引掛・引懸(読み)ひっかける

精選版 日本国語大辞典 「引掛・引懸」の意味・読み・例文・類語

ひっ‐か・ける【引掛・引懸】

〘他カ下一〙 ひっか・く 〘他カ下二〙 (「ひきかける(引掛)」の変化した語)
① かけてつり下げる。突き出た物などにかけてぶら下げる。また、とがったものに、ものをからませる。
※天草本平家(1592)三「アルイワ ユミノ ハズヲ モノニ ficcaqete(ヒッカケテ) ステテ ニグル モノモ アリ」
咄本・鹿の子餠(1772)薪屋「鳶口にひっかけ、ながるる薪を引あぐれば」
② 無造作に着たり、はいたりする。ちょっと肩にかけたりして着る。
※寛永版曾我物語(南北朝頃)六「ひをどしの腹巻取って引っ懸け」
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉夏「スリッパを引掛(ヒッカ)けて」
③ あれこれと関係づける。引き合いに出す。
※古文真宝彦龍抄(1490頃)「前には皆山と滁国を大に云て、亭へひっかけて小に云」
※記念碑(1955)〈堀田善衛〉「人によっては、彼の将棋好きにひっかけてショキ居士とも呼んでいた」
④ 水などを浴びせかける。
※多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉後「お鈴の顔へ、突然お留は手水を引澆(ヒッカ)ける」
⑤ 酒などを一息に飲む。ひっかつぐ。
※咄本・鹿の巻筆(1686)四「酒四五杯ひっかけて」
⑥ 他人の目をぬすみ、またはごまかして取る。ちょろまかす
※浮世草子・浮世親仁形気(1720)一「五十両の金を、若旦那の用事にお立なされた間に、つゐ引かけてかいくれお見へなされぬゆへ」
⑦ 掛け代金を払わないでおく。また、ふみたおす。
歌舞伎有松染相撲浴衣(有馬猫騒動)(1880)序幕「あいつらは因業ゆゑ、もっと引っ掛けて置くがいい」
⑧ 相手をだまして自分の思うようにさせる。また、だましてよそへ連れて行く。たらしこむ。かどわかす。
※歌舞伎・入間詞大名賢儀(1792)三幕「博田の里の名山と云ふ傾城と、外の女郎ども一二枚、引っかけて来い」
着物などを釘などの出っ張ったものにかけて、破り裂く。かぎ裂きをつくる。
⑩ 車などで人や物をひいてはね飛ばす。
※続女ひと(1956)〈室生犀星〉作家の晩年音羽の電車通りでバスに引っかけられて大怪我をした後の彼のかく小説は」
⑪ 野球で、バットの先をからだの方へ巻き込むようにして球を打つ。
ベースボール(攻撃篇)(1927)〈飛田穂洲〉一「両腕を突張るやうにして当てることが肝要で決して引(ヒッ)かけてはいけない」

ひき‐か・ける【引掛・引懸】

〘他カ下一〙 ひきか・く 〘他カ下二〙
① 突き出たものなどに掛けてつり下げる。掛けておく。ひっかける。
※万葉(8C後)一三・三二三九「花橘を 末枝に 黐(もち)引懸(ひきかけ) 中つ枝に 斑鳩懸け」
② 突き出たものに掛けて、布などを傷付けたり破ったりする。ひっかける。
※源氏(1001‐14頃)夕顔「衣の裾を物にひきかけて」
③ 引っぱって上にかぶせる。肩にかける。おおう。また、無造作に着たりはいたりする。ひっかける。
※宇津保(970‐999頃)蔵開中「織物の細長ひき重ねて奉りて、しろき御ぞひきかけて」
④ あれとこれとを関係づける。かかわらせる。引き合いに出す。ひっかける。
※後撰(951‐953頃)恋三・七八一「ちはやぶる神ひきかけてちかひてしこともゆゆしくあらがふなゆめ〈藤原滋幹〉」
⑤ 酒などを一息にぐっと飲む。ひっかける。
随筆・独寝(1724頃)上「女郎さまも、あまりにひきかけひきかけ呑み給ふはいやしきもの也」
⑥ 弓を引きしぼって矢を射かけようとする。
※読本・椿説弓張月(1807‐11)残「鷲の羽の征矢うち(つが)ひ、篦(の)かつぎの上まで引(ヒキ)かけて」

