天衣無縫(読み)てんいむほう

精選版 日本国語大辞典 「天衣無縫」の意味・読み・例文・類語

てんい‐むほう【天衣無縫】

〘名〙 (形動)
① (「霊怪録」の「郭翰、乗月臥庭中、仰視空中、有人冉冉而下、曰、吾天上織女也。徐視其衣竝無縫。翰問之、曰、天衣本非針線也」による) 天人着物に縫い目のような人工の跡がないこと。転じて、文章詩歌などに技巧のあとが見えず、ごく自然にできあがっていてしかも完全で美しいこと。また、そのさま。
※筆まかせ(1884‐92)〈正岡子規〉一「此詩の如き真個の唐調にて天衣無縫ともいはんか」
人柄などが、天真爛漫であること。また、そのさま。
スタンダールの小説主張(1943)〈大井広介〉「味方の策戦からすらずれて終ふ、天衣無縫なファブリスの希求が浮びあがる」

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デジタル大辞泉 「天衣無縫」の意味・読み・例文・類語

てんい‐むほう【天衣無縫】

[名・形動]《「霊怪録」による》
天人の衣服には縫い目のあとがないこと。転じて、詩や文章などに、技巧のあとが見えず自然であって、しかも完全無欠で美しいこと。また、そのさま。「天衣無縫な(の)傑作
天真爛漫てんしんらんまんなこと。また、そのさま。「天衣無縫に振る舞う」
九連宝灯チューレンパオトウ
[類語]無邪気うぶういういしいあどけないいたいけ無心天真爛漫イノセント罪が無い

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四字熟語を知る辞典 「天衣無縫」の解説

天衣無縫

作品や人柄に作為が見えず、ごく自然な感じ、また無邪気な感じで、好ましいこと。

[活用] ―な・―に・―だ。

[使用例] 神になった茂造は天衣無縫で、便所などという汚れた所へ行かなくなった代り、はいせつは時と所を選ばない[有吉佐和子こうこつの人|1956]

[使用例] 此奴こいつの天衣無縫の可哀らしさは、生れつきのものだが、俺の胸の底にある、秘密な、恋のようなもの……この俺の中の感情は、恋としか、言いようがないようだ[森茉莉*甘い蜜の部屋|1975]

[使用例] 気前のいい女経営者も、だんだん出ししぶったが、天衣無縫ともいうべき土岐の甘ったれ根性に押しきられたかたちで、けっきょくはいなりになった[青山光二*われらが風狂の師|1981]

[解説] 宋代の「太平広記」に引用された「霊怪集」の話が出典です。
 かくかんという青年が、ある夏の夜に庭で寝ていると、天上から美しいたなばたの織女が舞い降りてきました。事情を聞くと、「長らく夫(けんぎゅう)に会えないので、地上に遊びに来た」と言います。そして、あろうことか、ふたりはそのまま一夜をともにしてしまいます。
 織女は夜ごとにやって来て、郭翰と密会を重ねます。あるとき、郭翰は織女の衣に縫い目がないのに気づき、理由を尋ねました。織女は「天人の衣は針と糸を使わずに作るのです」と答えました。
 これが「天衣無縫」、天人の衣に縫い目がない、という成句になりました。この衣のように作為のない自然な感じや、無邪気な感じのことを言います。
 「天衣無縫」の意味には、織女の性質も反映されているようです。夫に会えないからといって浮気をすることに疑問を感じない、織女の浮き世離れした様子は、まさに「天衣無縫」です。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「天衣無縫」の意味・わかりやすい解説

天衣無縫
てんいむほう

天女の衣服には縫い目などといった人の手が施されていないとの意で、詩文などが流れるように自然で、技巧が目につかず、すこしの抵抗も感じないことをいう。『霊怪録』に、郭翰(かくかん)という人が、ある夏の夜、庭に寝転んで空中を見ていると、織女が天下ってきたので、よくよくその着衣を見てみると、縫い目がまったくない。そこでそのわけを尋ねると、織女が「天衣はもともと針と糸(針線)でつくったものではない」と答えたとある、による。

[田所義行]

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