大腸がん(読み)だいちょうがん(英語表記)colorectal cancer

日本大百科全書(ニッポニカ) 「大腸がん」の意味・わかりやすい解説

大腸がん
だいちょうがん
colorectal cancer
large bowel cancer

定義

大腸(盲腸・結腸・直腸・肛門(こうもん))に発生するがん(悪性腫瘍(しゅよう))。日本人の場合、S状結腸や直腸に発生することが多い。ほとんどは大腸粘膜から発生するため、組織学的には腺(せん)がんが約90%を占め、多くは高分化腺がんや中分化腺がんである。大腸がんの多くは、良性の腫瘍である腺腫(腫瘍性のポリープ:隆起状の病変として指摘されることが多い)が悪性化することでがんに進展していくが、一部には腺腫の状態を経ないで、正常粘膜からいきなりがんが発生するものもみられる。

[渡邊清高 2018年6月19日]

疫学・病因(危険因子)

統計

日本において2016年(平成28)に大腸がん(結腸・直腸がん)で死亡した人は5万0099(結腸3万4521・直腸1万5578)例である。このうち男性2万7026(結腸1万7116・直腸9910)例、女性2万3073(結腸1万7405・直腸5668)例であり、それぞれがん死亡全体の12.2%および15.0%を占める。部位別にみると肺がんに次いで第2位(男性第3位、女性第1位)の死亡数となっている。死亡数の年次推移は男女とも増加傾向にあるが、人口の高齢化の影響を取り除くと、1990年代から緩やかに減少傾向である。年齢階級別の死亡率をみると、男女とも50歳代から増加し、高齢になるほど高くなる。60歳代以降は男性が女性より顕著に高い。

 2013年の大腸がん(結腸・直腸がん)の罹患(りかん)数(全国推計値)は13万1389(結腸8万7701・直腸4万3688)例である。男性7万4881(結腸4万6806・直腸2万8075)例、女性5万6508(結腸4万0895・直腸1万5613)例で、それぞれがん罹患全体の15.0%および15.5%を占めている。部位別の罹患数をみると、男性では胃がん、肺がんに次いで第3位、女性では乳がんに次いで第2位となっている。男女計では、胃がんに次いで第2位である。罹患数の年次推移も男女とも増加傾向にあるが、人口の高齢化の影響を取り除くと、1990年代からほぼ横ばいで推移している。大腸がんの罹患率は50歳前後から増加し、高齢になるほど高くなる。60歳代以降は男性が女性よりも著明に高い。

 経年的な推移をみるうえで、人口の高齢化の影響を除き、一定の年齢構成に調整した数値を比較する。大腸がんの年齢調整死亡率は男女とも、第二次世界大戦後から1990年代なかばまで上昇、その後いったん低下し、近年は横ばい傾向にある。年齢調整罹患率は1990年代まで上昇しその後横ばい傾向であったが、近年ふたたび上昇傾向にある。罹患率上昇は食生活の欧米化が、その後横ばいが続いたのは、前がん病変である腺腫性ポリープの検診による発見・切除がかかわっていると考えられている。大腸がんの増加には主として結腸がんが寄与している(データ出典:国立がん研究センターがん対策情報センター)。

[渡邊清高 2018年6月19日]

要因

第二次世界大戦後、日本人に大腸がんが増加した背景には、食事など生活習慣の欧米化や日常的な身体活動量の減少があると考えられている。ハワイの日系移民は日本人より結腸がん罹患率が高く、欧米白人と同レベルであることが知られていたが、最近の罹患率の国際比較では結腸がん、直腸がんともに日本人はアメリカ日系移民および欧米白人と同程度に高い。

 2017年の世界がん研究基金(WCRF)とアメリカがん研究協会(AICR)による報告では、大腸がんとの関連が「確実」あるいは「可能性あり」に分類された食物・栄養・身体要因は多岐にわたっている。リスクを上昇させるものとして加工肉、飲酒、体脂肪、高身長は「確実」とされ、赤肉(牛・豚・羊など)は「可能性あり」とされている(なお高身長は、身長が高いことそのものがリスクというより、遺伝や環境、ホルモン(成長ホルモンなど)などの複合的な要因が背景にあると考えられている)。一方、リスクを低減させるものとして、運動は「確実」とされ、全粒穀類、食物繊維、乳製品、カルシウムサプリメントは「可能性あり」とされている。他方、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDsアスピリンなど)や女性ホルモン補充療法が、大腸がんのリスクを低減させると考えられているが、効果の評価については利益と副作用などの不利益を考慮すべきである。また、近年では喫煙との因果関係が示唆されるようになってきている。炎症性腸疾患、とくに潰瘍(かいよう)性大腸炎によってもたらされる慢性炎症もリスク因子の一つである。

 なお、大腸がんでは、家族歴(直系の親族に大腸がん罹患者がいること)もリスク要因となる。発がん過程でもっとも高頻度にみつかる遺伝子変異は、APCKRASTP53の3遺伝子によるものである。このうち、APC遺伝子変異は腺腫形成に重要な役割を果たし、KRAS遺伝子およびTP53遺伝子の変異は、がんの進展にかかわると考えられている。

 遺伝性の大腸がんとしては、家族性大腸腺腫症(FAP)とリンチ症候群が代表的疾患で、いずれも常染色体顕性遺伝形式をとる。FAPはAPC遺伝子変異が原因で起こるが、全大腸がんの1%未満である。大腸がんの前がん病変である腺腫が全大腸に多発し、40歳代でほぼ50%、放置すれば60歳ごろにほぼ100%に大腸がんが発生する。そのため予防的な大腸切除が行われる。

 リンチ症候群は、遺伝子の異常を修復する役割をもつミスマッチ修復遺伝子の異常により発生する。FAPのように腺腫は多発しないが、一般の大腸がんに比べ若年発症、多発性(同時・異時性)で、右側結腸に好発する。大腸がん以外に、子宮内膜がんをはじめ胃がん、卵巣がんなどを合併することが特徴である。大腸がん全体の1~5%と推定されている。家族にこのような傾向がある場合は、若年時から定期的な大腸内視鏡検査を受けることが推奨されている。

[渡邊清高 2018年6月19日]

