安居(読み)アンゴ

デジタル大辞泉 「安居」の意味・読み・例文・類語

あん‐ご【安居】

[名](スル)《〈梵〉vārṣikaの訳。雨季の意》仏語。僧が、夏、1か所にこもって修行すること。陰暦4月16日から7月15日までの3か月間で、この期間を一夏いちげという。雨安居うあんご夏安居げあんご夏行げぎょう夏籠げごもり。あんきょ。 夏》冬安居とうあんご

あん‐きょ【安居】

[名](スル)
気楽にのんびり暮らすこと。
「本国に在りて―なす国民に比して」〈独歩愛弟通信
現在の状態に安心していること。「今の繁栄に安居してはならない」
あんご(安居)

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精選版 日本国語大辞典 「安居」の意味・読み・例文・類語

あん‐ご【安居】

〘名〙 (vārṣika の訳で、雨期の意。「あんこ」とも)
① 仏語。インドで夏の雨期の間(四月一六日から七月一五日まで)僧が一定の場所にこもり、遊行(ゆぎょう)中の罪を懺悔し、修行した年中行事。日本では毎年四月一五日から七月一五日までの夏季九〇日間、経典の講説が行なわれた。安居の開始を結夏結制、終わりを解夏(げげ)・解制という。あんきょ。安居一夏(あんごいちげ)。一夏九旬(いちげくじゅん)。夏講(げこう)夏安居(げあんご)雨安居(うあんご)。夏行(げぎょう)。夏臈(げろう)。《季・夏》
書紀(720)天武一二年七月(北野本訓)「庚寅に鏡姫王薨せぬ。是の夏に、始めて僧尼を請せて、宮中(みやうち)に安居(アンコ)す」
今昔(1120頃か)三「今昔、天竺に仏の御弟子達、所々の安居畢(をはり)て」
日葡辞書(1603‐04)「アンキョ、または、anco(アンコ)。ヤスク イル」

あん‐きょ【安居】

〘名〙
① 心安らかに暮らすこと。落ち着いた生活をすること。
将門記(940頃か)「然る後に兵の事を忘れ却(しりぞ)けて後に絃(ゆみつる)を緩へて安居しぬ」
太平記(14C後)二四「誠(げ)にも近年四海半(なかば)は乱て一日も安居せず」 〔孟子‐滕文公・下〕
② (「あんご」の漢音読み) =あんご(安居)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「安居」の意味・わかりやすい解説

安居
あんご

仏教の出家修行者たちが雨期に1か所に滞在し、外出を禁じて集団の修行生活を送ること。サンスクリット語バルシャーバーサvārāvāsaの訳。雨(う)安居、夏(げ)安居ともいう。インドの雨期はだいたい4か月ほどであるが、そのうち3か月間(4月16日~7月15日、または5月16日~8月15日)は、修行者は旅行(遊行(ゆぎょう))をやめて精舎(しょうじゃ)や洞窟(どうくつ)にこもって修行に専念したのである。この期間は雨が激しくて徒歩旅行に適さず、また草木虫類を傷つけるので、釈迦(しゃか)は雨期の止住を規定した。これが安居の始まりである。出家修行者の教団内の新旧や先後の序列は、年齢(世寿(せじゅ))にはよらず、この安居の回数(法臘(ほうろう)、つまり入団後の年数)によって決められた。

 中国では、所によっては降雪のため真冬の旅行も不適であったので、冬季にも安居する慣習が生まれた。これは雪(せつ)安居、冬(とう)安居とよばれ、10月16日~翌年1月15日の3か月間(場合によっては2月15日までの4か月間)がその期間である。

 わが国では684年(天武天皇13)に初めて安居が行われたと伝えられる。江戸時代には各宗の本山で盛んに実施された。今日でも禅宗の僧堂などでは、年2回の安居が厳格に行われている。禅宗では、安居に入ることを「入制(にゅっせい)」「結夏(けつげ)」「結制(けっせい)」、安居期間を「制中(せいちゅう)」、その終了を「解制(かいせい)」「解夏(かいげ)」、安居期間以外の時期を「解間(げあい)」「制間(せいかん)」と、それぞれよんでいる。俳句では、安居は夏の季語である。

[森 祖道]

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改訂新版 世界大百科事典 「安居」の意味・わかりやすい解説

安居 (あんご)

インドの僧伽で雨季の間,行脚托鉢をやめて寺院(阿蘭若(あらんにや))の中で座禅修学するのを,安居または雨安居(うあんご),夏安居(げあんご)といった。これは仏教が伝播した国々でも,雨季の有無にかかわらずおこなわれ,多くは4月15日から7月15日までの90日であった。これを一夏九旬といって,各教団や大寺院でいろいろの安居行事がある。安居の開始は結夏(けつげ)といい,終了は解夏(げげ)というが,解夏の日は多くの供養があるので,僧侶は満腹するまで食べる。これが僧自恣(じし)の日で,盂蘭盆会(うらぼんえ)は7月15日に自恣の僧に百味飲食(ひやくみのおんじき)を供する日である。日本では683年(天武12)夏に宮中で僧を安居せしめたのが最初である。安居も4月よりはじめるのを前安居といい,5月よりはじめるのを後安居という。山岳寺院では安居に合わせて夏峰入修行がおこなわれ,これを花供(はなく)入峰といい,7月15日に出峰して蓮花会延年をおこなうのも,解夏の僧自恣にあたる。
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普及版 字通 「安居」の読み・字形・画数・意味

【安居】あんきよ

やすらかにくらす。〔老子、八十〕其の居に安んじ、其の俗を樂しむ。(あんご・あんこ) 仏教語。三ケ月間坐禅修行する。夏安居(げあんご)、坐夏(ざげ)ともいう。

字通「安」の項目を見る

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「安居」の解説

安居
あんご

仏道修行者が一定期間1カ所に集まって修行すること,またその期間。インドの夏は雨期があるため外出が不便で,その時期に一定の場所で修行に専念するようになったとされる。日本では,683年(天武12)宮中で行ったのが文献上の初見。陰暦4月15日から3カ月間行われるのがふつうで,平安時代以後,一般寺院でも盛んに行われ,中世には禅宗で冬期も行われるようになった。

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百科事典マイペディア 「安居」の意味・わかりやすい解説

安居【あんご】

雨安居(うあんご),坐夏(ざか)とも。インドの仏教徒が4月(または5月)15日から3ヵ月間の雨季に,外出せず,洞窟や寺院にこもって学習や修行に専心すること。日本では683年宮中で行われたのが早いが禅宗では夏,冬に安居を行い,修行の資とする。またこの期間に僧尼が自分の罪過を悔いることを自恣(じし)という。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「安居」の意味・わかりやすい解説

安居
あんご
vārṣika

インドにおける雨季 (4月 15日または5月 15日より3ヵ月間) の間に寺院や一定の住居にとどまって外出しないで修行すること。雨安居ともいう。日本の禅宗は夏と冬に安居を行う。

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