居酒屋(ゾラの小説)(読み)いざかや(英語表記)L'Assommoir

日本大百科全書(ニッポニカ) 「居酒屋(ゾラの小説)」の意味・わかりやすい解説

居酒屋(ゾラの小説)
いざかや
L'Assommoir

フランスの小説家エミール・ゾラの長編小説。新聞連載中から大きな反響をよび、1877年『ルーゴン・マッカール双書(そうしょ)』第7巻として刊行された。洗濯女ジェルベーズは、情人ランチエに逃げられ、実直な板金工クーポーと結婚、一心に働いてこぎれいな洗濯屋を構えるが、大けがをした夫はアルコール中毒になる。そこへ情人が舞い戻って奇妙な共同生活が始まると、やがて彼女自身も身を持ち崩し、酒におぼれ、乞食(こじき)同然に零落して飢え死にする。「パリの場末悪臭漂う腐敗した環境における労働者一家の避けようもなかった転落」を書くことが作者の目標であったという。巧みな構成、庶民の卑俗なことばや言い回しを自由間接話法で地の文に溶け込ませたダイナミックな文体ヒロイン生涯に重ね合わせつつ第二帝政下の変貌(へんぼう)するパリを描いていく都市小説的な手法が相まって、叙事詩のような雄大なスケールをつくりあげている。

工藤庸子

『清水徹訳『世界文学全集 55 居酒屋』(1978・集英社)』『古賀照一訳『居酒屋』(新潮文庫)』

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