分類

病理組織学的分類

大腸がんは、病理組織学的には90%以上が腺がんである。「大腸癌(がん)取扱い規約(第8版)」(大腸癌研究会編)によると、腺がんは、乳頭腺がん、管状腺がん、低分化腺がん、粘液がん、印環細胞がん、髄様がんに分類され、管状腺がんがもっとも多くみられる。

[渡邊清高 2018年6月19日]

浸潤・転移様式

大腸の壁は五つの層に分かれており、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜とよぶ。粘膜に発生した腫瘍はしだいに増大し、漿膜を越えて周辺の臓器に浸潤していく。直腸がんでは膀胱(ぼうこう)・尿管・尿道などの尿路系や、子宮・腟(ちつ)・前立腺・精嚢(せいのう)などの生殖器系への直接浸潤がみられることがある。

 転移の様式はリンパの流れにのるリンパ行性転移と、血液の流れにのる血行性転移がある。増大した腫瘍が腸管を覆う腹膜に表出すると、がん細胞が腹腔(ふくくう)内に散らばる腹膜播種(はしゅ)を起こす。大腸がんの診断の際にすでに遠隔転移を伴っている場合、もっとも頻度が高いのは肝臓への転移で、腹膜、肺がこれに続く。

 大腸がんの治癒を目的とした切除手術後に再発する場合にもっとも頻度の高い部位は、結腸がんでは肝臓、肺への遠隔転移、直腸がんでは局所での再発、肺、肝臓への遠隔転移である。

 結腸がんは門脈血を介して肝臓に転移し、次いで肺転移を生じることが多いが、直腸がんでは内腸骨静脈から下大静脈を経由し血行性転移が起こることから、肝転移を伴わず肺転移をきたすことがある。

[渡邊清高 2018年6月19日]

症状・症候

早期の段階であれば症状はないが、血便や下痢と便秘の繰り返し、残便感、便柱の狭小化(便の形状が細くなること)、慢性的な出血による貧血、腹痛、腹部膨満感、腹部の腫(は)れ、原因不明の体重減少などが出現することがある。とくに右側大腸(盲腸、上行結腸、横行結腸)では進行しても自覚症状が乏しいままで、血便や慢性的な出血による貧血、腹部腫瘤(しゅりゅう)を触知して発見されることが多い。左側大腸(下行結腸、S状結腸、直腸S状部、直腸)では排便時出血、血便や便柱の狭小化などの排便に伴う症状がみられることがある。さらに腫瘍が増大すると腸管狭窄(きょうさく)により排便困難や腹痛、便秘・下痢症状を自覚し、腸閉塞(へいそく)が発見の契機となることもある。直腸がんの場合も無症状であることが少なくないが、血便、便通異常、便柱の狭小化、テネスムス(しぶり腹)などがみられることがある。

[渡邊清高 2018年6月19日]

検査・診断

検査・診断

(1)大腸がん検診
 大腸がん検診は、対象となる集団の大腸がんによる死亡率を減少させる効果が証明されており、実施することが推奨される検診手法として「便潜血検査」がある。対策型のがん検診として、この便潜血検査が実施されている。便潜血検査法により、陽性を契機に無症状でも大腸がんが発見されることもあり、早期発見・早期治療につながっている。

 便潜血検査は便に血液の混入があるか否かをみるもので、日本では、食事制限や内服薬の制限が不要な「免疫法(2日法)」が広く用いられている。陽性であれば、精密検査として下部消化管内視鏡検査や注腸造影検査を行う。

 国民生活基礎調査によると、2016年の大腸がん検診の受診率は男性44.5%、女性38.5%であり、2010年と比べ10ポイント以上上昇しているが、さらなる受診率の向上が望まれる。

(2)原発巣の存在診断
 大腸がんの存在診断には、下部消化管内視鏡検査や注腸造影検査が行われる。

 下部消化管内視鏡検査は、下剤で前処置を行うことで腸管の内容物を排出させ、肛門から大腸に内視鏡を挿入し、大腸を内側から観察して、病変や出血源の有無、腸管の性状を観察する。腫瘍が発見された場合には、その性状、大きさ、広がりや深達度などを調べる。確定診断には病理組織学的な検査と診断が必要であり、大腸内視鏡下生検により、組織片を採取し診断が行われる。ポリープなどの病変の大きさや形状によっては、内視鏡検査とあわせて内視鏡下で切除術が行われることがある(ポリープ切除術、粘膜切除術)。

 注腸造影検査は、あらかじめ下剤による前処置を行い腸管の内容物を排出させ、バリウムなどの造影剤を空気とともに肛門から注入してX線撮影を行い、病変の有無、腸管の性状を観察する。腫瘍が発見された場合には、位置や大きさ、広がりを評価したり、周囲の臓器との位置関係を把握する。注腸造影検査により病変の存在が疑われた場合、いずれにせよ下部消化管内視鏡検査が行われることや、検査の安全性、平坦型病変の検出などに優れること、放射線の被曝(ひばく)がないことから、最近では下部消化管内視鏡検査が広く行われるようになってきている。

 検者が指を肛門から直腸内に挿入し、腫瘤を触知するか等を確認する直腸指診も重要であり、下部直腸では直腸指診のみで腫瘍を検出できる場合もある。

(3)その他の検査
 病変の広がり、他臓器との関係、リンパ節転移や遠隔転移の有無などを評価するために、CT、MRI、腹部超音波検査、胸腹部単純X線検査などが行われる。CTは大腸がんと周囲の臓器の位置関係の把握、肝転移や肺転移、リンパ節転移の有無の評価に有用である一方、深達度の評価には不向きである。MRIはとくに直腸がんの他臓器浸潤を含めた病期診断に有用である。また、超音波内視鏡検査はおもに直腸がんの術前の深達度診断に適している。

 その他、PET-CTは、フルオロデオキシグルコース(FDG)を標識として、遠隔転移の検索や再発病巣の検出を目的に行われる。CTやMRIで転移巣が発見できない場合にも有用である。

 腫瘍マーカーのCEAやCA19-9は、大腸がんを含む腺がんで陽性になることから、診断や治療効果の評価の際に参考にしたり、再発の探索時に画像診断の補助として用いられる。腫瘍マーカー単独で診断することは、偽陽性の問題があり不向きである。

