差分法(読み)さぶんほう(英語表記)finite difference method

日本大百科全書(ニッポニカ) 「差分法」の意味・わかりやすい解説

差分法
さぶんほう
finite difference method

広い意味では、数表の形で表された関数(表関数という)の変化率を扱う技法をいい、狭い意味では、微分方程式差分方程式近似して解く方法をいう。

[戸川隼人]

差分(階差)

変数xと変数y関係
  x1 x2 …… xn
  y1 y2 …… yn
とする(すなわち、xiに対応する値がyi)とき
  Δxixi+1xi
  Δyiyi+1yi
を(一階の)前方差分(差分は、階差または定差ともいう)といい、その比
  Δyi/Δxi
を(一階の)前方差分商という。また
  xixixi-1
  yiyiyi-1
を(一階の)後方差分といい、その比
  yi/xi
を(一階の)後方差分商という。xiが等間隔
  xi+1xih
    (i=1,2,……,n-1)
の場合、
  δyixi=(xi+1xi-1)/2h
を(一階の)中央差分商という。高階の差分は
  ΔkyiΔk-1yi+1Δk-1yi
  kyik-1yik-1yi-1
によって定義する。高階の差分商は、xiが等間隔ならば
  (Δky/Δkx)iΔky/hk
  (ky/kx)iky/hk
とするが、不等間隔の場合には、

で定義される差商divided differenceというものを用いる。差分商および差商は、微分法における微分商に相当するもので、これを用いて、変化率を論じたり、補間、近似、積分などを行うことができる。

[戸川隼人]

狭義の差分法

微分方程式近似解法一種としての差分法がある。これは、常微分方程式および偏微分方程式の境界値問題に用いられる。原理が単純で、どんな形の方程式にもたいてい適用できることが特徴である。そのかわり、必要演算回数が多いので、コンピュータを使わないと実用的計算はできない。その原理は、微分方程式を近似する差分方程式をつくって、それを解くという方法による。近似差分方程式をつくるには、微分方程式に含まれる微分商を、その近似差分商で置き換えるのがもっとも簡単である。たとえば、微分方程式

の場合、左辺第1項、第2項をそれぞれ

で置き換えれば

となる。ただし、このような方法がつねによい結果をもたらすとは限らないので、問題によっては慎重な考察を要する。問題とする区間を細かく等分して分点を設け、各分点において前出の差分方程式をつくり連立させ、境界条件を付加して解けば、前出の微分方程式の近似解が求められる。

[戸川隼人]

差分法の数学的根拠

関数解析学の手法により、差分法の基礎理論が研究され、多く公式について、その収束性(分割を無限に細かくするとき厳密解に収束すること)が証明されている。

[戸川隼人]

『赤坂隆著『数値計算』(1967・コロナ社)』『フォーサイス、ワソー著、藤野精一訳『偏微分方程式の差分法による近似解法』上下(1968・吉岡書店)』『戸川隼人著『数値解析とシミュレーション』(1976・共立出版)』『高橋亮一・棚町芳弘著『差分法』(1991・培風館)』『山本哲朗著『数値解析入門』増訂版(2003・サイエンス社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「差分法」の意味・わかりやすい解説

差分法 (さぶんほう)
difference calculus

定数h≠0に対して,

 ⊿ft)=fth)-ft

ft)の1階差分(単に差分,定差,階差ともいう)といい,差分を求めることを差分するという。この定義において,thft)は複素数であってもよい。帰納的にn階差分は,

と表され,定義から次のような公式が成立する。





 変換thsによりh=1の場合を取り扱えばよいから,以下ではh=1の場合について説明する。差分法では離散変数にも適用できるようにするために独特な関数が用いられる。例えば,階乗関数,



を用いると,n次多項式はtkk=0,1,……,n)の一次結合として表され,が成立する。ft)が(a,∞)(a<0)でn+1回微分可能であるとき,tkを用いたft)の展開はニュートンの公式,

として知られている。次に,差分方程式⊿yt)=ft)を満たすyt)をft)の和分といい,記号,

 ⊿⁻1ft),あるいはSft)⊿t

を用いる。これは積分法の不定積分に対応するもので,周期1の任意関数を除いて決定されるものである。また,α(t),β(t)が周期1の関数であるとき,公式,

が成立する。さらに,特殊な応用としてガンマ関数,に対する基本性質Γt+1)=tΓt)(t>0)を用いると,であり,それぞれに対応する和分が得られている。次に,和分の定義から得られる関係,は離散型変数の級数の和を求める場合に有効である。定積分に対応するものについてはネールントE.Nörlund(1885- )その他による研究が行われている。
差分方程式
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百科事典マイペディア 「差分法」の意味・わかりやすい解説

差分法【さぶんほう】

定差法とも。xの関数f(x)においてhを一定の有限値(ふつう1にとる)とするときΔf(x)=f(x+h)−f(x)をf(x)の差分または定差という。差分のh→0の極限は微分と考えられるから,微積分と同法の理論を差分についても展開でき,これを差分法という。微積分における微分商,積分,微分方程式に対応するものをそれぞれ差分商,和分,差分方程式といい,前者に類似した理論が成り立つ。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「差分法」の意味・わかりやすい解説

差分法
さぶんほう
calculus of finite difference

定差法ともいう。微分法と類似の方法を用いて,差分,差分商 (分割差分) ,差分方程式などの理論を展開する関数方程式論の一分野である。また,差分に関する理論を用いて問題を処理する数値計算法を,一般に差分法ということもある。

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