山論(さんろん)(読み)さんろん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「山論(さんろん)」の意味・わかりやすい解説

山論(さんろん)
さんろん

「やまろん」ともいう。林野境界、所有権、入会(いりあい)用益権をめぐる紛争で、ことに江戸時代各地に頻発した。農民間、村落間、あるいは農民と村落、村と領主との間に生ずるが、大半は農民や村落の間で争われた。その原因には、当該地の境や持ち主が不分明であること、土木建築用材、肥料、飼料、燃料、食料など林産物の入会用益量が過大であったり、また用益目的の変化(自家用から商品化など)に伴う入会地の独占と他者の排除などがあげられ、一様ではない。

 紛争が発生すると、当事者は村役人や領主に訴えて調停裁決を求めるが、それらの結果に不満足なときは、さらに幕府評定所(ひょうじょうしょ)へ出訴して裁許を仰ぐことができた。訴えを受けた領主・評定所は、いずれも示談による解決を勧めるが、それが不調の場合に限って審理を開始する。評定所における審理は、当事者の提出した訴状・証拠書類や、両者立会いのもとに作成された係争地の絵図(論所絵図)をもとに行われ、両者の主張斟酌(しんしゃく)したうえで、係争地(論所)が入り組んでいる場合には、幕府みずからも実地踏査を加えて裁決を下した。それは、係争者の主張と、これに対する評定所の見解判決)とを裏書した裁許絵図(墨引き絵図)を、当事者に交付することによって終結する。この評定所裁許の効力は絶大であって、それを覆したり、再度の出訴を行うことは許されなかった。なお、江戸初期には、これまで利用することのなかった奥地林野を入会地として開発した結果、村と村の衝突山論に発展し、それの解決によって村・郡・国境の決定する例が多かった。またこれらの境界が、現在の行政区画の境として引き続き効力を発揮している場合が少なくない。

[飯岡正毅]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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