デジタル大辞泉
「息」の意味・読み・例文・類語
そく【息】
むすこ。子息。
「君の処の―もはやく洋学をまなばせなせえ」〈魯文・安愚楽鍋〉
おき【▽息】
いき。「おきそ(息嘯)」など複合語の要素としてのみ用いられる。
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いき【息】
〘名〙
① 口や鼻を通して吐いたり吸ったりする
気体。呼気と吸気。特に、呼気をさす場合が多い。
※
書紀(720)雄略即位前(図書寮本訓)「其の戴
(ささ)げたる角、
枯樹の末
(えだ)に類
(に)たり。〈略〉呼吸
(いぶ)く気息
(イキ)朝霧に似たり」
② 空気を吐いたり吸ったりすること。呼吸。
※
万葉(8C後)五・七九四「伊企
(イキ)だにも 未だ休めず 年月も 未だあらねば」
③ 音声学で、声帯の振動を伴わない呼気。
④ 勢い。けはい。
※書紀(720)神代下(鴨脚本訓)「亦、汝霊(くしひ)に異(あやし)き威(かしこさ)有り、子等復た倫(ひと)に超(すぐ)れたる気(イキ)有ることを明かさむと欲ふ」
⑤ 命。いきのお。
※万葉(8C後)一四・三五三九「あずのうへに駒をつなぎて危ほかど人妻児ろを伊吉(イキ)にわがする」
⑥ 二人以上で何かをする際の相互の気持のかねあい。調子。呼吸。→
息が合う。
※春泥(1928)〈
久保田万太郎〉冬至「二十二日の間、ただの一日もその両方の呼吸
(イキ)のしっくりしなかった不愉快さ」
⑧ 茶などのかおり。におい。
※利休客之次第(1587)「のみ口の方上になるに依て、茶のいきも上へあがり」
⑨ ゆげ。蒸気。
※
史記抄(1477)一四「燻と云は、薬を煎じて其あつきいきを以て蒸す様な事があるぞ」
⑪ (比喩的に) 風や火の勢いなどが強くなったりする作用。
※
有明集(1908)〈
蒲原有明〉坂路「または折々は風の呼息
(イキ)、吹くとしもなく辻巻きて」
そく【息】
〘名〙
① 生きること。
生存。また、生むこと。繁殖すること。
② 子供。特に、むすこ。子息。息男。
※小右記‐長元四年(1031)二月二八日「今日内府息達着袴」
※御湯殿上日記‐長享元年(1487)八月二九日「むろまちとのより、いまて川殿御そくの御しやくのもとり御申にて、さまのかみを申さるる」 〔
戦国策‐趙策・孝成王〕
③ 利息。利子。
※続日本紀‐天平一六年(743)四月丙辰「司別給二公廨銭惣一千貫一、交関取レ息永充二公用一不レ得レ損二失其本一」
※
近世畸人伝(1790)一「是をもて米を買、
農家に借す。息をとること世人より甚減ずる故にや」 〔史記‐孟嘗君伝〕
④ やすむこと。休息。
いきだわし・い いきだはしい【息】
〘形口〙 いきだは
し 〘形シク〙 (「息労
(いた)はし」の変化した語)
① 息づかいがはげしくて
苦しい。息切れがする。いきどうしい。〔
色葉字類抄(1177‐81)〕
※
滑稽本・
浮世風呂(1809‐13)前「すべて病人の息は〈略〉いきだはしいものでござる」
② 息のつまる感じがする。空気が悪かったりしてうっとうしい。
※爛(1913)〈
徳田秋声〉
四四「お増は〈略〉朝から籠ってゐた息だはしい病室を出て来た」
いきどうし・い いきだうしい【息】
〘形口〙 いきだう
し 〘形シク〙 (「いきだわしい」の変化した語)
① 息づかいがはげしくて苦しい。息がせわしい。
※
御伽草子・猿の草子(室町末)「あまりにいきだうしく候まま、物見をあけてよもをながめ候べし」
② 息がつまるようで不快である。うっとうしい。
※
仮名草子・
東海道名所記(1659‐61頃)六「愛察
(あいさつ)までも見かぎられじとたしなむこそ、いきどをしけれ」
いきどし・い【息】
〘形口〙 いきど
し 〘形シク〙 (「いきだわしい」の変化した語)
息ぎれがして苦しい。息苦しい。
※俳諧・当流籠抜(1678)「
中戸にて息どしさうに蛙鳴〈鉄幽〉」
いきどし‐げ
〘形動〙
いきどし‐さ
〘名〙
いき・む【息】
〘自マ五(四)〙
① 息をつめて腹に力を入れる。いきばる。いけむ。
※咄本・初音草噺大鑑(1698)「とりあげばば来りて、さあしきりがついたとて、いきますれば」
② 張り切る。りきむ。
※雑俳・柳多留‐初(1765)「車引女を見るといきみ出し」
いきま・う いきまふ【息】
[1] 〘自ハ下二〙 息を張る。いきむ。
※十訓抄(1252)七「脇かいとりいきまへひざまづきたり」
[2] 〘自ハ四〙 (一)に同じ。
※秋立つまで(1930)〈嘉村礒多〉「名医の手で手術して根本的に癒してやると息まふのを」
いけ・む【息】
※御伽草子・鼠の権頭(古典文庫所収)(室町末)「さてもさても、けなげさうに候。いますこしいけみ、御うみ給へ」
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)六「ソレ出るわいの。まちっとじゃ。いけまんせ」
いきみ【息】
〘名〙 (動詞「いきむ(息)」の連用形の名詞化) 息(いき)むこと。また、特に、陣痛をいう。
※和英語林集成(初版)(1867)「Ikimi(イキミ)ガ クル〈訳〉陣痛が襲うこと」
おき【息】
※和訓栞(1777‐1862)「おき 気又息をよめり」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
息 (いき)
呼吸によって生ずる空気の運動のことであり,気息,気ともいわれるが,同時に宇宙に遍満する大気(または風)と連関するとともに人間の存在を支える生命力とも考えられた。したがってその意義も,生理的実体をさす段階から形而上的な霊気をさす段階にいたるまで多様な展開をみせた。ギリシア語のプシュケー(魂,霊魂)はもと気息を意味した。またプネウマpneumaももと気息,風,空気を意味したが,のちには存在の原理とされるにいたった。古代インドでは,プラーナprāṇaが息,気息または呼気を意味したが,それは同時に人間存在の構成要素の一つである風(大気)をも意味し,やがて個人我の根拠とされた。中国では気が人間の気息および生命力の根源を意味するとされたが,のちにその概念は五行説や陰陽説と結びついて宇宙構成の原理として説明されるようになった。日本では息(いき)は〈生き〉と同根の語とされ,神(イザナギノミコト)の呼気が風神の生命を誕生せしめたなどの例はそのことを証している。
→呼吸
執筆者:山折 哲雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報