 家族性大腸腺腫症(FAP)やリンチ症候群などの遺伝性大腸がんの存在が懸念される場合、遺伝子検査により、原因となるAPC遺伝子およびミスマッチ修復遺伝子の変異同定が行われる。遺伝子検査を受ける前には、血縁者も含めた遺伝カウンセリングが必要となる。

 分子標的治療薬の一つである抗EGFR抗体薬は、その作用機序によりRASKRAS/NRAS)遺伝子に変異がある場合、抗腫瘍効果が期待されない。そのため、大腸がんの組織を用いてRAS遺伝子変異解析を行い、変異の有無をもとに効果を予測し、RAS野生型(変異のないタイプ)の患者にのみ効果的に投与することが可能となっている。

[渡邊清高 2018年6月19日]

病期分類

大腸の壁は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の五層に分かれている。腫瘍がどの深さまで広がっているかを示すものが「壁深達度」である。これが大腸の粘膜および粘膜下層までのものを早期がん、粘膜下層よりも深いものを進行がんとよぶ。

 病期(ステージstage)とは、がんの進行の程度を示すもので、日本においては「大腸癌取扱い規約」の進行度分類や、国際対がん連合(UICC)のTNM分類に基づいて病期分類が行われている。いずれも壁深達度を示すT因子、リンパ節転移のN因子、および遠隔転移のM因子の三つの因子から分類していく。進行度分類ではステージ0、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲa、Ⅲb、Ⅳの6段階に分類される。腫瘍が大腸の粘膜内にとどまっているものはステージ0、固有筋層までのものはステージⅠ、固有筋層を越えて浸潤しているとステージⅡ、リンパ節転移がみられるとステージⅢ(リンパ節転移3個までがⅢa、4個以上がⅢb)、遠隔転移を認めるとステージⅣとなる。これらの病期分類は予後との関連が認められるが、治療法の選択においては、さらにがんの性状や占拠部位、全身状態、年齢、併存疾患などが考慮される。

[渡邊清高 2018年6月19日]

治療

おもな治療法

大腸がんの治療では、内視鏡治療、外科療法(手術)、薬物療法(抗がん薬治療)がおもに考慮される。治療法の選択には、がんの進行度(病期分類)や全身状態、通過障害(腫瘍のために腸管の内容物が通過しにくくなって起こる便秘などの症状)の有無など、さまざまな要素が考慮される。治療の選択の目安として、「大腸癌治療ガイドライン」(大腸癌研究会編)では、病期ごとに推奨される方法が提示されている。

(1)内視鏡治療
 リンパ節転移の可能性がほとんどなく、腫瘍が一括切除できると判断できる場合、内視鏡治療の適応となる。粘膜内がんまたは粘膜下層への軽度浸潤がんがこれに相当する。内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)は、キノコ状に隆起した腫瘍の茎の部分にスネアとよばれる輪状の細いワイヤーをかけて、高周波電流を流して切り取る。内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、茎をもたない平たい腫瘍の粘膜下層に生理食塩水などを注入し、筋層から持ち上げてからスネアを使って切除する。

 EMRでは切除がむずかしい2~5センチメートルの大きさの腫瘍には、内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)を行う。病変周囲の粘膜下層にヒアルロン酸ナトリウム溶液などを注入して筋層から持ち上げ、専用の電気メスを用いて粘膜下層を剥離していき腫瘍を一括切除する。

 内視鏡治療は大腸の内側から病変を切除するため、開腹で行う手術と比較して治療に必要な入院期間が短く、腸管の機能が温存され、身体への負担の少ない治療といえる。一方で、出血や穿孔(せんこう)などの合併症、病変の遺残が起こる可能性がある。

 切除した組織は病理検査・病理診断がなされ、リンパ節転移やがん遺残の可能性があると判断される場合は、リンパ節郭清(かくせい)を伴う腸管切除が追加で行われる。

(2)外科療法(手術)
 大腸がんに対する手術では、がんのある部位の腸管を周囲のリンパ節とともに切除(リンパ節郭清)する。リンパ節郭清の程度は、深達度やリンパ節転移の有無によって分けられる。手術中にリンパ節転移の有無を病理診断し、そのうえで切除の程度を決定する場合もある(術中迅速診断)。腫瘍の進展の程度が広がれば、郭清を必要とする範囲が広範になる。たとえば、腫瘍が粘膜下層にとどまっているときは、腸管そばのリンパ節と流入する栄養血管に沿った中間リンパ節が郭清される。腫瘍が固有筋層に及んでいる場合には、栄養血管の根元にある主リンパ節まで郭清される。固有筋層を貫く深い深達度のものや、術前・術中診断でリンパ節転移を認める、または疑う場合にも主リンパ節までの郭清が推奨されている。

 結腸がんでは、病変部から両側に10センチメートルほど離れたところの腸管を切除し、両端を吻合(ふんごう)する(つなぎ合わせる)。切除の範囲が小さい場合には術後の機能障害はほとんどみられない。切除する範囲によって、回盲部切除術、結腸右半切除術、横行結腸切除術、結腸左半切除術、S状結腸切除術などがある。開腹手術ではなく、腹腔鏡下手術が行われる場合もある。

 直腸の早期がんでは、直腸局所の切除術が行われることがある。腫瘍が肛門に近い場合は経肛門的切除、さらに奥にある場合は、うつぶせの状態で尻側から切開する経仙骨的切除や経括約筋的切除が行われる。

 前方切除術は、腹側からアプローチして直腸を切除し両端を吻合する一般的な方法で、腸を吻合する位置によって高位前方切除術と低位前方切除術に分けられる。腫瘍が肛門の近くにある場合は、肛門を含めて腫瘍を切除する直腸切断術が行われ、人工肛門(後述)が造設される。括約筋間直腸切除術という、腫瘍を切除して根治性を保ちつつも、肛門括約筋を全部または一部温存可能な特殊な術式もある。直腸付近には排尿機能や性機能の働きを調整する神経(自律神経)があるため、術中に自律神経を確認しながら、根治性が損なわれない範囲での自律神経温存術が行われる。これにより、排泄(はいせつ)・性機能障害が軽減し、術後の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)が向上してきている。

 切除した組織を精査し、リンパ節転移が認められる場合には、再発予防のための術後補助化学療法(後述)が推奨されている。

 手術に伴う合併症として、治療直後には、縫合不全、腸閉塞、創感染などが起こることがある。後遺症としては、手術時の自律神経損傷による直腸膀胱障害、性機能障害がみられることがある。また、直腸を温存した場合でも、排便障害が生じる場合もある。

