家庭医学館 「塵肺(症)」の解説
じんぱいしょう【塵肺(症) (Pnenmoconiosis)】
有毒なガスや蒸気、粉塵を吸入すると、気管・気管支や肺にさまざまな病的な変化がおこります。なかでも鉱物性(無機物)粉塵を吸入したために肺におこった病気を塵肺と総称します。
この病変は、線維(せんい)が増えること(線維性の変化)が主で、慢性気管支炎(まんせいきかんしえん)や肺気腫(はいきしゅ)をともなうことも多く、肺の柔軟性が失われ、呼吸困難になります。
植物や動物などから発生する有機粉塵(綿ぼこり、木くずの粉など)を吸っておこる肺の異常も、末期には線維性変化を生じます。どちらも、からだが吸入した粉塵に反応するのですが、有機粉塵による異常はアレルギー性の呼吸器疾患で、塵肺とはちがいます。
呼吸器系の気道(きどう)には異物を排泄(はいせつ)する作用があり、吸入された粉塵は分泌液(ぶんぴつえき)とともに、気道の線毛(せんもう)運動によって喉頭(こうとう)のほうへ、たんとして排出されます。
この防御機能をくぐり抜けて肺の深部に入り込んだ粉塵は、大食細胞(たいしょくさいぼう)(マクロファージ)にのみこまれます。有機粉塵なら大食細胞が消化できますが、鉱物性粉塵は消化できず、最終的に気管・気管支周囲のリンパ節まで運ばれて貯蔵されます。吸入した粉塵が大量(長期)であればこの処理能力を超えてしまい、肺組織内部に残った粉塵により、組織の線維が増えてしまうのです。
広範囲に線維化した肺は、原因も臓器も異なりますが、肝臓でいえば肝硬変(かんこうへん)がおこったようなもの、と考えればよいと思います。
塵肺をおこすほど粉塵を吸入するのは、ほとんどが職業で粉塵にさらされている人たちです。過去に粉塵をまき散らす工場や鉱山の周辺にすむ住民が発病することもあったように、まれに近隣暴露(きんりんばくろ)が原因になることもあります。
代表的な塵肺は、ケイ素による珪肺(けいはい)と、石綿(いしわた)(アスベスト)による石綿肺(せきめんはい)です。しかし、各種の粉塵がまう職場も少なくなく、それらが混合した粉塵によっておこる塵肺もあります。