履行確保(読み)りこうかくほ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「履行確保」の意味・わかりやすい解説

履行確保
りこうかくほ

一般的には、債権者が自己の債権の満足を確実ならしめるための手段・方法あるいはその状態などを意味する。狭義では、「家事事件手続法」(平成23年法律第52号)において、家庭裁判所審判調停で定められた債務履行を促進し確保するための手続をいう。本来は、家事債務についても「民事執行法」により強制執行ができるが(旧家事審判法15条・21条、現行家事事件手続法75条・268条1項、民事執行法22条7号)、家事債務は親族間の債務関係であったり、一般に低額かつ少額の分割払いを内容とするものが多いので、強制執行手続の煩雑さや費用負担の重さなどに耐えられないなどの事情があり、強制執行をするのには適当でない場合が少なくない。そのような欠陥を是正するため、1956年(昭和31)にこの手続きが旧家事審判法に新設され、現行の家事事件手続法289条および290条に受け継がれている。この手続は履行勧告および履行命令をそのおもな内容としている。

 履行勧告とは、家庭裁判所が権利者の申し出によって、家事債務の履行状況を調査し、義務者に対しその履行を勧告するものである(家事事件手続法289条)。これには法律上の強制力がないから、もし履行勧告によって効果のない場合は、家庭裁判所は権利者の申し出によって、義務者に対し相当の期限を定めてその義務の履行をなすべきことを命ずることができる(同法290条)。これが履行命令である。この命令に従わないときは、10万円以下の過料に処せられる(同法290条5項)。

[内田武吉・加藤哲夫 2016年5月19日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の履行確保の言及

【家事調停】より

…ただし,家族法上の身分関係の創設,解消をめぐる事件については対世的(世間一般の人々に対しても通用するの意),画一的に決定されることが社会的に要請されるので,合意に相当する審判によらねばならない(〈家事審判〉の項参照)。調停で決められても,その決定事項が遵守されないケースが多かったため,煩瑣で費用がかかり,心理的にも好まれない強制執行とは別に履行を確保する手続が望まれ,1956年に〈履行確保〉制度が設けられた。すなわち,家庭裁判所は権利者の申立てに基づき,義務の履行状況を調査して〈履行勧告〉をすることができ,義務者が勧告に応じない場合,権利者の申立てにより〈履行命令〉を出すこともできる。…

【離婚】より

…ふつうは,子が18~20歳になるまで毎月一定額を送付するという形になる。家庭裁判所で決められたものは,家事債務の一種となり,履行が遅滞した場合には,履行確保(別欄参照)を求めることができる。
[現実の大勢]
 戦後日本における離婚件数は,1960年代前半まで横ばいないし低下を続けたが,65年以降上昇に転じた。…

※「履行確保」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android