懸・掛・賭(読み)かけ

精選版 日本国語大辞典 「懸・掛・賭」の意味・読み・例文・類語

かけ【懸・掛・賭】

[1] (動詞「かける(懸)」の連用形の名詞化)
① 言葉に出して言うこと。また、その言葉。
万葉(8C後)一〇・一八一八「子らが名に関(かけ)のよろしき朝妻片山岸に霞たなびく」
② 物を留めたりひっかけたりする部品、ひも、道具など。
太平記(14C後)二三「懸もはづさぬ車より、飛下ける程に」
近世の上流婦人の上着。うちかけ。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三「『お規式(ぎしき)の時にはお下髪で、お眉を遊して、地黒や地白や時々のお襠(カケ)を召て』『お襠(カケ)とはへ』『お襠(うちかけ)さ』」
④ 帯の部分の名。帯をしめ始めるとき、腰に回して短いほうの端をいう。→垂(た)れ
※つゆのあとさき(1931)〈永井荷風〉三「君江は男の胸の上に抱かれたまま、羽織の下に片手を廻し、帯の掛けを抜いて引き出したので」
金銭の支払いを後でする約束で行なう売買。かけ売り。かけ買い。
※浮世草子・好色一代女(1686)四「棚店に掛(カケ)はかたくせぬ事なれども」
⑥ 支払う約束で、まだ払われていない金。かけ金。
※多聞院日記‐天正九年(1581)六月六日「薬屋方かけ今日迄は悉済了」
浄瑠璃・丹波与作待夜の小室節(1707頃)中「よっぽどあいつにかけも有。丸はだかにして成共、かけを取て」
⑦ かけ売りの代金を取り立てること。また、その人。かけこい。かけとり。
※俳諧・俳諧三部抄(1677)上「せむる懸やらふ声には鬼もなし〈正休〉」
⑧ 前々からの予定や計略。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※仮名草子・犬枕(1606頃)「いやなる物〈略〉かけの有夜のなが客人
相撲の手で、足を相手の足にからませて倒すわざの総称。内がけ、外がけ、切り返しなどの類。
江戸繁昌記(1832‐36)初「投・繋(カケ)・捻・(そり)、啻だ力を闘はすならず、知を闘し術を闘す」
⑩ 相撲で、引き分けになること。勝負なし。あずかり。
※歌舞伎・極附幡随長兵衛(1881)序幕「角力は掛けになった上、明日の興行にも拘はる仕儀」
柔道などで、相手を投げるために技を掛けること。
囲碁で、高い位の石から低い位の相手の石に対して高圧する手段。
※雑俳・歌羅衣(1834‐44)三「がっかり・楠屋で掛ケを喰って帰り」
※温泉宿(1929‐30)〈川端康成〉秋深き「敷きのやうに固い掛けなのだが」
⑮ =かけじ(懸路)〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑯ (賭)
(イ) 互いに金銭や物品を出し合って、勝ったほうがそれを手に入れるという約束で勝負を争うこと。かけごと。
※玉塵抄(1563)一七「大擲は大がけをして百貫とも二百貫ともかけをして打たぞ」
(ロ) 結果を運にまかせてする行為。成功する可能性の少ない危険な行為。「かけに出る」
⑰ (pari訳語) 実存主義哲学の用語。自己の実存意識の中で、自分の現状を十分に認識した上で、未来のあるべき自分自身になろうと決意すること。
[2] 〘接尾〙
① 数量を表わす語に添えて、一人で背負える程度の物を数えるのに用いる。
※宇津保(970‐999頃)国譲下「山籠にとらせ給ふべき物とて、御衣櫃ひとかけに、檀ひとかけ持たせ給ふ」
② 数量を表わす語に添えて、細長いものを数えるのに用いる。
言継卿記‐大永七年(1527)四月一八日「法印同罷候、中御門御亭へ馬手綱、二懸、弁に一懸遣候」
③ 鐙(あぶみ)、鞦(しりがい)などの一対、また、魚、特に二匹の鯛(たい)を向かい合わせにした、掛鯛(かけだい)を数えるのに用いる。
※伊京集(室町)「一懸 ひとカケ 鯛」
④ (動詞の連用形に付けて)
(イ) その動作をし始めて、まだ中途であることをあらわす。
※家(1910‐11)〈島崎藤村〉上「終(しまひ)には玩具(おもちゃ)にも飽いて、柿の食ひかけを机の上になすりつけ」
(ロ) その動作が起ころうとする直前の状態であることを表わす。「死にかけ」「つぶれかけ」
(ハ) その動作のついでである意を表わす。がけ。
※石山本願寺日記‐宇野主水日記・天正一一年(1583)七月四日「岸和田中村孫平次へも、内匠のぼりかけに、御案内として罷越、頼廉より折紙遣之」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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