(3)薬物療法(抗がん薬治療)
 薬物療法(抗がん薬治療)には、手術後の再発抑制を目的とした術後補助化学療法と、切除不可能な進行・再発大腸がんを対象にした症状緩和を目的とした薬物療法がある。

 大腸がんに対する化学療法の基本となる薬剤はフルオロウラシル(5-FU)であり、内服、静脈注射(静注)、点滴による持続静注の3種類の投与法がある。体内で代謝されて5-FUとなり薬効を示す内服薬には、テガフール・ウラシル配合剤(UFT)、ドキシフルリジン(フルツロン)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤S-1(TS-1)、カペシタビン(ゼローダ)、トリフルリジン・チピラシル塩酸塩(ロンサーフ)などがある。5-FUの注射薬はレボホリナート(アイソボリン)とともに用いられ、これにオキサリプラチン(エルプラット)を組み合わせたものをFOLFOX(フォルフォックス)療法、イリノテカン(トポテシン、カンプト)と組み合わせたものをFOLFIRI(フォルフィリ)療法といい、大腸がんに対する化学療法として広く実施されている。

 また近年、分子標的治療薬という新しいタイプの抗がん薬が用いられるようになっている。細胞増殖シグナル経路やがん細胞に特異的に発現している分子を標的とした治療薬であり、従来の殺細胞性の化学療法と併用したり、単独で用いられる。大腸がんに対して用いられる分子標的治療薬には、ベバシズマブアバスチン)、ラムシルマブ(サイラムザ)、アフリベルセプト(ザルトラップ)、レゴラフェニブ(スチバーガ)などがある。RAS遺伝子変異のない野生型の大腸がんに対しては、セツキシマブアービタックス)やパニツムマブ(ベクティビックス)が用いられることがある。

(a)術後補助化学療法
 術後補助化学療法は、治癒・切除後の再発を抑制し予後を改善する目的で、手術後に行われる全身化学療法である。ステージⅢの大腸がん、または再発リスクが高いステージⅡの大腸がんに対し、肝臓や腎臓などの主要臓器機能が保たれている場合に行われる。手術後4~8週目から経口(内服)あるいは経静脈的に抗がん薬の投与が開始され、一定期間継続される。

(b)症状緩和を目的とした薬物療法(抗がん薬治療)
 手術による切除が不可能と判断された進行・再発大腸がんに対する薬物療法の目標は、腫瘍の増大を遅らせ、延命と症状コントロール(症状の緩和)を行うことである。適応となる転移部位は、肝臓、肺、リンパ節、腹膜、局所などがある。主要臓器の機能が保たれていて、病巣が画像検査で評価できる場合に実施される。薬物療法が奏効し、切除可能と判断された場合には手術が実施されることもある。

 薬物療法が奏効する場合や、腫瘍の増大が抑えられて状態が安定しており有害事象(副作用)が許容される場合は、原則として同じ薬物療法が継続される。病変の増大や新たな病変の出現、有害事象の出現などにより継続が困難となった場合には、別の治療方法(レジメン)が検討される。

 薬物療法の選択は、腫瘍因子(腫瘍の大きさ、分布、転移の有無、過去の治療に対する効果の程度など)と患者因子(全身状態、主要な臓器の機能、併存疾患の有無、有害事象発生のリスク、本人の意向など)の両面から、十分なインフォームド・コンセントのもとで検討される。

(4)放射線療法
 放射線療法についても、手術の補助的な位置づけで行われるものと、症状の緩和を主目的に行われるものがある。

(a)補助放射線療法
 補助放射線療法は、直腸がんに対する手術後の再発抑制や、術前の腫瘍量減少、肛門機能の温存を目的に行われる。照射の時期によって術前照射、術中照射、術後照射に分けられる。薬物療法(抗がん薬治療)と併用して行われる場合もある。

(b)緩和的放射線療法
 緩和的放射線療法は、切除不能進行・再発大腸がんの症状緩和や延命を目的として行われる。骨盤内病変による痛み(疼痛(とうつう))、出血、通過障害の緩和や、骨転移による痛み、脳転移による神経症状などを改善する目的で行われる。

[渡邊清高 2018年6月19日]

進行・再発した大腸がんに対する治療

(1)進行した大腸がんに対する治療方針
 進行した大腸がんでは、肝転移、肺転移、腹膜播種、脳転移、遠隔リンパ節転移、骨・副腎・脾臓(ひぞう)などへの転移がみられる。全身状態や病変による症状の有無、治療に伴う効果(症状の緩和、予後の向上など)などを踏まえて治療方針が検討される。

 転移巣・原発巣ともに切除可能な場合には両方の切除が行われることがある。転移巣は切除できないが原発巣の切除が可能な場合は、原発巣の臨床症状や予後への影響を考慮のうえ原発巣のみ切除し、転移巣に対しては薬物療法や放射線療法など他の治療法が実施される。原発巣の切除が不可能な場合は、原則として手術は行われず、薬物療法や放射線療法など他の治療法が選択される。

 原発巣が残存している場合には、経過とともに腸閉塞・出血といった症状がみられることがあり、バイパス手術、人工肛門の造設などが行われる場合がある。

 進行大腸がんで切除不能と判断され、薬物療法(抗がん薬治療)による治療が先行する場合でも、治療が奏効し切除が可能になる事例もあり、その場合、根治やQOLの向上を目ざした手術が検討される。

(2)再発した大腸がんに対する治療方針
 再発した大腸がんに対する治療の目的は、生命予後の延長とQOLの改善である。病変の分布や再発様式、全身状態、期待される予後、治療後のQOLなどさまざまな要素が考慮され治療方針が検討される。

 再発臓器が限られ、手術で切除が可能である場合には積極的な治療が考慮される。手術治療が行われるのは、再発臓器が一つで切除可能な場合が原則であるが、再発が2臓器以上であっても実施されることもある。切除不可能な場合は、薬物療法(抗がん薬治療)のほか、局所療法として肝動注療法、熱凝固療法、放射線療法などが行われる。

[渡邊清高 2018年6月19日]

