打・討・撃・撲・拍・擣・搏・伐・射(読み)うつ

精選版 日本国語大辞典 の解説

う・つ【打・討・撃・撲・拍・擣・搏・伐・射】

[1] 〘他タ五(四)〙
[一] 物に物を強く当てる。また、たたくような動作をする。強く刺激を与える。
① 物を、物に向けて強く当てる。たたく。ぶつ。ぶつける。
(イ) 手や、鞭(むち)、杖(つえ)などの手に持った道具で、物をたたく。
※万葉(8C後)一四・三五三六「赤駒を宇知(ウチ)てさを引(び)き心引きいかなる背なか我がり来むといふ」
※説経節・さんせう太夫(与七郎正本)(1640頃)中「いたはしやつし王殿は、今は姉御を、うつかたたくかさいなむか」
(ロ) 雨、風、波、雷などが強くうちつける。自動詞的にも用いる。
古事記(712)下・歌謡「笹葉に宇都(ウツ)や霰(あられ)の」
※土左(935頃)承平五年一月二六日「追風の吹きぬるときはゆく船の帆手うちてこそうれしかりけれ」
(ハ) からだなどをあるものに強くぶつける。
※虎明本狂言・神鳴(室町末‐近世初)「あいたやなふ、ああいかふこしをうったよ」
② 火を出すために、火打ち石をたたく。
貫之集(945頃)八「をりをりにうちて焚(た)く火のけぶりあらば心ざす香をしのべとぞ思ふ」
③ 楽器や手を鳴らす。
(イ) (拍) たたいて鳴らす。
※万葉(8C後)四・六〇七「皆人を寝よとの鐘は打(うつ)なれど君をし思へば寝(い)ねかてぬかも」
(ロ) 弾いて鳴らす。弾ずる。
※続日本後紀‐承和九年(842)八月甲戌「天には琵琶をそ打なる」
④ (擣) つやを出すために、砧(きぬた)で衣をたたく。また、柔らかくするために、藁(わら)などをたたく。
※枕(10C終)二七八「葡萄染(えびぞめ)の織物の直衣(なほし)、濃き綾(あや)のうちたる、紅梅の織物など着給へり」
※山椒大夫(1915)〈森鴎外〉「安寿は糸を紡ぐ。子王は藁を擣(ウ)つ」
⑤ 弓の弦(つる)をはじく。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
⑥ 古綿や繰り綿を綿弓ではじく。
※浮世草子・日本永代蔵(1688)五「打綿の弓〈略〉もろこし人の仕業を尋ね、唐弓といふ物はじめて作り出し、世の人に秘(かく)して横槌にして打(ウチ)ける程に」
⑦ 球戯で、球をたたいて飛ばす。
※学生時代(1918)〈久米正雄〉選任「つづいて第二球が来た。彼は此度は曲らぬ前を打たうと思って」
⑧ (撲・搏) 相手と引っ組む。ぶつかり合って争う。〔名語記(1275)〕
⑨ 製品を作るために、材料を鍛えたりして手を加える。
(イ) 金属を鍛えて、刀剣などを作る。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)出羽三山「此国の鍛冶、霊水を撰(えらび)て爰に潔斎して剣を打(うち)
(ロ) 弓、沓(くつ)、面などを作る。
※申楽談儀(1430)面の事「面ども打(うち)て、近江申楽(あふみさるがく)に遺物(ゆひもつ)しけるが」
(ハ) 練り固め、たたいて、そば、うどんなどを作る。
※俳諧・古活字版中本犬筑波集(1532頃)雑「是非ともに又も来らばうちやせん うどんたらいでかへすきゃくしん」
⑩ たたいて伸ばす。「金箔をうつ」
※太平記(14C後)一四「錦の御旌(はた)を指し上げたるに、俄(にはか)に風烈しく吹いて、金銀にて打て著けたる月日の御紋きれて」
⑪ (たたくような動作をするところから) 田畑を掘り返す。耕す。
※古事記(712)下・歌謡「山城女(やましろめ)の 木鍬(こくは)持ち 宇知(ウチ)し大根(おほね)
※万葉(8C後)一一・二四七六「打(うつ)田に稗(ひえ)はしあまたありといへど択(え)らえし我そ夜をひとり寝(ぬ)る」
⑫ (むちでたたくことから) 馬を走らせる。馬に乗る。
※今昔(1120頃か)二五「然ば前(さき)に打(うち)て渡れ。頼信其れに付て渡らむと云て、馬を掻(かき)早めて打寄ければ」
⑬ 物事のきまりがついたことを祝って、手をたたく。手をしめる。
歌舞伎伊勢平氏栄花暦(1782)三立(暫)「『目出度く顔見世の御祝儀に打ちやせうか』『よいよいよい、よいよいよい』ト手を拍つ」
⑭ (「金を打つ」という形で) 刀の刃、鍔(つば)、小柄(こづか)などをうち合わせて誓約する。金打(きんちょう)を行なう。
※今昔(1120頃か)一六「観音の御前にして、師の僧を呼て、金打て事の由を申させて」
しるしを付ける。
(イ) たたくような動作で、しるしを付ける。銘を刻む。
徒然草(1331頃)一六三「太衝(たいしょう)の太の字、点うつ、うたずといふ事」
(ロ) 墨縄で、まっすぐな線を付ける。
