弾道ミサイル防衛(読み)ダンドウミサイルボウエイ(英語表記)Ballistic Missile Defense

デジタル大辞泉 「弾道ミサイル防衛」の意味・読み・例文・類語

だんどうミサイル‐ぼうえい〔ダンダウ‐バウヱイ〕【弾道ミサイル防衛】

ビー‐エム‐ディー(BMD)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「弾道ミサイル防衛」の意味・わかりやすい解説

弾道ミサイル防衛
だんどうみさいるぼうえい
Ballistic Missile Defense

弾道ミサイル迎撃ミサイルで撃墜することによって弾道ミサイルの脅威を無力化しようとする防衛システム。略称BMD。単にMDともいう。BMDは弾道ミサイルを開発しようとする意図をくじき、弾道ミサイルの拡散を防ぐことができる。アメリカでは、G・W・ブッシュ政権(2001~2009)以降、MDはそれまでの戦域ミサイル防衛TMD)を引き継ぐことになった。

[村井友秀]

沿革

BMDの原型は、レーガン政権時代(1981~1989)の1984年に始まったスターウォーズ計画といわれた戦略防衛構想SDIStrategic Defense Initiative)である。冷戦時代、弾道ミサイルを搭載した潜水艦による反撃能力を保証することによって、戦争を始めた側も大損害を被るという相互確証破壊MAD=Mutual Assured Destruction)がロングピース(長期にわたる平和)を維持してきた。これに対して、SDIは弾道ミサイルによる攻撃を無力化することによって戦争を始めた側に勝利を与えず戦争を抑止しようとしたものであった。その後、SDI計画は技術的および予算的制約によって縮小されたもののアイデアは生き続け、G・H・W・ブッシュ政権時代(1989~1993)の1991年に始まった限定的弾道ミサイルに対するグローバル防衛(GPALS=Global Protection Against Limited Strikes)、クリントン政権時代(1993~2001)のTMDと国家ミサイル防衛NMD=National Missile Defense)に引き継がれた。G・W・ブッシュ政権は2001年からMDとしてミサイル防衛計画を進め、同年12月には弾道弾迎撃ミサイル(ABM)の配備を制限することによって相互確証破壊を保証していたABM制限条約から脱退することを表明(翌年6月正式脱退)した。オバマ政権(2009~ )は、2010年2月に弾道ミサイル・レビュー(BMDRR=Ballistic Missile Defense Review Report)において弾道ミサイル防衛に関するアメリカの長期戦略を発表している。

[村井友秀]

内容

弾道ミサイルの飛行経路は、次の三つの段階に分類できる。

(1)発射された直後でロケットエンジンが燃焼し、加速しているブースト段階。この段階は燃焼するロケットエンジンの熱によって容易に赤外線で探知することができる。囮(おとり)弾頭も分離していない。

(2)ロケットエンジンの燃焼が終了し、慣性運動によって宇宙空間(大気圏外)を飛行しているミッドコース段階。囮弾頭が分離している。

(3)大気圏に再突入し音速の10倍を超える高速で着弾するまでのターミナル段階
 アメリカではブースト段階において、航空機に搭載したレーザーシステム(ABL=Airborne Laser)で弾道ミサイルを撃墜する空中配備型のシステムが計画されている。ミッドコース段階で弾道ミサイルを迎撃するためのシステムとして、地上配備型ミッドコース防衛システム(GMD=Ground-based Mid-course Defense)と海上配備型ミッドコース防衛システム(SMD=Sea-based Mid-course Defense)がある。GMDは固定式のミサイルサイトやレーダーサイトからなる。また、SMDでは、イージス艦を使用して弾道ミサイルを探知し、イージス艦から発射する迎撃ミサイル(SM-3=Standard Missile 3)によってミッドコース段階で迎撃する。現在、イージス・システムの改修のほか迎撃用ミサイルの開発、レーダーの改良などが進められている。ターミナル段階で弾道ミサイルを迎撃するためのシステムとして、地上配備型のシステムであるターミナル段階高高度地域防衛システム(THAAD(サード)=Terminal High Altitude Area Defense)、地対空誘導弾ペトリオット・システム(PAC-3=Patriot Advanced Capability 3)などがある。THAADは大気圏外と大気圏内で迎撃する。PAC-3は大気圏内の近距離で迎撃する。また、弾道ミサイルを早期に探知するために、地上配備や海上配備のレーダーとともに人工衛星による監視が行われている。

