忍・荵(読み)しのぶ

精選版 日本国語大辞典 「忍・荵」の意味・読み・例文・類語

しのぶ【忍・荵】

〘名〙
① シダ類ウラボシ科の落葉多年草。本州以西の山地樹上や岩上に着生する。根茎は長くはい、淡褐色鱗片で密におおわれる。葉は長さ五~一〇センチメートルの葉柄をもつ。葉身は厚い草質で光沢があり、長さ二〇~三〇センチメートルの三角状で、羽状に三~四回分裂する。裂片は長楕円形。胞子嚢群は裂片の縁の、小脈の先端に生じ、つぼ形の包膜におおわれる。根茎をまるめて玉をつくり軒下(のきした)などにつるす。和名は「忍ぶ草」の略で、土がなくても堪え忍んで育つことからという。しのぶぐさ。ことなしぐさ。しぬぶぐさ。しぬびぐさ。《季・夏》 〔物品識名(1809)〕
② 植物「のきしのぶ(軒忍)」の古名。歌語として、動詞「忍ぶ」あるいは「偲ぶ」と掛詞にして、恋や懐旧の歌に用いられる。また、しのぶずりに用いる草と考えられたところから、「乱る」の縁語ともなる。《季・秋》
※伊勢物語(10C前)一〇〇「あるやむごとなき人の御局より、忘れ草を忍ぶ草とやいふとて、いたさせ給へりければ、たまはりて、忘れ草生ふる野へとはみるらめどこはしのぶなり後もたのまん」
③ (「伊勢物語‐一〇〇」の「忘れ草を忍ぶ草とやいふとて」から) 植物「かんぞう(萱草)」の誤称
※大和(947‐957頃)一五七「わすれぐさおふる野辺とはみるらめどこはしのぶなり後もたのまむ となむありける。同じ草を忍ぶ草、忘れ草といへば、それよりなむよみたりける」
※続古今(1265)恋五・一三五八「わするるも忍ぶもおなじ古郷の軒はの草の名こそつらけれ〈藤原顕氏〉」
※伊勢物語(10C前)一「かすが野の若紫のすり衣しのぶのみだれ限り知られず」
⑤ 襲(かさね)の色目。表は薄萌葱(うすもえぎ)、裏は青。また、表をしのぶずりにする場合もあったか。秋に着用する。
※胡曹抄(1480頃)「八月〈略〉しのふ 表薄萌黄にそあるへし裏あをし或はすりも有へし」
⑥ 「しのぶわげ(忍髷)」の略。
洒落本古契三娼(1787)「ぜんてへおめへさんにはしのぶが しのぶとはかみのふうの名なり よくお似合なさへすよ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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