精選版 日本国語大辞典 「振・風」の意味・読み・例文・類語
ふり【振・風】
[1] 〘名〙 (動詞「ふる(振)」の連用形の名詞化)
※後鳥羽院御口伝(1212‐27頃)「大僧正は、おほやう西行がふりなり」
※役者論語(1776)耳塵集「天性ふりよく見事に生(そだち)たる松のごとし」
② 本当はそうではないのに、わざとそれらしくよそおった様子。まことしやかに見せかけるさま。風(ふう)。
※源平盛衰記(14C前)四五「何となき振(フリ)にもてなし、我れに知らせず首を打て」
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉一「いも虫は、このありが、小さいくせに、何をいふかと、知らぬふりをしてゐました」
※甲陽軍鑑(17C初)品一一「十年と左様の家中にあれば、大方、家のふりに成なり」
④ 行商人などが売り歩くこと。商いのために呼びまわること。また、その人。ふりうり。多く、他の語と複合して用いられる。「ふり按摩(あんま)」「ぼてふり」「ざるふり」など。〔随筆・守貞漫稿(1837‐53)〕
⑤ (形動) 近世以後、料理屋、旅館、茶屋、遊女屋などに客が来る場合に、紹介や予約なしで、だしぬけであること。なじみでなく、一見(いちげん)であること。突然であること。また、そのさま。
※歌謡・松の葉(1703)二・月見「どれでもどれでもふりに呼ばれし新造の」
⑥ (形動) 一時的であること。かりそめであること。また、そのさま。臨時。
⑦ 歌曲の歌いざま。歌いぶり。節まわしや声づかいの型による歌い方の特徴。
※郢曲抄(12C後)「郢曲もろもろの朗詠どもを唱。其ふりつよからぬやうにして」
※狂言歌謡・七つに成る子(鷺小舞)(室町末‐近世初)「此嵯峨の踊は、つづら帽子をしゃんと着て、踊る振が面白い」
⑩ 正常な状態・位置ではなく、ずれていること。狂い。ずれ。
⑪ 金銭を負担すること。特に、酒食などのふるまい。おごり。
※洒落本・三人酩酊(1799か)笑上戸の段「『いたかアいつまでもいなはいな』『こいつは有がてへ、そんならなをしてそっちがふりだぞ』」
⑬ 和服の部分の名。女物の袖で、袖付から袖下まで縫い合わせないであけてある部分。長い袖の八口(やつくち)をいう。
※浮世草子・男色大鑑(1687)三「丸袖を脇あけて着すると見えて。振(フリ)みぢかくあがり物の大小」
⑭ 「ふりそで(振袖)」の略。
※雑俳・楊梅(1702)「忍ぶ女の振袖(フリ)にこぼるるいわた帯」
⑮ 「ふりそでしんぞう(振袖新造)」「ふりそでおやま(振袖お山)」の略。
※雑俳・湯だらひ(1706)「ふりじゃてて裸にすればおなじ事」
⑯ 褌、腰巻、さるまたなどを着けず、陰部をあらわしていること。多くは男子についていう。むふん。ふりちん。ふりまら。
※雑俳・柳多留‐三(1768)「金ふきはふりに成るのがしまひ也」
⑰ (「振り出す」意から) 茶などを入れること。
※浄瑠璃・卯月の潤色(1707頃)中「茶屋で此方の参る茶は新造のふりか詰茶か」
⑱ 時計などの振子。〔慶応再版英和対訳辞書(1867)〕
⑲ 野球のバットやゴルフのクラブを振ること。また、振り具合。
[2] 〘接尾〙
① 刀剣を数えるのに用いる。
※平家(13C前)八「白うつくったる太刀一振」
② 振る動作の回数を表わすのに用いる。
※其面影(1906)〈二葉亭四迷〉三二「小夜子の手を握って、一振り振って、笑ひながら」
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