 日本政府は1998年(平成10)に海上配備型ミッドコース防衛システムの日米共同技術研究に着手した。日本のBMDシステムは、日本がすでに保有しているイージス艦と地対空誘導弾ペトリオット・システムの能力向上などにより弾道ミサイルの脅威に対抗しようとするものである。また、従来型の経空脅威(航空機等)と弾道ミサイルの双方に対応できる併用レーダーFPS-5が新たに整備され始めている。2011年度までには、イージス艦(4隻)、ペトリオットPAC-3(16個射撃単位)、FPS-5(4基)、FPS-3改(7基)を指揮・通信システムで連接したBMDシステムを構築することを目標としている。なお、イスラエルは2000年3月世界で初めてBMD(Arrow Ⅱ System)を実戦配備した。

[村井友秀]

『小都元著『ミサイル防衛の基礎知識』(2002・新紀元社)』『坂上芳洋著『世界のミサイル防衛』(2003・アリアドネ企画、三修社発売)』『金田秀昭著『ミリタリー選書27 BMD<弾道ミサイル防衛>がわかる――突如襲い来る弾道ミサイルの脅威に対抗せよ』(2008・イカロス出版)』『能勢伸之著『ミサイル防衛――日本は脅威にどう立ち向かうのか』(新潮新書)』

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知恵蔵 「弾道ミサイル防衛」の解説

弾道ミサイル防衛

2006年7月5日、北朝鮮がテポドン2号、ノドン、スカッド、計7発をロシアのナホトカ沖に発射、同年10月9日には核実験も行ったため、日本ではミサイル防衛の配備を急いでいる。防衛省は本来07年3月パトリオットPAC3地上配備型迎撃ミサイル(射程約20km、移動発射機2両に計8発)を航空自衛隊入間基地(埼玉県)に配備、08年3月までに関東地方に計8両(32発)が配備される。イージス艦「こんごう」は07年12月18日(日本時間)ハワイ諸島沖で「SM3」海上配備型迎撃ミサイルによる弾道ミサイル迎撃実験に成功。「こんごう」は08年1月から配備につき、弾道ミサイル防衛が試験的ながら、具体化した。日本の計画はSM3搭載のイージス対空システム搭載護衛艦を日本海に展開し、高度120〜150km以上の大気圏外で2回迎撃、撃ち漏らした目標に対し弾着直前にPAC3各2発を発射し、それぞれの命中率が50%とすれば計約94%の破壊公算がある、とされる。航空機と違い、弾道ミサイルは一定の方向から放物線で飛来するので、その迎撃はフライの球をとるのに似て楽な面もある。だが、マッハ8〜9の高速で飛来する直径約1mの弾頭に直接衝突して破壊する必要があるほか、弾道ミサイルが宇宙でオトリ弾頭(アルミ箔の風船)を多数放出すると、空気抵抗がないため本物の弾頭と同じ速度、軌跡で飛行し識別が困難で、さらに複数の本物の弾頭を放出されると一層迎撃は困難となる。また現在のノドンのような単純なミサイルも、同時に多数を一斉発射されると突破される。実験では標的のミサイルは1発だけで、発射時間も飛行コースも事前に分かっていたが、実戦では相手はいつ、どこからどこへ向けて撃つか、教えてはくれない。米国はミサイル防衛の実戦配備を急ぎ、なお開発途上のSM3ミサイルを10隻に配備するが、試作品で能力不足のため、各艦数発しか搭載しない。より大型の後継ミサイルを開発中で15年完成予定。海上自衛隊は10年度末までにイージス艦4隻を改装し、SM3を搭載、航空自衛隊は07年度末に関東地方にPAC3発射機8両(32発)、10年度までに阪神・中京、九州北部、青森周辺にも配備される。だが弾道ミサイル数発としか交戦できない弾数である上、PAC3は射程が短く守備範囲が局限されるため「気休め」程度でしかない。1999年度から07年度までに5638億円を投入、08年度は1338億円を要求。負担が長期間続くとみられる。

(田岡俊次 軍事ジャーナリスト / 2008年)

弾道ミサイル防衛

ミサイル防衛」のページをご覧ください。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「弾道ミサイル防衛」の意味・わかりやすい解説

弾道ミサイル防衛
だんどうミサイルぼうえい
Ballistic Missile Defense; BMD

戦域弾道ミサイルの発射を早期警戒衛星で探知し,迎撃ミサイルや改良型パトリオットイージス艦など複合迎撃システムで撃破する防衛構想。アメリカが開発を進め,日本にも参加を求めていたもので,1996年,早期警戒警報の提供で両国の合意が成立した。海外配備のアメリカ軍および同盟・友好国の防衛を目的とする戦域ミサイル防衛 TMDと,アメリカ本土防衛を目的とするアメリカ本土ミサイル防衛 National Missile Defense; NMDの2本の柱からなり,その後ミサイル防衛に一本化された。

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