大学(儒教経典)(読み)だいがく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「大学(儒教経典)」の意味・わかりやすい解説

大学(儒教経典)
だいがく

もと『礼記(らいき)』の第42篇(へん)。教育機関としての大学の理念を述べた書で、漢代ごろに成立したといわれる。朱熹(しゅき)(朱子)はこの書を四書のうちで「初学の徳に入るの門」といい、学問の入門指針書として重視し、本文に脱落錯簡があると考え、論理的に再構成して『大学新本』のテキストを定め、注釈を書いて『大学章句』とし、臨終の数日前まで改訂し続けた。彼によれば、『大学』は、孔丘(こうきゅう)(孔子)の言を弟子曽参(そうしん)(曽子)が祖述した経1章と、曽参の意を門人が記録した伝十章からなる。経は「明徳を明らかにす」「民を親(あら)(新)たにす」「至善に止まる」の三綱領と、「物に格(いた)る」「知を致(いた)す」「意を誠にす」「心を正す」「身を修む」「家を斉(ととの)う」「国を治む」「天下を平らかにす」の8条目により、精神修養から政治的実践に至る道を説いている。伝は三綱領8条目の補足説明で、そのうち「格物致知」を説く伝5章は脱落したとみて補伝を書いた。それだけ「格物致知」を重んじたのである。この改編、注釈によって『大学』は朱子学の経典としての権威を与えられたが、後世の経書改纂(かいさん)のきっかけともなった。王守仁(しゅじん)(陽明(ようめい))は、『礼記』中の「大学古本」は完本で、脱落錯簡はないとし、『大学新本』を否定したが、このころから『大学』改編の是否と思想内容をめぐる論争が盛んとなり、「格物致知」には72の各説があったともいう。批判を受けながらも『大学章句』は官吏資格試験(科挙(かきょ))のテキストとして清(しん)末まで用いられた。

[佐野公治]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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