怪ず(読み)けしからず

精選版 日本国語大辞典 「怪ず」の意味・読み・例文・類語

けしから‐・ず【怪ず】

連語〙 (形容詞けし」の補助活用未然形に打消助動詞「ず」の付いたもの)
① 特になんということもない。ろくでもない。たいしたこともない。
※宇津保(970‐999頃)春日詣「世の中のかくはかなければこそ、けしからぬ童部の行先思ひやられて、うしろめたうおぼえ侍れ」
② 普通の状態から外れていて、異常なほどである。
紫式部日記(1010頃か)寛弘五年九月一一日「螺鈿、縫ひ物、けしからぬまでしてひき隠し」
※狭衣物語(1069‐77頃か)三「けしからず声高に、端近に色めかしきさまなどは見え給はましかば」
咄本・気のくすり(1779)行灯「此あんどんは、又けしからぬやぶれやうの」
③ 不都合である。非難すべきさまである。あるまじきことである。いけない。
※枕(10C終)二七八「けしからず、腹ぎたなくおはしましけりなどいへば乗りぬ」
平家(13C前)三「けしからぬ泰親が今の泣やうや。何事有べき
ヰタ・セクスアリス(1909)〈森鴎外〉「肉蒲団といふ支那人の書いた、けしからん猥褻な本がある」
④ あやしげである。まともでない。
源氏(1001‐14頃)蓬生「木魂(こだま)などけしからぬ物ども所得てやうやうかたちをあらはし」
⑤ 一通りでなくすばらしい。並たいていでない。
謡曲鵜飼(1430頃)「わが家に連れて帰り、けしからず一夜(いちや)摂して候ひしよ」
※看聞御記‐永享四年(1432)八月二九日「禁裏御対面之由源宰相申、けしからず御成長云々、珍重也」
⑥ たいそう。並はずれて多い。
※大観本謡曲・土蜘蛛(室町末)「又御太刀つけの跡を見候へば、けしからず血の流れ候」
[補注](1)打消を伴わない「けし」と同様に、打消を伴った「けしからず」が「異常」の意味をもつのは、その非難されるべき性質が打消によって強調されることになったもの。→けしけしからない
(2)江戸後期、「けしからん」という形が、ひどく、たいそうの意で、副詞的に用いられることがある。「石をあがるといふは、けしからんお歯のおたっしゃなことでござります」〔滑稽本・東海道中膝栗毛‐五〕、「けしからん御寒い事でございます」〔滑稽本・浮世床‐初〕など。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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