慢性腎不全

内科学 第10版 「慢性腎不全」の解説

慢性腎不全腎不全(腎障害)

(1)慢性腎不全(CRF)と慢性腎臓病(CKD)の違い
 慢性腎臓病CKD)は,2002年に米国腎臓財団が“腎臓病の生命に及ぼす影響や生活の質に関する改善策”のガイドラインとしてはじめて提唱した概念である【⇨11-2】.後述のように腎機能の低下や腎臓病の症候が3カ月以上続けばCKDと診断でき,きわめてわかりやすく非専門医でも簡単に診断できるのが特徴である. 一方,慢性腎不全(CRF)とは糸球体濾過値(GFR)に代表される腎の排泄機能の低下が非可逆的で,腎機能が正常の50%以下の状態を指す.したがって,CKDはCRFを包含する広い概念で,今後は慢性腎臓病に関してはCKD概念を中心に論じられることが多いと考えられる.また,一般に尿毒症は腎機能が正常の5%未満に低下した状態で,CKDや急性腎障害(acute kidney injury:AKI)に由来し,多彩な臨床症状を呈し,透析療法が必要なことが多い(図11-10-6).
(2)慢性腎不全(CRF)の概念
 CRFとはGFRに代表される腎の排泄機能の低下を示す病態である.腎不全は,急激に発症し回復の可能性のある急性腎不全と,非可逆性のCRFとに分けられる.急性腎不全は1つのネフロンあたりのGFRの低下を示し,CRFは機能ネフロン数の減少を特徴とし,残存して機能している1つのネフロンあたりのGFRは正常以上であることが多い.通常,ヒトの腎臓は,一側で100万個のネフロンを有しているが,9割以上が障害されれば尿毒症(uremia)になる.CRFは,すべての慢性進行性腎臓病でみられる病態で,排泄能の低下は連続的であり,どの時期からCRFと呼ぶかはあくまでも人為的なものであるが,Seldinの分類(表11-10-9)で第3期以降を狭義のCRF,第2期以降を広義のCRFとしている.
(3)CRFの病期分類
 CRFは前述のように機能ネフロン数の減少を特徴としているが,腎排泄障害の程度から4期に分けられる(表11-10-9).第1期(腎予備力低下期)は,GFRの低下が50%までの時期で,血清尿素窒素BUN),クレアチニン(Cr)の上昇もなく,臨床的にも無症状である.第2期(腎機能不全期)は,GFRの低下が20~50%(血清Cr 2.0 mg/dL以下)まで低下し,BUNやCrが上昇し始める.夜間尿,貧血や易疲労感が出現し,高血圧の合併も多くなる.第3期(腎不全期)は,GFRは10~20%(血清Cr 2.0~8.0 mg/dL)となり,高窒素血症や貧血も著明となり,アシドーシス,高カリウム血症,高リン血症,低カルシウム血症などの電解質異常が出現する.第4期(尿毒症期)はGFRは10%以下(血清Cr 8.0 mg/dL以上)となり尿毒症により多彩な症状が出現する.中枢神経系,消化器系,循環器系,血液系に多彩な異常がみられ,放置すれば死の転機をとる.
(4)CRFの治療
 CKDの治療に準ずる.腎機能が低下するほど,かかりつけ医と腎臓専門・透析専門医との連携が大切になる.治療にあたっては,原疾患の治療と共に,生活習慣の修正,血圧,血糖,脂質の管理に加え,腎機能低下に伴う病態(腎性貧血や骨・ミネラル代謝異常)を治療する(各項目参照).
 血圧の管理目標は130/80 mmHg未満とし,緩徐に降圧することを原則にする.高血圧は腎機能低下によるものと断定せず,二次性高血圧のスクリーニングを行う.降圧治療薬としてはRA(レニン-アンジオテンシン)系阻害薬を第一選択薬とするが,必要に応じてCa拮抗薬や利尿薬などの降圧薬を併用する.RAS系阻害薬の投与時には血清クレアチニン値の上昇や高カリウム血症に注意する.糖尿病性腎症では血圧の管理に加えて血糖をHbA1c 6.9%未満に,またLDLコレステロールは120 mg/dL未満に管理する.腎性貧血や腎不全進展予防のため,エリスロポエチン製剤や経口吸着薬の投与にあたっては,腎臓専門医と相談する.腎排泄性の薬剤は腎機能に応じて減量や投与間隔の延長を行う必要がある.ことに,非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)や造影剤などは腎機能低下のリスクであり注意する必要がある.[草野英二]
■文献
日本腎臓学会編:CKD診療ガイド2012.東京医学社,東京,2012.
Imai E, et al: Prevalence of chronic kidney disease (CKD) in the Japanese general population predicted by the MDRD equation modified by Japananese coefficient. Clin Exp Nepherol, 11: 156-163, 2007.
National Kidney Foundation: K/ DOQI clinical practical guidelines for chronic kidney disease: evaluation, classification, and stratification. Am J Kidney Dis, 39 (2 suppl 1): S1-S266, 2002.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「慢性腎不全」の解説

