扁桃(読み)へんとう(英語表記)tonsil

翻訳|tonsil

精選版 日本国語大辞典 「扁桃」の意味・読み・例文・類語

へん‐とう ‥タウ【扁桃】

〘名〙
※用薬須知(1726)三「巴旦杏 一名偏桃 和名あめんどうす」
② のどの奥の両側にあるリンパ組織性の構造をもつ器官扁桃腺

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デジタル大辞泉 「扁桃」の意味・読み・例文・類語

へん‐とう〔‐タウ〕【×扁桃】

アーモンドの別名。
咽頭いんとうの粘膜にあるリンパ節集合体。アーモンドの種子に似た形をしている。口を開けたとき両側に見える口蓋こうがい扁桃、舌の付け根にある舌扁桃などがあり、細菌・ウイルスの侵入を防ぐ働きをする。

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改訂新版 世界大百科事典 「扁桃」の意味・わかりやすい解説

扁桃 (へんとう)
tonsil

かつて専門家の間でも〈扁桃腺〉と呼ばれていたが,〈腺〉とは汗腺,涙腺などのように,なにかを分泌するものをさす言葉なので妥当ではない。一般に扁桃といえば,口峡(口腔から咽頭に入る狭い咽門)両側にあるアーモンド(扁桃)の形をした二つの肉塊,正確にはリンパ網様組織を指していうが,厳密にはこれは口蓋扁桃と呼ばれるべきである。同じような組織に咽頭扁桃アデノイド),耳管扁桃,舌扁桃,中間扁桃,咽頭側索,咽後リンパ濾胞などがあり,呼吸ならびに消化器の第1関門である咽頭において環状を成す。ワルダイエル扁桃輪Waldeyer's tonsillar ringと呼ばれるこれらリンパ組織は,細菌などの抗原をとりこみ,抗体をつくって生体の防御に当たる。会社の玄関に陣取り,不審者をチェックするガードマンのような存在と考えてよい。扁桃は,胸腺やリンパ節などと同じく,一種のリンパ網様組織である。すなわち,網状繊維などが網の目のように張りめぐらされ,その中にリンパ球を中心とした各種細胞が充てんし,さらに血管,神経が入りこんで扁桃組織を形成する。扁桃には無数のへこみがあり,これを陰窩(いんか)と呼ぶが,陰窩の表皮は薄く,かつところどころまばらとなり,リンパ球が遊走する。また,このような個所を通じて細菌などの抗原がとりこまれる。すると,リンパ小節あるいはリンパ濾胞では,それに対抗して抗体がつくられ,輸出リンパ管を通って全身に送り出される。また免疫グロブリンAという分泌型抗体もつくられ,陰窩を経由して咽頭腔に排出される。幼小児期には,このような免疫機能がとくに活発なので,扁桃組織もそれに応じて増殖・肥大する。一方,抗原のとりこみによって扁桃自体が感染を受け,各種扁桃炎ならびに病巣感染をおこすので,生体に害を加えることになる。扁桃が生理的炎症性臓器と呼ばれるゆえんである。そこで,扁桃の炎症にあたっては,有利となる免疫機能と害になる炎症性疾患などをはかりにかけて,扁桃摘出の可否が決定される。扁桃が形成されるのは爬虫類から(鳥類で中断し,ファブリキウス囊がこれに該当するといわれる)であるが,人体の場合,胎児期第3ヵ月ころに第2鰓囊の上皮がめりこんでできる。すなわち,この陥没した内胚葉上皮の周りにリンパ球などが集まり,扁桃となるリンパ組織が形成される。

 なお扁桃には,上述扁桃炎などの炎症性疾患のほか乳頭腫などの良性腫瘍ならびに癌や肉腫などの悪性腫瘍がある。とくに中高年の男性で片側の扁桃がとくに大きい場合には,癌を考えなければいけない。このときには,たいてい上側頸部にある下二腹筋リンパ節がはれる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「扁桃」の意味・わかりやすい解説

