大気圏再突入(読み)たいきけんさいとつにゅう(英語表記)atmospheric reentry

改訂新版 世界大百科事典 「大気圏再突入」の意味・わかりやすい解説

大気圏再突入 (たいきけんさいとつにゅう)
atmospheric reentry

人工衛星宇宙船が宇宙空間から惑星大気層に突入すること。単に再突入reentryという場合も多い。再突入過程は,非常に大きな速度で落下していく機体に対して大気層をクッションとして利用し,無事に地表面などに到達,帰還させるものであるが,同時に空力加熱や高減速度といった問題も含んでおり,その対策はつねに重要な課題の一つとなっている。

 突入中の経路は,機体の揚力の有無によって揚力軌道弾道軌道に大別される。弾道軌道では,揚力が存在しないので減速度が大きく,また運動能力を有しないので着地点の変更が不可能である。初期の再突入船(アメリカのマーキュリー)がこれに属する。これに対し,揚力を利用した揚力軌道では,減速度が緩やかで,運動能力もあるので着地点の変更が可能となる。この軌道は,さらに平衡滑空軌道L/Dプログラム軌道に分けられる。前者は,揚抗比L/Dが一定の場合で,滑空軌道のまわりを振動しながら降下する。後者は,重心の移動によって揚力を変化させるもので,垂直,水平の両平面内での運動能力をもち,ジェミニアポロがこれに属する。さらに最近では,翼を有し完全な飛行能力をもったスペースシャトルのような例もある。

 突入時の誘導に関しては,突入角の制御が問題となる。突入角が小さいと大気による減速が不十分で,再び大気圏外へ出てしまい,逆に大きいと減速度や加熱量が許容値を超える。この上下限界の内側は,突入回廊entry corridorと呼ばれており,回廊幅は,上下限界の軌道が大気による減速を受けないとした仮想的な近地点を考え,その高度差として与えられる(図)。とくに揚力が利用できる場合には,突入回廊の上下端で揚力を正負に操作し,幅を広げることができる。

 突入中の機体に対してもっとも過酷な条件の一つに空力加熱がある。再突入時には非常に大きな速度で大気中を運動するために,空力加熱による温度の上昇がきわめて大きなものとなり(スペースシャトルでは,もっとも高温になる機首先端で1500℃ほどにもなる),なんらかの方法で機体を保護する必要がある。これには放射冷却アブレーション冷却と呼ばれるものがある。前者は,機体表面から気体や液体を放出し冷却させる方法で,構造が複雑になる欠点がある。後者は,機体表面を気化させその潜熱によって冷却をはかるもので,通常この方法がよく用いられている。これらに対し,スペースシャトルのようにきわめて高い温度に耐える断熱材を用いた熱対策もある。いずれにせよ,機体の設計に大きくかかわってくるので,目的に応じた方法が十分に検討され用いられている。

 なお,地球外の惑星への再突入の場合であるが,バイキングやガリレオ探査機ではパラシュートを併用した突入法を用いている。
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百科事典マイペディア 「大気圏再突入」の意味・わかりやすい解説

大気圏再突入【たいきけんさいとつにゅう】

宇宙船や人工衛星が宇宙空間から惑星の大気圏に突入すること。空気との摩擦による高熱と非常に大きな減速度への対応が重要な課題になる。初期の宇宙船は突入の経路を弾道軌道としており,減速度が大きくまた着地点の変更も不可能だったが,ジェミニ宇宙船やアポロ宇宙船は揚力を利用する方式に変わり,さらにスペースシャトルでは完全な飛行能力をもつに至っている。一方高熱から船体や機体を守るには,機体表面を気化させて潜熱で冷却する方法,断熱材を用いる方法が採用されている。
→関連項目アポロ宇宙船

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