血行性転移に対する治療方針

大腸がんの血行性転移には、肝転移、肺転移、脳転移、その他の臓器(骨、副腎、皮膚、脾臓など)への転移がある。原発巣の切除後、あるいは薬物療法によって制御可能、転移巣に対する治療により症状緩和が期待される場合に、転移巣への治療が検討される。

(1)肝転移
 転移巣をすべて切除でき、術後の肝臓の機能が保たれ、かつ手術に耐えられると判断される場合には、肝転移巣の切除が考慮される。転移巣の数、大きさ、分布、肝機能を踏まえて手術の可能性が検討される。全身状態が良好であっても切除が不可能であれば、薬物療法(抗がん薬治療)が考慮される。

 手術以外の局所療法としては、肝動注療法、熱凝固療法、ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法、放射線療法などがある。薬物療法の奏効により、切除可能となる場合もある。全身状態が不良な場合は対症療法(症状に応じた治療)が行われる。

(2)肺転移
 転移巣をすべて切除でき、術後の呼吸機能が保たれ、かつ手術に耐えられると判断される場合には、肺転移巣の切除が考慮される。転移巣の数、大きさ、分布、呼吸機能などを踏まえて切除範囲が検討される。全身状態が良好であっても切除が不可能であれば、薬物療法が考慮される。

 手術以外の局所療法としては、放射線治療などがある。全身状態が不良な場合は対症療法が行われる。

(3)脳転移
 脳転移を有する大腸がん患者の9割は他の臓器への転移も伴っており、脳転移に対する切除を行っても予後の改善効果は限られる。治療による効果が期待される場合には脳転移に対する治療が検討される。治療効果が期待される病変について、脳転移切除または放射線療法が行われる。転移巣の部位、大きさ、分布、数、全身状態、他臓器への転移、年齢、神経症状や頭蓋(とうがい)内圧亢進(こうしん)症状(頭痛、嘔気(おうき)、意識障害など)の有無などを考慮し治療方針が検討される。放射線療法には全脳に広く照射する全脳照射と、CTやMRIなどの画像をもとに小さい範囲に限局して放射線を照射する定位放射線照射がある。

[渡邊清高 2018年6月19日]

経過・予後

大腸がんの経過は、がんの進展に伴う局所の症状に加え、遠隔転移などに伴う全身状態の悪化が予後の規定因子となることが多い。

 大腸癌研究会「全国大腸癌登録調査」およびプロジェクト研究によると、ステージ別の5年生存率は、ステージⅠ 91.6%、ステージⅡ 84.8%、ステージⅢa 77.7%、ステージⅢb 60.0%、ステージⅣ 18.8%と報告されている。全ステージでは72.1%である。

 ステージⅣの遠隔転移巣切除可能例の5年生存率は、肝転移切除後で39.2%、肺転移切除後で46.7%となっている。

 再発は術後3年以内に約80%以上、術後5年以内に95%以上が出現する。一方で、術後5年を過ぎての再発は1%以下にとどまっている。再発の多い部位は、肝臓、肺、局所再発である。粘膜内がんは転移せず、腫瘍を完全に切除すれば再発することはないが、粘膜下層まで浸潤したがんの再発率は約1%、固有筋層まで浸潤したがんでは6.4%である。ステージⅡの再発率は13.3%、ステージⅢでは30.8%である。

 進行・再発大腸がんでは、進行に伴いさまざまな症状が生じることがある。原発巣による腸管の通過障害、腹膜播種による腹部膨満、疼痛(痛み)、食欲不振、肝転移による肝機能障害・黄疸(おうだん)、肺転移による咳(せき)・呼吸困難、脳転移による頭蓋内圧亢進症状、腹部・骨盤のリンパ節転移による疼痛・下腿(かたい)浮腫、骨転移による疼痛などである。

 近年の分子標的治療や治療の副作用を軽減する支持療法など、がん治療の進歩に伴い、治療効果の向上、再発の抑制、症状緩和などさまざまな効果が期待できるようになってきている。

[渡邊清高 2018年6月19日]

その他

人工肛門(ストーマ)

人工肛門とは人工的に造設された便の出口をさす。腸の一部を腹壁まで表出させ便を体外に出せるようにしたもので、一時的人工肛門と永久人工肛門の2種類がある。

 一時的人工肛門は、腸吻合時(手術で病変を切除したあとに残った腸管をつなぎ合わせること)に縫合不全の危険性が高いとき、または実際に縫合不全が起こった場合に、吻合部の上流の腸管、多くは横行結腸または回腸に造設される。造設後3~4か月以降に、縫合不全がないことを確認して閉鎖され、その後は本来の肛門から排便できるようになる。

 永久人工肛門は、おもに直腸がんなどの手術時に、多くはS状結腸を用いて左中腹部に造設される。手術に伴って本来の肛門からの便の排泄が望めなくなる場合に半永久的に使用することを前提につくられるもので、術後は患者自身による人工肛門管理(ストーマケア)が必要となる。

 管理の方法として、人工肛門部にストーマ袋(パウチ)を貼って便を収集する自然排便法が一般的であるが、人工肛門から微温湯を入れて腸管を刺激し排便を促す灌注(かんちゅう)排便法もある。

 医師や専門の看護師によって造設前からストーマについての説明やケアの指導が行われるが、退院後も引き続き支援が受けられるようストーマ外来を設けている医療機関もある。永久人工肛門造設者は身体障害者手帳の交付対象となっており、手帳の交付を受けることで、日々のストーマ管理に必要な装具や用品について、費用の助成を受けることができる。

 日本オストミー協会は全国に支部がある障害者団体で、人工肛門・人工膀胱保有者の社会復帰やQOL向上に向けた幅広い活動を行っている。

[渡邊清高 2018年6月19日]

大腸がんの発生部位による違い

近年の研究で、大腸がんは原発巣の発生する部位によって予後や治療効果に差がある可能性が指摘されている。

 右側の結腸がん(上行結腸、横行結腸)と左側の結腸がん(下行結腸、S状結腸)の予後を比較した研究では、左側に比べて右側の結腸がんリスクが有意に高く、予後が悪いことが複数の研究で明らかになった。肛門に近いS状結腸や直腸では下血や血便、下痢、便柱狭小などの症状が出現し診断のきっかけになる一方で、上行結腸では慢性的な出血による貧血や腹部腫瘤などが現れてから診断されることが多いことが背景として考えられるが、一方で臨床病期によって補正した場合でも予後は右側結腸がんのほうが不良であった。

