堅・硬・固(読み)かたい

精選版 日本国語大辞典 「堅・硬・固」の意味・読み・例文・類語

かた・い【堅・硬・固】

〘形口〙 かた・し 〘形ク〙 外的な力によって、壊したり、破いたり、変形させたり、動かしたりすることの困難なさまである。物質の性質・状態、人間の性状・性格・心理的状態、物・事柄の様態・様子などに対して使われる。⇔やわらかい
① ものの形状や状態がしっかりしていて、それを変化させることが難しいさまである。
(イ) 物質の形状・状態が、こわしたり、変形させたりしにくいさまである。
源氏(1001‐14頃)行幸「かたきいはほもあわ雪になし給ふつべき御けしきなれば」
※大唐西域記長寛元年点(1163)四「垣堵(ついかき)壊れたりと雖も、基趾尚し固(カタシ)
(ロ) 状態が強くしっかりしている。堅固である。
古事記(712)下・歌謡秀罇(ほだり)取り 加多久(カタク)取らせ 下賀多久(ガタク) 彌賀多久(ガタク)取らせ」
※枕(10C終)一六〇「遠き所より思ふ人の文を得て、かたく封じたる続飯(そくひ)などあくるほど、いと心もとなし」
(ハ) 丈夫で長もちのするさまである。健康である。
書紀(720)顕宗即位前・歌謡(図書寮本訓)「取り結(ゆ)へる 縄葛は 此の家の長の 御寿(いのち)の堅(カタキ)なり」
(ニ) 固定していて動かしにくいさまである。
落窪(10C後)一「中隔(なかへだて)障子を明け給ふに、かたければ『これ明けよ』との給ふに」
② 心が確定していて、動揺したりしにくく、安心できるさまである。
(イ) 信義に厚く、心変わりがしない。信用のおけるさまである。心に思い抱くことの強いさまである。
※書紀(720)雄略一二年一〇月・歌謡「大君に 柯(カタク) 仕へ奉(まつ)らむと」
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「容貌清らに、らうらうしく、年若きを見給て、かたかるべき契をしてへ給しほどに」
(ロ) 態度が強くしっかりしている。きびしい。
※古事記(712)下「然れども大后を始めて、諸の卿等、堅(かた)く奏(まを)すに因りて」
※源氏(1001‐14頃)明石「后、かたく諫め給ふに」
(ハ) かたくなである。ゆうずうがきかない。
こんてむつすむん地(1610)一「さても人の心かたくぐちなる物かな、もくぜんの事ばかりをしあんして、みらいの事をば心にかけぬなり」
虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一六「『是で好(い)いんです。御嫁に行くと却って不可(いけ)ません』『困ったな、何時の間に、さう硬(カタ)くなったんだらう』」
(ニ) きまじめである。堅実である。
咄本・軽口御前男(1703)二「寺にての料理、汁をもる最中、ずんどかたい旦那参詣にて、長老迷惑なていを見て」
(ホ) けちで、ちゃっかりしているさまである。〔日葡辞書(1603‐04)〕
③ 人の様子、表情、感じ、筆跡などについて、角ばっていて、柔軟性に欠けるさまである。かたくるしい。
※源氏(1001‐14頃)行幸「おほむ手は、昔だにありしを、いと、わりなうしじかみ、ゑり深う、強う、固う、書き給へり」
※いさなとり(1891)〈幸田露伴〉二九「其様に堅う坐って居(ゐら)れては堪らぬ、此方(こちら)へ此方へ」
④ (固定している、しっかりしているという意から派生して) 態度・状態が強くしっかりしていて、くずれることがないさまである。
(イ) (「目がかたい」という形で) 眠けが来ないさまである。
浄瑠璃栬狩剣本地(1714)三「おとなし様にお目がかたい。少お休あそばせ」
(ロ) (「口がかたい」の形で) べらべらしゃべらない。
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三「(人さしゆびにて口をたたき)ここのかたいのはじまんじゃアないが」
⑤ 失敗する心配が少ない。確実である。実現することが確かだ。
※歌舞伎・勧善懲悪覗機関(村井長庵)(1862)四幕「それぢゃというて、死なぬと堅(カタ)い事も言はれぬぢゃないか」
※暗夜行路(1921‐37)〈志賀直哉〉三「自分では他の堅(カタ)い商売よりは幾らか自信もあるらしいのだが」
かた‐さ
〘名〙

かた・し【堅・硬・固】

〘形ク〙 ⇒かたい(堅)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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