干ばつ(読み)かんばつ

改訂新版 世界大百科事典 「干ばつ」の意味・わかりやすい解説

干ばつ (かんばつ)
drought

本来は旱魃(魃は旱(ひでり)の神)と記す。自然災害の中には,暴風雨竜巻などで短時間に破壊的災害をもたらすものと,干ばつのように1ヵ月から長い時は数ヵ月に及ぶ長期の異常気象によって災害が起こるものとがある。干ばつは日照りともいわれ農業災害を起こす重要な原因であったが,近年は水利灌漑施設の発達によって日本では農業被害は減少し〈ひでりに不作なし〉とまでいわれるようになった。一方,人口の増加にしたがって飲料・工業用水不足の問題が深刻化して,渇水と呼ぶことが多くなってきた。日本の月降水量は太平洋側では冬少なく夏多いので,冬に晴天がつづくともともと少ない水がさらに少なくなるため長期にわたる干ばつとなり,電力などの水が不足するが,稲作などは夏に多量の水を必要とするので1~2ヵ月の干ばつでも影響は大きい。干ばつを表す尺度として月降水量のほかに無降水継続日数などが用いられる。日本では夏太平洋高気圧におおわれると干ばつ,高気圧が後退して梅雨前線が停滞すると多雨となる。アフリカなどでもこのような乾燥域と多雨域の境界線の移動によって干ばつが起こる。もとから雨の少ない砂漠では干ばつといわない。
干害
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百科事典マイペディア 「干ばつ」の意味・わかりやすい解説

干ばつ【かんばつ】

本来は旱魃と記す。長期間降水がほとんどないため土壌が著しく乾燥し農作物などに被害(干害)を及ぼす現象気温が高く蒸発散のはげしい地域で起こりやすく,熱帯地方の雨季・乾季の交代期のずれ,季節風地帯での高気圧の発達状況と関連して発生。日本では過去400年間にほぼ10年に1回の割で大干ばつがあったが,近年では水利灌漑(かんがい)施設の発達で大規模な干ばつは少なくなった。1939年5〜9月には日本を小笠原高気圧おおい,特に近畿以西に大被害があった。
→関連項目環境難民気象災害砂漠化

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世界大百科事典(旧版)内の干ばつの言及

【異常気象】より

…また一般に,集中豪雨や台風などのために人命が失われたり,建造物や農作物が壊滅的な被害を受けた場合,原因となった気象現象も異常気象という。
[実態]
 寒冬,暖冬,冷夏,暑夏,長雨,干ばつ,豪雪などの異常気象が最近,社会の強い関心を集めている。その理由には天候の変動幅が従来になく大きく,観測開始以来第1位という記録が目立つようになったこと,社会・経済の構造が異常気象の影響をうけやすくなったことがあげられる。…

【干害】より

…旱害とも記す。干ばつ(旱魃)もほぼ同義であるが,干ばつは暖候期の農作物の干害をさすことが多い。昔は主として農業災害のみを意味していたが,近年は農業災害の方は灌漑の発達のため少なくなりつつあり,むしろ都市の発展に伴った水力発電用水や飲料水の不足の方が主体となってきている。…

※「干ばつ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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