我慢(読み)ガマン

デジタル大辞泉 「我慢」の意味・読み・例文・類語

が‐まん【我慢】

[名・形動](スル)
耐え忍ぶこと。こらえること。辛抱。「彼の仕打ちには我慢がならない」「ここが我慢のしどころだ」「痛みを我慢する」
我意を張ること。また、そのさま。強情。
「―な彼は…うわべでは強いて勝手にしろという風を装った」〈漱石道草
仏語。我に執着し、我をよりどころとする心から、自分を偉いと思っておごり、他を侮ること。高慢。
「汝仏性を見んとおもはば、先づすべからく―を除くべし」〈正法眼蔵・仏性〉
[用法]我慢・辛抱――「文句ばかり言ってないで、もっと我慢(辛抱)することを覚えなさい」のように、一般的に、こらえるの意味では相通じて用いられる。◇「仕事はきつかったが、どうにか我慢(辛抱)した」「食糧不足によるひもじさを我慢(辛抱)した」など、苦しさ・つらさ・痛さ・寒さ・くやしさなどをこらえる場合、「我慢」「辛抱」の用法にほとんど違いはない。◇「我慢」は、そのほかに「笑いだしたいのを我慢する」など、より幅広く使える。「辛抱のよい人」は「辛抱」独特の使い方である。◇類似の語に「忍耐」がある。「忍耐」は文章語的で、「忍耐を要する仕事」「忍耐力に富む」などのように用いられる。
[類語]忍耐辛抱耐える耐え忍ぶ忍ぶこらえる隠忍忍従頑張る歯を食いしばる涙を呑む抑える

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精選版 日本国語大辞典 「我慢」の意味・読み・例文・類語

が‐まん【我慢】

〘名〙
① 仏語。七慢一つ。我(が)をよりどころとして心が高慢であること。自分をたのんで、自ら高しとすること。自分自身に固執して他人をあなどること。うぬぼれ。
今昔(1120頃か)一「衆生の始は冥初より始る。冥初より我慢(がまん)を発(おこ)す。我慢より痴心を生ず」
太平記(14C後)一八「爰に我慢(ガマン)邪慢の大天狗共、如何にして人の心中に依託(えたく)して」 〔成唯識論‐四〕
② (形動) 我意を張ること。強情であること。弱さを見せまいとすること。また、そのさま。
蔭凉軒日録‐長享二年(1488)三月三〇日「折公我慢情識者、相宥一衆習等可恒」
※道草(1915)〈夏目漱石〉五四「我慢(ガマン)な彼は内心に無事を祈りながら、外部(うはべ)では強ひて勝手にしろといふ風を」
③ (━する) じっと耐え忍ぶこと。辛抱すること。
洒落本・深彌満於路志(1782)閨中之於世話口答「我慢(ガマン)のみの茶碗酒
※帰郷(1948)〈大仏次郎遅日ふいと、くっと笑ひが込み上げて来て、我慢するのに骨が折れた」
④ (仁侠の徒が、入れ墨を彫る時の苦痛を耐え忍んで負けぬ気の強いことを示すためにしたところから) 入れ墨。
[語誌]①が原義であり、自己中心的な否定的な意味の語であった。「自分自身に固執する」ところから②に転じ、さらに「我意を張り通す心の強さ、強情な態度」に目が向けられ、③に転じたものと思われる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「我慢」の意味・わかりやすい解説

我慢
がまん

サンスクリット語アスミマーナasmimānaの訳語。仏教教義においては、心の傲(おご)りを「慢」と称して煩悩(ぼんのう)の一種に数えているが、それに7種あるという。そのうち、「私は劣れるものより勝(すぐ)れているとか、等しいものと等しいのである」というように「私は……である」と考える心の傲りが狭義の慢であり、「五取蘊(ごしゅうん)(五つの執着の要素)は我(が)あるいは我所(がしょ)からなるものである」と考える心の傲りを我慢と称するのである。しかし一般には、自己を恃(たの)んで他人を軽んずる意に用いられ、その意味では我執(がしゅう)とほぼ同様の意味である。我執とは、「我ということば」というのが本来の語義で、なにかにつけ「俺(おれ)が俺が」と自己主張してやまない態度をさすのである。仏陀(ぶっだ)は、「人の思いはどこにでも飛んで行くことができる。だが、どこに飛んで行こうとも、自己より愛(いと)しいものをみつけ出すことはできない。それと同じように他の人々にも自己はこよなく愛しい。されば、自己の愛しいことを知るものは、他の人々を害してはならない。」と、自己の立場を止揚(しよう)して他者の立場に転換することを強調したのであるが、これは、「汝(なんじ)の隣人を汝自身を愛するように愛せ」と説いたキリストの精神と相通ずるものである。

 なお、我慢の意義は、のちに逆転して、自己主張を抑えることを「我慢する」というに至った。

[高橋 壯]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「我慢」の意味・わかりやすい解説

我慢
がまん
ātmamāna

仏教でいう7つの慢心の一つ,また4つの根本的な煩悩の一つ。自分のなかに,我 (アートマン) またはわがものがあると思う誤った見解。また心おごる煩悩のこと。

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世界大百科事典(旧版)内の我慢の言及

【サーンキヤ学派】より

…これは確認作用を本質とし,同じく三つの構成要素からなり,身体内部の一つの器官である。さらにそれから自我意識アハンカーラahaṃkāra(〈我慢〉)が現れる。これもまた3構成要素からなり,〈わがもの〉という観念の基体であり,根源的思惟機能を精神的原理であると誤認する。…

※「我慢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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