き終える。芥川の芸術至上主義の理想を語った王朝物の代表作。

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デジタル大辞泉プラス 「地獄変」の解説

地獄変

1969年公開の日本映画。監督:豊田四郎、原作:芥川龍之介による同名小説、脚色:八住利雄、撮影:山田一夫。出演:中村錦之助、仲代達矢、内藤洋子、大出俊、下川辰平、内田喜郎、中村吉十郎ほか。

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世界大百科事典(旧版)内の地獄変の言及

【地獄変】より

変相図の一つで,地獄を描いた図をいう。地獄変相ともいう。浄土変が《阿弥陀経》《観無量寿経》,降魔変(ごうまへん)が《仏本行経》などとおのおのが拠った経典があるのに対し,地獄変は十八地獄などの観念によって描かれたとされる。…

※「地獄変」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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