塩化鉄(読み)えんかてつ(英語表記)iron chloride

精選版 日本国語大辞典 「塩化鉄」の意味・読み・例文・類語

えんか‐てつ エンクヮ‥【塩化鉄】

〘名〙 塩素と鉄との化合物総称
塩化鉄(II)。塩化第一鉄。化学式 FeCl2 白色または淡緑色潮解性のある結晶。湿った空気中で酸化して、しだいに赤褐色になる。塩化第二鉄原料、媒染剤に用いる。二塩化鉄。
② 塩化鉄(III)。塩化第二鉄。化学式 FeCl3 赤褐色で潮解性のある結晶。有機物の酸化剤、縮合剤、逓伝体に用いるほか、分析試薬、媒染剤、金属腐食剤、止血剤などにも用いられる。三塩化鉄。
機械(1930)〈横光利一〉「金属を腐蝕させる塩化鉄で」

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デジタル大辞泉 「塩化鉄」の意味・読み・例文・類語

えんか‐てつ〔エンクワ‐〕【塩化鉄】

塩化鉄(Ⅱ)。乾いた塩化水素の中で鉄を熱すると得られる、白色または淡緑色の鱗片りんぺん状結晶。四水和物潮解性のある緑色の結晶。塩化鉄(Ⅲ)の原料や媒染剤に使用。化学式FeCl2 塩化第一鉄。
塩化鉄(Ⅲ)。鉄粉を比較的低温で塩素中で熱して得られる、赤褐色で潮解性のある結晶。六水和物は黄色の結晶。媒染剤・金属腐食剤に使用。化学式FeCl3 塩化第二鉄。

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改訂新版 世界大百科事典 「塩化鉄」の意味・わかりやすい解説

塩化鉄 (えんかてつ)
iron chloride

鉄(Ⅱ)塩と鉄(Ⅲ)塩がよく知られている。

化学式FeCl2。無水和物と2,4,6水和物が知られているが,市販のものはほぼ4水和物FeCl2・4H2Oに相当する。無水和物は白~淡緑白色の結晶で六方晶系に属し,塩化カドミウム型構造をとる。空気中で湿気を吸い赤褐色になる。4水和物は緑色,潮解性の結晶で単斜晶系に属する。その塩酸溶液を空気中に放置すると塩化鉄(Ⅲ)に変化する。水やエチルアルコールによく溶け,水溶液から12.3℃以下で6水和物,76.5℃以上で2水和物が析出する。水和物を加熱すると酸化鉄(Ⅲ)と塩化水素になる。

化学式FeCl3。無水和物のほかに種々の水和物が知られているが,6水和物FeCl3・6H2Oが最もよく知られている。無水和物は暗赤褐色の結晶で潮解性があり,六方晶系に属する。気相(440~750℃)では二量体(FeCl32として存在する。水溶液から結晶化するとき,条件により2,5,6,7,12水和物などとなる。6水和物は赤褐~黄色の潮解しやすい結晶で六方晶系に属する。水,エチルアルコール,アセトンエーテルによく溶け,水溶液はFe3⁺イオンの加水分解によって強い酸性を示す。

塩化鉄(Ⅱ)無水和物は,塩化鉄(Ⅲ)無水和物を水素とともに加熱して還元するか,またはクロロベンゼン中で還流するかして得られる。空気を断って保存する。塩化鉄(Ⅱ)4水和物は,空気に触れないようにして純鉄を塩酸に溶かした溶液から室温付近の温度で結晶化させて得る。塩化鉄(Ⅲ)無水和物は,純鉄と塩素を加熱反応させるか,または6水和物を塩化チオニル中で還流させるかして得る。6水和物は,純鉄を塩酸に溶かした溶液に塩素を通じて酸化したのち,溶液を濃縮して得られる。工業的には,たとえば鉄くずを35%塩酸に溶かし,これに塩素を吹きこみ,この溶液をそのまま塩化鉄(Ⅲ)液として使用している。

 塩化鉄(Ⅱ)4水和物は染料の還元剤,塩化鉄(Ⅲ)無水和物は有機合成における酸化剤や縮合剤,6水和物は試薬,媒染剤,金属腐食剤,止血剤などとして用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「塩化鉄」の意味・わかりやすい解説

塩化鉄
えんかてつ
iron chloride

鉄と塩素の化合物。酸化数+Ⅱおよび+Ⅲの化合物、+Ⅱと+Ⅲの両方を含む化合物が知られている。

(1)塩化鉄(Ⅱ)(塩化第一鉄) 自然鉄、隕石(いんせき)、火山噴出物などの中に存在する。無水和物のほか、二、四、六水和物などがある。無水和物は乾いた塩化水素中で鉄を赤熱すれば得られる。実験室では、塩化鉄(Ⅲ)をクロロベンゼンの環流下で加熱してつくるのが便利である。


 工業的には、鉄くずを濃塩酸に溶解し、その上澄み液を濃縮して塩化鉄(Ⅱ)の溶液を得ている。これは液状のまま市販される。無水和物は淡緑白色の結晶で、湿った空気中では分解して緑黄色から赤褐色に変わる。水、エタノール(エチルアルコール)によく溶ける。水溶液から室温で結晶させると、淡緑色、潮解性の四水和物が析出する。水和物は空気中で熱すれば分解して酸化鉄(Ⅱ)となる。媒染剤、染料、顔料、調剤などに用いられる。