ひっ‐かけ【引掛・引懸】

〘名〙 (「ひきかけ(引掛)」の変化した語)
① ひっかけること。かけてつり下げること。
洒落本・青楼真廓誌(1800)一「古わたりさらさのひっかけの多葉粉入」
② 関係づけること。引き合いに出すこと。
※南禅寺文書‐文安二年(1445)八月一六日・遠江国初倉庄名主百姓等連署請文「風鎮時、国中平均憐郷ひっかけとあるへく候」
衣服の一番上にはおって着るもの。
※人情本・春色恵の花(1836)二「御納戸山まゆの襠(ヒッカケ)
真景累ケ淵(1869頃)〈三遊亭円朝〉八四「黒襦子の帯をひっかけに締め」
相撲のきまり手の一つ。差してくる相手の腕を両手でひっぱりこんでそのまま土俵外に出す技。
⑥ 計略などで相手を陥れること。だますこと。
⑦ 花札で、同種の札が場に一枚と、自分の手に二枚ある場合、その手にある札の一枚を場の札と合わせてとっておき、残りの札を手に入れようとすること。
⑧ 釣糸の先にからばりをつけて、鮎などを引っ掛けて釣る方法。
※風俗画報‐二五三号(1902)動植門「シビ釣に三様あり。一を喰はせ。二を引っ掛け。三を浮子釣とす」

ひっ‐かか・る【引掛・引懸】

〘自ラ五(四)〙 (「ひきかかる(引掛)」の変化した語)
① 物などにかかってそこに止まる。妨げられて、そこに止まる。
※日葡辞書(1603‐04)「キルモノガ クギニ ficcacatta(ヒッカカッタ)
② 関係がつく。関係がついてめんどうなことなどに、かかわり合う。また、計略などにはまる。だまされる。
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三「博覧会へ行くつもりだっけが吉原の立退へ引ッかかって」
※裁判(1952)〈伊藤整〉「この作品が、刑法に引っかかるというのは法律の不備である」
③ 心の中にこだわるものがある。すっきりしない感じがする。気にかかる。
※古今集遠鏡(1793)六「なぜにいやともおおとも云ひきらずに、ひっかかって居ることぞ」

ひき‐かけ【引掛・引懸】

〘名〙
① 物をつりさげること。ひっかけ。
② 関係づけること。引き合いに出すこと。また、あることにならってそれに従うこと。
※不審条々(1403)「今時地下の連哥に、近浦、近島、暮霞など様の自由の事仕り候、是は、遠浦、遠島、夕霞などとも申す上は、それを引かけにて、抑へて申すげに候」
③ 先例。前例。
※極楽寺殿御消息(13C中)第四九条「物に心得やさしけれは、男もはつかしくおもひ、いとをしみふかし。昔今ひきかけおほし」
④ かかわりあいを強調すること。なんらかの関係によって特に愛好すること。ひきたて。
※随筆・梅園叢書(1750)上「誰人のひいき、誰人の引懸(ひきかけ)にあづかると」

ひき‐かか・る【引掛・引懸】

〘自ラ四〙
※日葡辞書(1603‐04)「イバラニ fiqi(ヒキ) cacatta(カカッタ)
※とりかへばや(12C後)上「うかりし世のみだれにもひきかかり」

ひっ‐かかり【引掛・引懸】

〘名〙
① ひっかかること。また、そのところ。心理的な事柄についてもいう。
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「『して見れば大丈夫かしら…が…』とまた引懸りが有る、まだ決徹(さっぱり)しない」
② かかわること。関係。関連。
※葉隠(1716頃)二「引懸りなど候ては御外聞不宜事に候」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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