慢性腎不全
まんせいじんふぜん
Chronic renal failure
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 慢性(数カ月~数年かけて)に進行する腎臓の病気によって、徐々に腎機能の低下が進行する病態(状態)です。

原因は何か

 すべての腎臓病が原因になります(表15)。透析を導入された患者さんの原因となった病気は、多い順に、糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)慢性糸球体腎炎(まんせいしきゅうたいじんえん)腎硬化症(じんこうかしょう)(高血圧による腎障害)、嚢胞腎(のうほうじん)などです。近年、高齢社会の到来とともに糖尿病性腎症、腎硬化症が増えています。

 症状の現れ方は尿毒症の項目で詳細に解説しているので、参照してください。

検査と診断

 ゆるやかに進行する高窒素(ちっそ)血症、高クレアチニン血症、糸球体濾過(ろか)値の低下などで診断されます。

治療の方法

 まず、慢性腎不全の原因となった病気の治療を行います。その他の治療法は、①禁煙、減量などの生活習慣の改善、②減塩(6.0g/日未満)・蛋白質(たんぱくしつ)制限などの食事指導、③厳格な血圧(130/80㎜Hg以下)、血糖(HbA1C6.5%未満)および脂質管理、④貧血の改善、⑤カルシウムとリンの管理、⑥カリウムとアシドーシスの対策、⑦経口吸着剤などによる尿毒素対策など、すべて慢性腎臓病(CKD)の治療法に準じます。

 これらの治療にもかかわらず、腎機能の低下がさらに進行すると、血液浄化療法を行います。

病気に気づいたらどうする

 重要なことは、患者さん自身が「今、自分の腎不全はどこまで悪化しているのか」を理解することです。そのためには主治医とよく相談し、自分の病期に合った運動・食事療法を指導してもらい実践することです。

 他の病院にかかる時には、腎不全患者であることをよく説明し、安易に薬の投与を受けないことが肝心です。

福井 光峰, 富野 康日己


慢性腎不全
まんせいじんふぜん
Chronic renal failure
(お年寄りの病気)

高齢者での特殊事情

 急性腎不全と同様に自覚症状に乏しく、また、この病気に特有な症状はありません。

 血清クレアチニン(Cr)値は腎機能だけでなく筋肉量にも関係しますが、高齢者では一般的に筋肉量が少ないので、腎機能低下のわりには血清クレアチニンが低値にとどまることが多くみられます。若年者と比較して栄養状態が悪く、蛋白分解による異化も亢進し、尿素窒素(BUN)が高い場合が多いことにも留意する必要があります。

診断

 慢性腎不全の進行度は、糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)では早く、良性腎硬化症(りょうせいじんこうかしょう)ではゆるやかであることも診断にあたっては参考にすべきです。腎不全の診断は、高窒素血症(こうちっそけっしょう)の状態をどのように判断するかによりますが、前項の急性腎不全と同様に、腎機能の評価はBUN、Crではなく、可能なかぎりクレアチニン・クリアランスで評価すべきです。最近は、年齢と性別を考慮した推算糸球体濾過率で判定することが多くなっています。

治療とケアのポイント

 食事療法は、蛋白制限(0.6g/㎏以下)とカリウム制限(1500㎎以下)が重要です。薬物療法として、糖尿病性腎症IgA腎症ではアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬が腎保護作用を示すので、少量から慎重に投与します。また、血清クレアチニン値が2㎎/㎗以上であれば、サイアザイド系利尿薬は使わないで、ループ利尿薬を使います。