※万葉(8C後)一一・二六四八「かにかくに物は思はじ飛騨人の打(うつ)墨縄のただ一道に」
(ハ) さお、縄などで、土地を測量する。「検地をうつ」
※日葡辞書(1603‐04)「サヲヲ vtçu(ウツ)
⑯ (太鼓を打つところから) 芝居、相撲などを興行する。また、巡業する。
浄瑠璃・妹背山婦女庭訓(1771)五「三つの恵みも鎮常(とこしなへ)打てばはづさぬ陣太鼓」
※滑稽本・続々膝栗毛(1831‐36)三「寺勧化(くゎんげ)のために芝居を興行(ウチ)てへといって」
⑰ 針を突き入れる。また、注射をする。
※虎寛本狂言・神鳴(室町末‐近世初)「今の様にうごかせられては針が打(うた)れませぬ程に、動かぬ様に被成て被下い」
⑱ キーをたたいて操作する。
(イ) (キーをたたくところから) 電報を発信する。
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉一〇「一通の祝電をうった」
(ロ) タイプライター、ワープロ、パソコンなどを操作して文字を入力する。「ワープロをうつ」
⑲ (鐘、太鼓をたたいたり、時計が打ったりして) 時を知らせる。〔ロドリゲス日本大文典(1604‐08)〕
※不言不語(1895)〈尾崎紅葉〉二「床の間の置時計十時を打てば」
⑳ たたくように動かす。ばたばたさせる。
※別天地(1903)〈国木田独歩〉下「無心の鴎(かもめ)は其白き翼を搏(ウッ)彼方此方を翔け廻って居る」
㉑ 心や感覚器官に刺激や感動を与える。
※めぐりあひ(1888‐89)〈二葉亭四迷訳〉二「貴嬢(あなた)を見て美に撲(ウ)たれないものはない」
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉六「一歩踏込めば、臭気鼻を撲つ」
㉒ (自動詞的な用法) いやな経験をして閉口する。気がふさぐ。
※洒落本・古今三通伝(1782)「そう気どられては、ちとうつね」
[二] たたいたり、はったりして、ある物を安定させる、固定する。また、ある状態に作りあげる。
① くぎ、くいなどを、たたいて入れこむ。
※古事記(712)下・歌謡「泊瀬(はつせ)の川の 上つ瀬に 斎杙(いくひ)を宇知(ウチ) 下つ瀬に 真杙(まくひ)を宇知(ウチ)
② 額や札などをうちつける。掲げる。とりつける。
※保元(1220頃か)中「黒糸威の鎧(よろひ)に、鍬形(くはがた)(うっ)たる冑(かぶと)を着」
※徒然草(1331頃)一六〇「門に額かくるを、うつといふはよからぬにや。勘懈由小路二品禅門は、額かくるとのたまひき」
※火の柱(1904)〈木下尚江〉二「何がし学校の記章打ったる帽子」
③ 紙や、膏薬などをはり付ける。
※右京大夫集(13C前)「ほうぐえりいだして、料紙にすかせて、経かき、またさながらうたせて」
※歌舞伎・芽出柳緑翠松前(1883)大詰「数ケ所の疵所(きずしょ)へ膏薬打ち」
④ (荷物などを)積み加える。
※万葉(8C後)五・八九七「ますますも 重き馬荷に 上荷(うはに)(うつ)と いふことのごと」
⑤ 物をうちつけたりして、仮に作り設ける。
(イ) 桟敷(さじき)、梁(やな)、屋根などを構え作る。
※万葉(8C後)三・三八七「いにしへに梁打(うつ)人の無かりせばここにもあらまし柘(つみ)の枝はも」
(ロ) 幕や綱などを張る。
※大和(947‐957頃)一四七「生田の川のつらに、女、平張(ひらばり)をうちてゐにけり」
⑥ 門などをしめる。とざす。「城戸をうつ」
※浄瑠璃・仮名手本忠臣蔵(1748)三「表御門、裏御門両方打たる館の騒動」
⑦ (かたちが整うように)添える。
※浮世草子・西鶴織留(1694)四「先(まづ)(わん)折敷(をしき)に箸(はし)までうって、皿、小道具までを三人の請取にて出せば」
⑧ ひも、縄、むしろなどを編む。組む。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※俳諧・曠野(1689)員外「大勢の人に法華をこなされて〈越人〉 月の夕に釣瓶縄(つるべなは)うつ〈傘下〉」
⑨ 罪人などに縄をかけたり、枷(かせ)をはめたりして動けなくする。「縄を打つ」
※浄瑠璃・出世景清(1685)四「足を牢より引き出だし左手(ゆんで)右手(めて)へ取ちがへ、山だし七十五人してひいたる楠の木にてあげほだしをうたせ」
⑩ 型に流し込んで固める。〔日本建築辞彙(1906)〕
※岬(1975)〈中上健次〉「掘り方を終えると、すぐ、コンクリを打つ作業にかかるはずだった」
[三] 手、または道具を使って遠くへ飛ばす。また、投げるような動作で、あることを行なう。
