定常状態(物理学)(読み)ていじょうじょうたい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「定常状態(物理学)」の意味・わかりやすい解説

定常状態(物理学)
ていじょうじょうたい

定常状態とは文字どおり、時間とともに変化しない状態のことである。しかし、それはまったく運動が停止した状態を意味するのではなく、運動の形態が時間的に変化しない状態を意味する。たとえば水のような流体の流れを考えたとき、空間中に固定されたある点での速度が時間によらず一定であれば、この流れは定常状態にあるという。より正確には、空間中の1点(x,y,z)における、時刻tでの流体の速度ベクトルをv(x,y,z,t)としたとき、これが時刻によらなければ定常状態が実現している。水の流れの場合、水自身は運動しており、その位置は時間とともに変化していく。しかし、定常状態においては、流れの速度・流量はいつも同じである。同様なことが熱の伝導電流などに対しても成り立つ。また、熱平衡状態ではミクロな構成要素は運動しているが巨視的には変化しない。このような場合も定常状態という。なお、巨視的な流れがある場合には、非平衡定常状態という言葉が使われることもある。そこでは流れを引き起こす力と、摩擦力などの散逸力がつり合って定常状態をつくっている。

 また、ミクロな量子力学の世界において定常状態という言葉は、系の固有状態に対しても使われる。すなわち、体系エネルギーが一定値をもち時間的に変化しない状態が定常状態である。たとえば定常状態にある水素原子を考えると、陽子の周りを運動する電子は一定のエネルギー固有状態にあり、光の放出などを行わない。一般に、原子分子の定常状態は、それぞれの系のあるエネルギー固有状態に対応すると考えられる。

[宮下精二]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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