 別の研究では、EGFR(上皮成長因子受容体)経路を阻害する薬剤であるセツキシマブによる治療効果は左側結腸においてより高く、VEGFR(血管内皮細胞増殖因子受容体)経路を阻害する薬剤であるベバシズマブによる治療効果は右側結腸においてより高いことが明らかになっており、大腸がんのなかでも、原発部位によって予後や薬剤の効果が変わりうる可能性が示唆されている。

 発生学的には、右側結腸は中腸midgut由来、左側結腸は後腸hindgut由来であり、支配する血管も前者は上腸間膜動脈、後者は下腸間膜動脈と異なり、こうしたことも大腸がんの進展様式、治療への反応性、さらには予後に関連している可能性が示唆されている。

 こうしたことから、同じ大腸がんであっても、原発部位をもとに治療の効果をあらかじめ予測することで、より効果的な治療に結びつく可能性があると期待されている。

[渡邊清高 2018年6月19日]

『大腸癌研究会編『大腸癌取扱い規約』第8版(2013・金原出版)』『大腸癌研究会編『患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2014年版』(2014・金原出版)』『大腸癌研究会編『遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2016年版』(2016・金原出版)』『〔WEB〕大腸癌研究会『「全国大腸癌登録」報告書』』『〔WEB〕禁煙の健康影響に関する検討会編『喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書』pp.140~147(2016・厚生労働省)』『〔WEB〕国立がん研究センターがん情報サービス『がん登録・統計』』

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六訂版 家庭医学大全科 「大腸がん」の解説

大腸がん
だいちょうがん
Colon cancer
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 大腸は消化吸収が行われた食べ物の最終処理をする消化管で、主に水分を吸収します。長さは約1.8mで口側から肛門側に盲腸(もうちょう)、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸に分けられます。この部位に悪性腫瘍が発生した場合に大腸がんと呼びます。

 大腸がんは食事の欧米化、とくに動物性脂肪や蛋白質の過剰摂取などにより、日本でも近年急速に増えています。毎年約6万人が罹患(りかん)し、胃がんを追い抜くのは時間の問題といわれています。日本人では直腸とS状結腸に多く発生します。罹患の頻度は男性、女性ともに同じで、60代がいちばん多く、70代、50代と続きます。若年者の大腸がんでは遺伝的な素因もあるようです。

原因は何か

 大腸がんの発生原因はまだわかっていませんが、疫学を中心とした研究から、大腸がんの発生は欧米食の特徴である高脂肪、高蛋白かつ低繊維成分の食事と正の相関関係にあり、生活様式が強く関係していることが明らかになっています。また、大腸がんは腺腫(せんしゅ)(一般的な大腸ポリープ)からがんが発生するものと、腺腫を介さず直接粘膜からがんが発生するものが考えられています。

 遺伝子学的解析では、多くの遺伝子の異常の蓄積によりがんが発生することがわかっています。まずAPC遺伝子の変異により腺腫が形成され、ついでK­ras遺伝子の突然変異により腺腫が大きくなり異型度(細胞の悪性度)が増します。それにがん抑制遺伝子のp53遺伝子とDCC遺伝子の変異が加わって、がんへ進むとされています。

 また、遺伝的要因の明らかなものには家族性大腸腺腫症(かぞくせいだいちょうせんしゅしょう)家族性大腸ポリポーシス)と遺伝性非ポリポーシス大腸がんがあります。

症状の現れ方

 早期の大腸がんではほとんど自覚症状はなく、大腸がん検診や人間ドックなどの便潜血検査で見つかることがほとんどです。進行した大腸がんでは、腫瘍の大きさや存在部位で症状が違ってきます。

 右側大腸がんでは、管腔が広くかつ内容物が液状のために症状が出にくく、症状があっても軽い腹痛や腹部の違和感などです。かなり大きくなってから腹部のしこりとして触れたり、原因不明の貧血の検査で発見されることもあります。

 左側大腸がんでは、比較的早期から便に血が混ざっていたり、血の塊が出たりする症状がみられます。管腔が狭く内容物も固まっているため、通過障害による腹痛、便が細くなる、残便感、便秘と下痢を繰り返すなどの症状が現れ、放っておけば完全に管腔がふさがって便もガスも出なくなり、腸閉塞(ちょうへいそく)と呼ばれる状態になります。

 直腸がんでは左側大腸がんとほとんど同様の症状がみられますが、肛門に近いために痔と間違えられるような出血があり、痔と思われて放置されることもあります。また、直腸がんでは近接している膀胱や子宮に浸潤(しんじゅん)すると、排尿障害や血尿、腟から便が出たりするなどの症状がみられることもあります。

検査と診断

 大腸がんは、早期に発見できればほぼ100%近く完治できる病気ですが、早期の大腸がんでは症状がありません。無症状の時期にがんを発見するには、便の免疫学的な潜血反応を調べます。簡単に行えて体に負担のない検査ですが、陽性と出ても必ず大腸がんがあるわけではなく、逆に進行した大腸がんがあっても陰性になることもあります。

 排便時の出血や便通異常がある場合には、血液検査で貧血がないかどうか、また腹部のX線検査でガスの分布の状態を調べます。腹部の触診では腫瘤(しゅりゅう)(こぶ)を触れることがあり、直腸がんでは肛門から指を入れて触るだけで診断できることもあります。

 確定診断をするためには、食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れて空気で大腸をふくらましX線写真を撮る注腸検査と、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔を観察する大腸検査が必要です(図25)。大腸内視鏡検査は挿入技術の進歩と器械技術の進歩により、苦痛も少なくかつ安全にできるようになっています。

 内視鏡検査では、直接大腸の内側を観察し、異常があれば一部をつまみ取って顕微鏡で悪性かどうかを調べます(生検)。ポリープやごく早期のがんであれば内視鏡で簡単に治療が可能で、診断と治療を同時に行うことも可能です。最近では、内視鏡治療である粘膜下層剥離(はくり)術が発達し、従来の内視鏡での治療が困難な早期のがんにも行えるようになっています。