扁桃
へんとう

口腔(こうくう)から咽頭(いんとう)への移行部(口峡)を取り巻くように粘膜上皮の下層に存在するリンパ組織で、リンパ小節の集合体からなる。広い意味では扁桃腺(へんとうせん)とよぶこともある。扁桃にはその存在部位によって、舌扁桃(ぜつへんとう)(舌根扁桃)、口蓋扁桃(こうがいへんとう)、咽頭扁桃、耳管扁桃(じかんへんとう)の4種類がある。舌扁桃は舌根面にあり、多数の丘状の高まり(舌小胞)の集合体である。口蓋扁桃は口峡のひだ(左右両側下方の口蓋舌弓(ぜつきゅう)と口蓋咽頭弓)の間にある。やや平たい卵形でアーモンド(扁桃)の種によく似た形をしており、扁桃のなかでは、もっとも発達している。狭い意味で扁桃腺とよぶ場合は口蓋扁桃のことをさす。咽頭扁桃は咽頭後壁の上部にあり、この下方への続きは耳管咽頭口の周囲に存在する耳管扁桃に連続している。後二者の扁桃は俗に「鼻の扁桃腺」ともよばれ、外からは見えないが、後鼻鏡を使えば見ることができる。

 4種の扁桃は円筒状の咽頭壁を取り巻く輪を形成しているので、ドイツの解剖学者ワルダイエルW. von Waldeyer(1836―1921)は、リンパ上皮性咽頭輪と総称した。これら扁桃の構造には、それぞれ多少の相違があるが、粘膜上皮の下層に多くのリンパ小節が上皮とほぼ平行に一列に並んでいる点は共通である。扁桃表面の粘膜上皮には凹凸がみられ、陰窩(いんか)とよばれる深い陥入をつくってリンパ小節まで細管を伸ばしている。リンパ球は抗体産生細胞(形質細胞)や顆粒性(かりゅうせい)白血球などとともに、この陰窩に遊出して唾液(だえき)中に出る。これらの細胞を唾液小体という。扁桃はいずれも生後に発達し、成人後は多少縮小する。子供では口蓋扁桃や咽頭扁桃がしばしば炎症をおこして腫脹(しゅちょう)し、摘出手術の対象となることがある(咽頭扁桃の腫脹したものをアデノイドとよぶ)。なお、ラテン語、英語では、扁桃をtonsilというが、これはローマ時代の船の停泊地をさすという。

[嶋井和世・上見幸司]


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家庭医学館 「扁桃」の解説

へんとう【扁桃】

 扁桃は、咽頭(いんとう)に環状(かんじょう)に存在するリンパ組織の総称で、ワルダイエルの扁桃輪(へんとうりん)(リンパ環)とも呼ばれます。
 咽頭扁桃(いんとうへんとう)(アデノイド)、耳管扁桃(じかんへんとう)、口蓋扁桃(こうがいへんとう)、舌扁桃(ぜつへんとう)、咽頭側壁(いんとうそくへき)リンパ濾胞(ろほう)から成っていますが、ふつう扁桃というと、口の中に見える一対の口蓋扁桃をいいます。
 扁桃は、鼻や口から侵入する病原微生物に対して防御的機能をもつ免疫臓器(めんえきぞうき)と考えられています。一方、病原微生物の標的になる感染臓器でもあり、このような免疫臓器と感染臓器の二面性をもつのが、扁桃の特徴です。
 扁桃は一般に扁桃腺(へんとうせん)と呼ばれますが、腺構造はなく、扁桃が正しい呼び方です。

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百科事典マイペディア 「扁桃」の意味・わかりやすい解説

扁桃【へんとう】

扁桃腺とも。口腔およびその付近の粘膜内部にある発達したリンパ小節の集合体。口蓋弓の下部にある左右1対の口蓋扁桃は最大で,扁桃といえば口蓋扁桃をさすことが多い。そのほか咽頭(いんとう)扁桃,舌扁桃,耳管扁桃などがある。リンパ組織で,細菌などの侵入物に対して,抗体をつくって,生体の防御にあたるが,その際扁桃自体が感染を受けて,扁桃炎を生じることがある。
→関連項目扁桃炎扁桃肥大

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「扁桃」の意味・わかりやすい解説

扁桃
へんとう
tonsil

咽頭は細菌やウイルスの感染を受けやすいため,粘膜下にリンパ組織が発達している。このリンパ小節の集合体を扁桃という。口蓋扁桃,舌扁桃,咽頭扁桃などがあり,リンパ球をつくったり食菌作用を行う。俗に扁桃腺とも呼ばれる。

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栄養・生化学辞典 「扁桃」の解説

扁桃

 咽頭の粘膜の中にあるリンパ細胞からできた小胞の集合体.口蓋扁桃,咽頭扁桃,舌扁桃,耳管扁桃などがある.

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動植物名よみかた辞典 普及版 「扁桃」の解説

扁桃 (アーモンド・アメンドウ;ヘントウ)

学名:Prunus communis
植物。バラ科の落葉小高木,薬用植物

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