日本大百科全書(ニッポニカ) 「指貫(衣服)」の意味・わかりやすい解説
指貫(衣服)
さしぬき
公家(くげ)男子の衣服の一種。横開き式の袴(はかま)で前後に腰(紐(ひも))がつけられ、前腰を後ろで、後ろ腰を前で、もろわなに結ぶ。裾口(すそぐち)に通した緒でくくり、すぼめるようにしてある袴。この形式は684年(天武天皇13)に定められた括緒褌(くくりおのはかま)の流れをくむもの。私服の直衣(のうし)や宿直装束(とのいしょうぞく)の衣冠(いかん)に用いられた。また、朝服である束帯の略式として表袴のかわりに指貫をはく装束を布袴(ほうこ)とよんだが、この名称は指貫の原型を示していて、もとは麻布製の、下級の者が用いる袴であった。そのため奴袴(ぬばかま)ともいわれた。そのほか、絹織物製の狩衣(かりぎぬ)が上級の者の日常着として使われるようになると、麻布製の狩袴にかえて指貫をはくようになった。指貫の裾括(くく)りの緒は普通、足首でしばり下括(げくく)りとよび、華やかに装うときは、括った緒の結び余りを外に出してあげまき結びをして飾りとした。非常の際は膝(ひざ)の下で縛り、上括(しょうくく)りとよんだ。地質は位階、老若によって異なり、公卿(くぎょう)の成年は紫や二藍(ふたあい)などの綾(あや)か固(かた)織物、壮年は薄色(うすいろ)や浅葱(あさぎ)の綾か固織物、若年は紫浮織物、殿上人(てんじょうびと)は紫平絹などとされている。
[高田倭男]