 また、がんの進行度によっては、周囲の臓器への広がりや肝臓やリンパ節への転移の有無を調べるために腹部の超音波やCT、MRI、超音波内視鏡検査を行うこともあります。

治療の方法

 大腸がんの治療の原則は、がんを切除することです。大腸の壁は内腔側より粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)となっています。がんが粘膜下層までにとどまっているものを早期がんといいますが、早期がんのなかでも粘膜下層の浅いところまでであれば転移の心配はなく、内視鏡での治療が可能です。また、肛門に近いところにできた早期の直腸がんでは経肛門的手術を行います。

 リンパ節転移の可能性があり内視鏡治療ができないのものや進行したがんでは、外科手術が必要です。手術では開腹し、腫瘍を含めた大腸の一部を切除してリンパ節の郭清(かくせい)(きれいに取り除く)を行い、残った腸を吻合(ふんごう)(つなぎ合わせる)します。

 また最近では、小さな傷で手術ができる腹腔鏡を用いた治療が急速に普及してきており、早期がんばかりではなく隣接臓器に浸潤していない進行がんに対しても行われるようになってきています。

 進行した直腸がんでは、肛門から離れている場合には肛門の筋肉が温存できる低位前方(ていいぜんぽう)切除術が行われ、最近ではさらに、術後の性機能や排尿機能を温存するように必要最低限の手術が行われています。それ以外では人工肛門が必要なマイルス法で手術が行われます。

 人工肛門もさまざまな装具が開発されており、普通に社会生活が送れるようになっています。

 がんが広がりすぎていて切除不能な場合には、抗がん薬を用いた化学療法、放射線療法、免疫療法などが行われます。

病気に気づいたらどうする

 大腸がんは早期に発見できれば、そのほとんどが内視鏡的に、または外科的に根治可能な病気です。早期大腸がんの5年生存率は80%以上と極めてよく、進行がんでもがんの浸潤の程度とリンパ節転移の程度により予後が変わってきます。また、大腸がんは肝臓にいちばん転移しやすいのですが、肝臓転移が見つかっても、肝臓を手術したり抗がん薬を注入したりして長期に生存することも可能です。

 40歳を過ぎたら、症状がないうちに大腸がんの検診を受けるようにします。また、血便や便通異常などの症状がみられたら、すぐに専門医で検査を受けるようにします。

坂田 祐之, 藤本 一眞


大腸がん
だいちょうがん
Colorectal cancer
(お年寄りの病気)

高齢者の大腸がんの特徴

 大腸がんの発生頻度は加齢とともに増加する傾向があります。東京都老人医療センターの連続剖検の5082件の検索では、60代では5.6%、70代では4.9%、80代では6.4%、90歳以上では7.1%に大腸がんが認められたと報告されています(金沢暁太郎:老人の大腸癌、クリニカ1998、25)。また最近の10年ではその前の10年に比較して1.5倍程度の増加を示しています。

 高齢者の大腸がんの特徴として、近位側結腸つまり右側のがんの頻度が増加すること、および多発がんの頻度が増すことがあげられます。

手術適応について

 75歳以上の患者さんの大腸・直腸がんの術後の生存状況をみると、高齢者でも大腸がんを切除することによって死亡率の低下や長期生存が得られていることがわかります。90歳以上の進行大腸がん手術は、出血および腸閉塞により緊急手術となる頻度が高いのですが、切除率や手術死亡率は70代と同様であり、積極的に治癒切除をするべきとする報告もあります。したがって、高齢者の大腸がんは積極的に手術するべきと考えます。

根治性手術の考え方

 大腸がんではリンパ節郭清のレベルを上げても、胃がんのように手術そのものが大きく変わることはなく、手術時間、出血量、手術侵襲が大きく増すことはありません。また、術後の食事摂取に支障のないことが多いため、高齢者でも重篤な合併症がなく、根治性の期待できる進行がんの場合には2群以上の系統的リンパ節郭清(D2)を伴う根治手術を行うべきであるとする報告もあります。

 すなわち、高齢者に対する外科医としての実感やこれまでの報告からは、胃がんと違って高齢であるという理由によって根治性を落とした手術をする必要はないと思われます。根治性を落とすべきなのは、併存する合併症に対してであり、これは年齢に対してではない、ということです。

人工肛門の造設と管理

 高齢者では大腸がんの緊急手術の頻度が非高齢者に比較して有意に高いことや、合併症があったり全身状態が悪かったりすることが多いことなどから、下行結腸(かこうけっちょう)、S状結腸、上部直腸の腫瘍を切除しても、一次的に結腸の吻合(ふんごう)をしないで、肛側断端の結腸を閉鎖し口側断端の結腸を人工肛門造設に用いる、ハルトマン手術が行われる場合があります。また寝たきりの状態にある患者さんで大腸がん術後の排便の介護に多大な労力を要する時には、管理の容易な人工肛門(消化管ストーマ)を造設することになります。このような理由で高齢者は人工肛門増設の機会が増えます。

 高齢者では動作の緩慢(かんまん)化、視力・聴力などの各感覚機能の低下、記憶力、判断力、理解力の低下などがあるため、人工肛門の自己管理を進めていくうえで、数々の困難があります。患者さんに人工肛門を提示して、必要なことをポイントをしぼって繰り返し説明することが重要です。家族や介護者を含めた周囲の理解が必要です。

大腸がん
だいちょうがん
Colon cancer
(遺伝的要因による疾患)

遺伝性の大腸がんについて

 大腸がんは、家族性に発生することの比較的多い病気です。数%程度が遺伝性と考えられています。そのうち、遺伝的な原因が明らかになっている家族性大腸腺腫症(かぞくせいだいちょうせんしゅしょう)遺伝性非(いでんせいひ)ポリポーシス(せい)大腸がんについて解説します。

小杉 眞司

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

四訂版 病院で受ける検査がわかる本 「大腸がん」の解説

大腸がん

 人口の高齢化と食生活の欧米化の影響で、日本でも大腸がんが急激に増えています。同時に、診断技術の進歩、内視鏡による治療や外科手術の進歩によって治療成績も飛躍的に向上しています。大腸がんは、がんのできた部位によって、上行結腸がん、横行結腸がん、下行結腸がん、S状結腸がん、直腸がんに分けられますが、直腸がんとその他の大腸がんとでは、検査手順が少し異なります。

●おもな症状

 血便、腹部膨満ぼうまん感、腹痛、粘液便、がんこな便秘、また、下痢と便秘が交互に現れる、便が細くなるなど。ただし、これらすべてはがん特有の症状ではなく、とくに血便ではのケースが多いので、鑑別が重要です。