(2)塩化鉄(Ⅲ)(塩化第二鉄) 天然には火山噴出物や隕石の中にみいだされることがある。無水和物のほかに、六水和物など多くの水和物がある。無水和物は、鉄粉を比較的低温で塩素と反応させることによって得られる。六水和物を塩化チオニルで脱水する方法もよく用いられる。

 工業的には、塩化鉄(Ⅱ)の溶液を塩素で酸化して塩化鉄(Ⅲ)の溶液とする。これを濃縮、放冷すれば水和物結晶が得られる。無水和物は暗赤色の結晶。潮解性があり、水、アルコール、アセトン、エーテルによく溶ける。六水和物は黄褐色の結晶で潮解性が著しい。水によく溶け、加水分解して強酸性を示し、タンパク凝固作用があるので止血剤に用いられる。そのほかに金属板腐食液(ネームプレート、写真製版、プリント配線、目盛板)、凝集沈殿剤、媒染剤などに用いられる。無水和物には有機化学反応における酸化剤、縮合剤、塩素の逓伝(ていでん)体などの用途がある。

[鳥居泰男]

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化学辞典 第2版 「塩化鉄」の解説

塩化鉄
エンカテツ
iron chloride

】塩化鉄(Ⅱ):FeCl2(126.75).二塩化鉄ともいう.白~淡緑色のりん片状晶.潮解性があり,乾いた塩化水素中で鉄を赤熱すると得られる.密度2.99 g cm-3.融点672 ℃,沸点1024 ℃.常磁性をもつ.吸湿性で湿った空気中では,ただちに緑黄色を経て赤褐色になる.水に易溶.光により分解する.四水和物は淡緑色の結晶.潮解性.密度1.926 g cm-3.加熱すると水和水中に溶ける.媒染剤,廃水処理剤,冶金,医薬製造などに用いられる.[CAS 7758-94-3:FeCl2][CAS 16399-77-2:FeCl2・2H2O][CAS 13478-10-9:FeCl2・4H2O]【】塩化鉄(Ⅲ):FeCl3(162.20).三塩化鉄ともいう.暗赤色の結晶塊.潮解性.硫酸鉄(Ⅱ)に塩素を作用させると得られる.密度2.90 g cm-3.融点300 ℃,沸点317 ℃.蒸気密度はFe2Cl6に相当する.空気中で加熱すると酸化鉄(Ⅲ)になる.水に易溶.エタノール,エーテルとは付加物を生成する.六水和物は黄褐色の柱状または板状晶.黄色塩化鉄として市販されている.いちじるしく潮解性.比較的軟らかい.融点36.5 ℃,沸点280 ℃.水溶液は加水分解して強酸性を呈する.湿気,光により分解して塩化水素を放つ.タンパク質を凝固させる.媒染剤,止血剤,酸化剤,塩素化剤,汚水処理剤,プリント基板のエッチング剤などに用いられる.[CAS 7705-08-0:FeCl3][CAS 10025-77-1:FeCl3・6H2O]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「塩化鉄」の意味・わかりやすい解説

塩化鉄
えんかてつ
iron chloride

(1) 塩化鉄 (II) ,塩化第一鉄  FeCl2 。自然鉄,隕石,火山の噴出物中に微量含まれ,また乾いた塩化水素中で鉄を赤熱すると生成する。無色または淡緑白色結晶。水,アルコールに易溶。特別の用途はない。融点 670~674℃で昇華性がある。 (2) 塩化鉄 (III) ,塩化第二鉄  FeCl3 。天然にはモリサイトとして産出し,ベズビオ火山噴気孔などで発見されている。暗赤色の結晶。透過光は赤,反射光は緑を呈する。融点 306℃。吸湿性が強い。水,アルコール,エーテル,アセトンに可溶。有機化学反応における酸化剤や触媒,分析試薬などに使われる。 FeCl3・6H2O は黄褐色,塊状,吸湿性で,多少塩化水素臭がある。鉄塩の製造,顔料,インキ,媒染剤に用いられるほか,止血薬,収斂薬として使われる。

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百科事典マイペディア 「塩化鉄」の意味・わかりやすい解説

塩化鉄【えんかてつ】

(1)塩化第一鉄FeCl2。比重2.99(18℃),融点672℃,沸点1023.4℃。淡緑白色鱗片状晶。鉄を塩酸に溶かした酸性溶液から得られる緑色潮解性の結晶は4水和塩。他に1,2,6水和塩がある。(2)塩化第二鉄FeCl3。比重2.804(11℃),融点300℃,沸点317℃。鉄粉を低温に保って塩素中で熱して得られる暗赤色結晶。水,アルコールなどに溶ける。有機化学において酸化剤,縮合剤とするほか,媒染剤,止血剤などに使用。水酸化第二鉄Fe(OH)3を塩酸に溶かして得られる黄色結晶は6水和塩で,潮解性,水に易溶。

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