 透析導入後は、合併症防止と日常生活動作(ADL)、生活の質(QOL)の維持、社会生活復帰が主体になります。したがって、食事療法も各種の制限は緩和されます。蛋白制限は血液透析(HD)で体重1㎏あたり1.0~1.2g、腹膜透析(CAPD)では1.1~1.3gとなります。カリウム制限は、HDでは1500㎎以下と薬物療法が必要ない保存期腎不全と同じですが、CAPDでは2000~2500㎎に緩和されます。

 薬物療法は500mlの利尿が保持されていれば、体液管理の目的でループ利尿薬を使用します。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「慢性腎不全」の解説

まんせいじんふぜん【慢性腎不全 Chronic Renal Failure】

[どんな病気か]
 いろいろな原因で長期にわたって徐々に腎臓(じんぞう)のはたらきが低下していく状態をいいます。はたらきの落ちている程度によって、軽いほうから腎機能障害、腎不全、尿毒症(にょうどくしょう)(「尿毒症」)に分類されます。正常の2分の1以下に落ちている段階あたりから慢性腎不全といいます。
[症状]
 腎臓のはたらきの落ちている程度が軽い間はほとんど症状がありません。腎臓のはたらきが正常の5分の1以下に落ちてから、いろいろと症状が出てきます。自覚症状として尿の量が増える(とくに夜)、目のまわりや足のむくみ、疲れやすい、食欲がない、息切れがする、皮膚がかゆい、貧血、アンモニアの口臭がする、血圧が高いなどの症状が出てきます。子どもでは身長が伸びません。
[原因]
 原因としては、慢性腎炎、糖尿病性腎症、腎硬化症(じんこうかしょう)、嚢胞腎(のうほうじん)の順となっています。最近は糖尿病からくる糖尿病性腎症が増えています。子どもでは、大部分が腎臓の先天的発育障害が原因となっています。
[検査と診断]
 腎臓のはたらきを調べる検査として、血液、尿の検査が行なわれます。血液検査の尿素窒素(にょうそちっそ)、クレアチニンの高い値、血液と尿のクレアチニンの値から計算するクレアチニンクリアランスの低下などがみられます。腎炎ではたんぱく尿がみられます。そのほか、超音波検査により腎臓の状態を調べます。
[治療]
 食事療法と薬物療法が中心です。食事療法の基本はたんぱく制限と高カロリー食です。状態に応じて、水分、塩分の制限が必要になります。具体的には、専門の医師、食事療法士に相談してください。薬物療法は、腎不全によっておこる症状を改善させるためのものです。たとえば、血圧を下げる薬(降圧薬)、尿量を増やす薬(利尿薬)などが投与されます。いよいよ末期の腎不全になったなら、(人工)透析療法(「人工透析」)に移行します。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「慢性腎不全」の意味・わかりやすい解説

慢性腎不全
まんせいじんふぜん
chronic renal failure; CRF

腎機能が徐々に低下し,糸球体ろ過量の減少をきたす症候群。急性腎不全が時間や日の単位で悪化するのに対し,慢性腎不全は月や年の単位で悪化していく。また,一般に急性腎不全の症状は可逆的だが,慢性腎不全の場合は悪化する一方であるといわれる。症状は,糸球体ろ過量により4期に分けられる。第1期は糸球体ろ過量が通常の2/3以上の状態をいい,この段階では自覚症状はない。第2期は通常の2/3以下で,多尿がみられる。第3期は通常の1/3以下,第4期は通常の1/5以下である。第4期まで進むと尿毒症が現れ,人工透析療法が必要となる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の慢性腎不全の言及

【腎不全】より

…腎臓の機能のうち,糸球体のろ(濾)過機能の低下によって,生体内のホメオスタシスが維持できなくなった状態をいう。腎不全は,急速に発症し,回復の可能性のある急性腎不全と,非可逆的に進行する慢性腎不全に分けられる。
[急性腎不全]
 急激に発症し,数時間から数日の間に腎不全になるもので,90%以上は腎臓以外の誘因によって発生する。…

※「慢性腎不全」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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