① (撃・射) 投げる。放つ。発射する。また、当てて傷つける。
(イ) 物を投げる。道具から発射する。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※彼岸過迄(1912)〈夏目漱石〉風呂の後「蛸(たこ)の大頭を目懸けて短銃(ピストル)ポンポン打つんだが」
(ロ) (投げたり、発射したりして)当てる。当てて傷つけ殺す。
※宇津保(970‐999頃)蔵開中「南のおとどより、かうじを一つなげて、大将をうつ人あり」
※宇治拾遺(1221頃)三「庭に雀のしありきけるを、童部(わらはべ)、石をとりて打たれば」
② 投げ広げる。撒(ま)く。
(イ) 物を投げ広げたり、撒いたりする。
※虎明本狂言・福の神(室町末‐近世初)「いざさらばまめをうたふ」
※雑俳・もみぢ笠(1702)「それぞれに風呂敷打って侘花見」
(ロ) (網を投げて)とらえる。〔日葡辞書(1603‐04)〕
③ (身を)思い切って投げ捨てる。ほろぼす。
※浄瑠璃・生玉心中(1715か)下「命惜しいほどなら高で身をうつこともない」
④ ばさっと落とす。
※日葡辞書(1603‐04)「イカリヲ vtçu(ウツ)
[四] 武器などで、傷つけ倒す。
① たたいたり切ったりして傷つけ殺す。
※古事記(712)中・歌謡「久米の子らが 頭椎(くぶつつ)い 石椎(いしつつ)いもち いま宇多婆(ウタバ)良らし」
※浄瑠璃・女殺油地獄(1721)上「討(うっ)て捨(すつ)ると刀の柄に手をかくる」
② 攻撃する。相手の弱点をつく。
(イ) (討・伐) 攻める。攻め滅ぼす。
※大唐西域記巻十二平安中期点(950頃)「兵を興し衆を動して咀叉始羅国を伐(ウツ)
(ロ) (駁) 非難する。他人の意見などを攻撃する。
※浮世草子・傾城禁短気(1711)一「てれん上人といふ此宗旨の尻持、強(あなが)ちに女道宗を破して〈略〉諸の流身派の女道門をうつ事」
③ たたき切る。切りとる。
※万葉(8C後)一四・三四七三「佐野山に宇都(ウツ)や斧音(をのと)の遠かども寝もとか子ろがおもに見えつる」
[五] 時機を失しないである事を行なう。すばやく動作する。たたくような動作に関係する場合が多い。
① 碁(ご)、すごろくなどの遊戯をする。
※古今(905‐914)雑下・九九一・詞書「まかり通ひつつ碁うちける人のもとに」
※談義本・世間万病回春(1771)三「かのよみかるたうつ人の」
② ばくち、遊びなどにふける。「どらをうつ」
※徒然草(1331頃)一二六「ばくちの負きはまりて、残りなく打ち入れんとせんにあひては、うつべからず」
※油地獄(1891)〈斎藤緑雨〉八「拳を打ったり歌を唱ったり」
③ 強盗などをはたらく。
※言継卿記‐大永七年(1527)五月六日「事外世上盗人夜々打候。此御所へも可打由雑説あり」
④ 総金額のうち、いくらかを渡す。また、品物の交換などで、不足金を支払う。「手金をうつ」
※歌舞伎・桑名屋徳蔵入船物語(1770)三「『庄六。替へんかい』『なんぼううつぞ』『やみぢゃ』『滅相な。たかでまたげの仕事にやみ打ってたまるもんかい』」
⑤ 祝儀などを与える。心づけをやる。「花をうつ」
※浮世草子・俗つれづれ(1695)五「お衆さまがた持あはせが御座らばすこしの露をうたしゃりましょ」
⑥ ある手段をとる。「にげをうつ」「なげをうつ」「ストをうつ」
※金刀比羅本保元(1220頃か)中「敵の上手(うはて)をうたんと申し候ひつるは、ここ候ふぞ」
⑦ 急激にひっくり返るような動作をする。「もんどりをうつ」「なだれをうつ」 〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「枕に就いて二三度臥反(ねかへ)りを打ったかと思ふと」
[六] 周期的、もしくは等間隔に繰り返される動作・状態についていう。
(イ) 「…をうつ」の形で用いる。「脈を打つ」
※全九集(1566頃)一「左右の三邪ともに一向に脉うたざるをば双伏といへり」
※倫敦塔(1905)〈夏目漱石〉「肩を揺り越した一握りの髪が軽くうねりを打つ」
(ロ) (自動詞的な用法) 等間隔で動きを繰り返す。「心臓がうつ」
※それから(1909)〈夏目漱石〉一「動悸は相変らず落ち付いて確に打ってゐた」
(ハ) (自動詞的な用法) ずきずきする、どきどきするような動作にいう。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉三「頭痛がうったり脚病がしたりするのは」
[2] 〘自タ下二〙 ⇒うてる(打)

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