托鉢(読み)たくはつ

精選版 日本国語大辞典 「托鉢」の意味・読み・例文・類語

たく‐はつ【托鉢】

〘名〙 (pindapātika の訳。鉢に物を受ける意)
① 仏語。出家が鉢を持って食のほどこしを受けること。禅宗では特に厳重な規律を定め、修行一環とするが、諸宗でも広く行なう。僧尼が鉢を持って経文を唱えながら各戸をまわり、米や銭などの施与を鉢に受ける。乞食(こつじき)行乞。鉢開き。
※東海夜話(1645頃)上「朝入城中托鉢して食ふ」
② 仏語。禅寺粥飯の時に、僧尼が鉢をもって食堂に行くこと。
※寛永十年刊本無門関鈔(17C前)上「悟上の衲僧が托鉢して法堂に下たは只ではあるまいと」 〔続伝燈録‐惟正禅師〕

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デジタル大辞泉 「托鉢」の意味・読み・例文・類語

たく‐はつ【×托鉢】

[名](スル)僧尼が修行のため、経を唱えながら各戸の前に立ち、食物金銭を鉢に受けて回ること。乞食こつじき行乞ぎょうこつ

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改訂新版 世界大百科事典 「托鉢」の意味・わかりやすい解説

托鉢 (たくはつ)

サンスクリットのパインダパーティカpaiṇḍapātikaの訳で,行乞(ぎようこつ),乞食(こつじき)などとも訳される。インドでは婆羅門(ばらもん)教などに鉢をもって在家に食を乞(こ)うことが行われたが,仏教もその風習をとり入れ,出家した僧は,厳密に定められた種々の規律に従って行乞を行い,生活の手段とした。中国や日本では主として禅宗において行われ,軒鉢(けんぱつ)と称して家ごとに喜捨を乞うていく形式と,連鉢(れんぱつ)と称して一軒一軒立ちどまることなく道を歩く様式がある。服装は法衣をまくり上げる手巾(しゆきん)と称する紐を腰に締めて袈裟をつけ,頭に網代笠(あじろがさ)をかぶり,足に白脚絆・白足袋をつけ草鞋(わらじ)をはく。経を誦したり,〈ホーオー〉と声を出し,また鈴を振るなどして,托鉢に来たことを知らせながら歩く。供養物の喜捨があれば応量器(おうりようき)もしくは頭陀袋(ずだぶくろ)を出して受け取る。一般的には明治以降禁止されているが,禅宗の専門道場で修行する雲水が行い,また雲水以外でも慈善事業を目的として行われることがある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「托鉢」の意味・わかりやすい解説

托鉢
たくはつ

鉢(はつ)(とくに鉄鉢(てっぱつ))を持って食物を乞(こ)うこと。乞食(こつじき)ともいう。托鉢の語は中国宋(そう)代から用いられるようになった。パーリ語、サンスクリット語ではピンダパータpiapātaといい、インドの修行者は、托鉢によって食物を得た。最初期の仏教の比丘(びく)たちは、もっぱら托鉢によって食を得たが、のちに仏教信者からの「招待食(しょうたいじき)」も受けるようになった。頭陀行者(ずだぎょうじゃ)たちは、あえて招待食を拒否し、托鉢食のみによった。現在スリランカ(セイロン)、ミャンマー(ビルマ)、タイなどの仏教国で、早朝托鉢をする黄衣の僧たちの姿がみられる。日本では、禅宗や普化(ふけ)宗などでとくに托鉢が行われ、修行の一つともみなされている。雲水(うんすい)たちは、托鉢をしながら諸国を行脚(あんぎゃ)し修行に励む。

[阿部慈園]


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百科事典マイペディア 「托鉢」の意味・わかりやすい解説

托鉢【たくはつ】

仏僧が,鉢を持ち,食物を乞うて歩くこと。乞食(こつじき)とも。その方法には厳密な規定がある。托鉢の語は中国で宋代から使用された。禅宗ではとくに重要な修行とされ,日を定め集団で托鉢に出た。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「托鉢」の意味・わかりやすい解説

托鉢
たくはつ
piṇḍapātika

仏教僧が経文を称えながら鉢を持って人家を回り食べ物を乞うこと。乞食 (こつじき) のこと。中国,宋時代からこの語は使われるようになった。

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普及版 字通 「托鉢」の読み・字形・画数・意味

【托鉢】たくはつ

乞食行。

字通「托」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の托鉢の言及

【乞食】より


[日本]
 こじきは地方によりコジキ,モライ,カタイ,ホイト,カンジン,ヘンドなどをはじめ実にさまざまの呼び名がある。ただしコジキの呼び名がもともとは仏教僧の托鉢(たくはつ)を意味する乞食(こつじき)からきているように,その多くは本来の意味からの転用である。したがって,こじきの範囲は今日一般に考えられているよりもはるかに広く,そのさかいめもあいまいであった。…

※「托鉢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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