①便潜血反応(数回行う)/直腸指診/腫瘍マーカー

  ▼

②下部消化管X線造影

  ▼

③下部消化管内視鏡/生検(病理診断)

便潜血反応は繰り返し行うと効果的

 大腸がんを疑うような症状があった場合は、その後の検査・診断方法を選択するためにも、まず問診が重要になります。どのような症状がどのくらい続いたかをくわしくきいていきます。大腸ポリープの有無も重要な情報です。また、わずかですが、家族性に発生する大腸がんもあるため、家族歴にも注意が必要です。

 検診では、1990年代から便潜血反応(→参照)が行われていて、第一次のスクリーニング(ふるい分け)として効果を発揮しています。ただし、便潜血反応は何回か繰り返して行わないと確かなことはわかりません。

 腫瘍マーカー(→参照)はいろいろなものが開発されていますが、検出率に問題があって早期がんの診断には向いていません。それらのうちで、CEA、CA19-9、TPAは比較的高い率で陽性になり、大腸がんではそれぞれ50~60%、40~50%、55~65%となっています。これらを組み合わせて検出率を高めると、陽性率は70%程度にまでなります。

 直腸がんでは、肛門から10㎝程度までの部分にできたがんは触診(直腸指診)で確認できます。また、直腸鏡検査は外来で行うことが可能です。

ポリープ状のものは内視鏡下で切除も可能 

 便潜血反応で疑わしい所見があった場合は、まず下部消化管X線造影(→参照)が行われます。隆起があったりポリープ状のものは、X線造影でよくわかります。

 下部消化管内視鏡(→参照)が最終検査ですが、近年は最初から内視鏡を行うことが多くなっています。

 内視鏡は、X線造影では発見できない色調の変化や小さな病変をみつけることができます。同時に疑わしい病変があれば、その組織を採取(生検せいけん)して病理診断を行います。悪性と判断がついたポリープ状の腫瘍は、内視鏡観察下で切除することも可能です(ポリペクトミー)。また、胃がんと同様、大腸がんでも超音波内視鏡の検査が行われてきています。

出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報

食の医学館 「大腸がん」の解説

だいちょうがん【大腸がん】

《どんな病気か?》


 大腸(だいちょう)がんは欧米型のがんといわれてきましたが、近年は、食生活の欧米化によって、日本でも肉類などの動物性脂肪の摂取が多くなり、発症率が高まっています。
 初期の症状は、発生部位にもよりますが、便に血液や粘液が混じる、便秘(べんぴ)がちになる、貧血(ひんけつ)症状、腹痛、下痢(げり)などがあります。大腸がんのなかでも発生しやすい部位は直腸(ちょくちょう)とS状結腸(えすじょうけっちょう)で、大腸がん全体の60~70%を占めます。この場合は出血や下痢が多くみられます。

《関連する食品》


〈動物性脂肪をひかえ、食物繊維を多くとる〉
○栄養成分としての働きから
 動物性脂肪を多く摂取することで、胆汁(たんじゅう)と腸内細菌が作用しあってがんを発生させること、排便を促進する食物繊維の摂取量が相対的に減少してしまうことが、大腸がんの原因となります。まずは動物性脂肪をひかえることが第一で、ゴボウやタケノコなど、食物繊維を積極的に摂取することが必要です。
 緑黄色野菜には、食物繊維と同時にカロテンも豊富に含まれています。カロテンは、動物実験で抗腫瘍効果(こうしゅようこうか)が確認されているので、ニンジン、ホウレンソウ、コマツナなど、料理の付け合わせに使用して、じょうずに摂取しましょう。
 また、摂取した脂肪が酸化することで、過酸化脂質(かさんかししつ)になり、細胞を傷つけることがあります。この酸化を防ぐには、ショウガの辛み成分であるジンゲロンが有効です。薬味としてだけでなく、煮ものや焼きものなどにも積極的に利用しましょう。

出典 小学館食の医学館について 情報

家庭医学館 「大腸がん」の解説

だいちょうがん【大腸がん】

 大腸がんというのは結腸(けっちょう)がんと直腸(ちょくちょう)がんの総称です。
 結腸がんは、がんのできる場所によって、盲腸(もうちょう)がん、上行結腸(じょうこうけっちょう)がん、横行結腸(おうこうけっちょう)がん、下行結腸(かこうけっちょう)がん、S状結腸がんに分かれます。
 大腸がんの大部分は腺(せん)がんという種類のがん腫(しゅ)です。ほかに肉腫(にくしゅ)やカルチノイドがありますが、これらはまれなもので、大腸悪性腫瘍全体の1%にすぎません。
 大腸がんは近年増加しているがんの1つです。その原因としては、生活様式、とりわけ食生活の西洋化(高脂肪・低繊維食の摂取)が大きく影響していると考えられています。かつての日本人の大腸がんには直腸がんが多かったのですが、近年は欧米人のように結腸がんのほうが多くなってきています。
 大腸がんの多くは腺腫(せんしゅ)という良性のポリープから発生すると考えられていますが、腺腫を経ずに大腸粘膜(だいちょうねんまく)から直接発生するがんもあることがわかってきました。
 なお、大腸がんには、がんの発生に遺伝が密接に関与している遺伝性大腸がんもあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

知恵蔵 「大腸がん」の解説

大腸がん

食生活の欧米化に伴って増加しており、高脂肪食、低繊維食が危険因子。家族性大腸ポリポーシスや遺伝性非ポリポーシスのように遺伝性のがんもあり、それぞれ全大腸がんの約1%、5%を占める。非遺伝性の多くは、ポリープを経てがんになる。出血、便通異常、腹痛、腫瘤触知が4大症状。便に血が混じっている時、人間ドックで便の潜血反応を指摘された時は、精密検診が必要。レントゲン検査、内視鏡でポリープが発見された場合は、内視鏡下で摘出できるが、大きな腫瘍になると手術で摘出しなければならない。人工肛門が必要となる場合もある。がんが再発した時、または、肝臓や肺等に転移した時は化学療法を行う。5FUとその誘導体の制がん剤が最も有効で、一般的。

(黒木登志夫 岐阜大学学長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

栄養・生化学辞典 「大腸がん」の解説

大腸がん

 大腸に発生したがん.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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