尻・臀・後(読み)しり

精選版 日本国語大辞典 「尻・臀・後」の意味・読み・例文・類語

しり【尻・臀・後】

[1] 〘名〙
[一] (尻・臀) 動物の胴体後部で、肛門(こうもん)のあるあたり。一般に筋肉がゆたかに左右にもりあがっている部分。鳥類魚類などでは、胴の最後部、尾や肛門のあるあたりをいう。臀部(でんぶ)。いさらい。いしき。おいど。けつ
※古事記(712)上「爾(ここ)に大気都比売、鼻口及(また)(しり)より、種種(くさぐさ)の味物(ためつもの)を取り出して」
[二] 一つの物、また、一続きのもののうしろの部分。あとの部分。後部。
① 物、ことば、時間、序列、行列など,まえとうしろ、さきとあと、あるいははじめとおわりのあるものの後尾の部分。あと。うしろ。しまい。
万葉(8C後)一四・三四三一「あしがりのあきなの山に引こ舟の斯利(シリ)引かしもよここばこがたに」
源氏(1001‐14頃)末摘花「侍従こそ取り直すべかめれ、また筆のしりとる博士ぞなかべき」
衣服太刀(たち)また、道など、上(かみ)と下(しも)、本と末のある物の、下または末の部分。また下襲(したがさね)の裾(きょ)末端。先端。すそ。はて。
※古事記(712)中・歌謡「道の斯理(シリ) 古波陀(こはだ)をとめは 争はず 寝しくをしぞも 愛(うるは)しみ思ふ」
※源氏(1001‐14頃)花宴「葡萄染(えびぞめ)の下襲、しりいと長く引きて」
器物、果実などの底部。据えたとき、地につく部分。底(そこ)
※源氏(1001‐14頃)若菜上「御障子のしりはかためたれば」
④ 衣服の(一)にあたる部分。
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一〇「尻につぎの中ったづぼんを穿いて居るが」
⑤ (尻をおろしてすわるところから) すわること、またひとところに長くとどまることをたとえていう。
※牛部屋の臭ひ(1916)〈正宗白鳥〉一「半歳も尻の落着いてゐたことはなかった」
⑥ 男色(なんしょく)の対象としての肛門。転じて、男色、鶏姦(けいかん)。後門。裏門。菊座。おかま。けつ。
※雑俳・柳多留‐二三(1789)「尻(しリ)のつまらぬ年明はやろう也」
[三] 主となるもの、基準となるもののあと。
① 人や物のうしろ。背後。うしろの方角。後方。しりえ。あと。
※古事記(712)中「其の嬢子(をとめ)の後(しり)に立ちて其の屋に入る」
② 事のすんだあと。動作、作用の終わったあと。〔名語記(1275)〕
③ 事件、行為などのあとの結果。また、あとに及ぼす影響。とばしり。また、帳簿をつけたり、計算をしたりしたあとのしめくくり。決算。
浄瑠璃・いろは蔵三組盃(1773)六「イヤイヤ最お返し申ましたぞ。跡の尻(シリ)は知ませぬと」
※それから(1909)〈夏目漱石〉五「学校を出た時少々芸者買をし過ぎて、其尻(シリ)を兄になすり付けた覚(おぼえ)はある」
悪事をはたらいたり、うそをついたりして、そのあとそしらぬ顔をし、つつみかくしていること。
※歌舞伎・謎帯一寸徳兵衛(1811)大切「香炉の事や、何やかや、悪い尻(シリ)を知った女め、生けて置かれず」
[2] 〘接尾〙 矢羽(やばね)に用いる鳥の羽を数えるのに用いる。尾羽を用いるところからいう。大鷲(おおわし)の尾羽は一四枚、小鷲の尾羽は一二枚、鷹(たか)の尾羽は一〇枚をもって一尻とする。
※義経記(室町中か)二「嫡子泰衡白皮百枚、鷲の羽百しり、よき馬三疋、白鞍置きて取らせける」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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