摩利支天(読み)まりしてん

精選版 日本国語大辞典 「摩利支天」の意味・読み・例文・類語

まりし‐てん【摩利支天】

(「麻利支」はmarīci音訳陽炎(かげろう)と訳す) 仏語。陽炎の神格化で、身を隠して障礙を除き、つねに日に仕えるとしてインド民間に信仰された神。日本では、中世武士守護神として信仰され、その形像は多くは三面六臂、または八臂の女神像に作る。摩利支尊天。摩利尊天。
太平記(14C後)五「是偏に摩利支天(マリシてん)冥応

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デジタル大辞泉 「摩利支天」の意味・読み・例文・類語

まりし‐てん【摩利支天】

《〈梵〉Marīciの音写陽炎かげろうの意》陽炎を神格化した女神。摩利支天経に説かれる。常に身を隠し、護身・得財・勝利などをつかさどる。日本では武士の守護神とされた。

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改訂新版 世界大百科事典 「摩利支天」の意味・わかりやすい解説

摩利支天 (まりしてん)

サンスクリット名marīci。威光,陽焰と訳され,摩里支,末利支,末利支提婆,摩利支天菩薩とも称する。みずからの姿を隠し,障害を除いて利益を施す天部で,梵天の子として古代インドの民間で信仰され,後に仏教に取り入れられた。密教では護身・隠身などのための修法である摩利支天法の本尊となり,二臂(にひ)像,三目六臂像,三面八臂像などがあるが遺例は少ない。《図像抄》などに見られる,三面八臂で猪の背の三日月の上に立つ形像がよく知られている。

 日本における摩利支天信仰のはじまりは明確ではないが,軍神として中世に受容されたものと思われる。特に忿怒形(ふんぬぎよう)の摩利支天が武士の守護神として信仰され,これを本尊として摩利支天法が修せられたと伝える。日蓮は〈法華経〉の信仰者を守る神として信仰し,室町時代の日親もこれを信仰した。江戸時代には,大黒天弁才天とともに三天と称され,蓄財と福徳の神として,特に商工業者の間に信仰された。江戸では上野徳大寺と雑司ヶ谷玄浄院が摩利支天をまつることで有名になり,町人たちがおおぜい参詣してにぎわった。忿怒の姿をとる摩利支天は,猪の背に乗っていることから,亥の日を縁日としている。徳大寺には,聖徳太子作といわれる開運大摩利支天を安置している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「摩利支天」の意味・わかりやすい解説

摩利支天
まりしてん

サンスクリット語マリーチMarīciの音写語。古くは一群の風神マルトの主といい、また創造主プラジャーパティの1人。かげろう、日の光を意味することばで、その神格化でもあり、漢訳経典で陽炎、威光と訳す。昔、帝釈天(たいしゃくてん)がアスラ(阿修羅(あしゅら))と戦ったとき、日と月を守ったという。自らは陰形、つまり姿を見せないが、この神を念ずると、他人はその人を見ず、知らず、害することなく、欺くことなく、縛することなく、罰することがない、という。日本では武士の守護神とされ、護身、陰身、遠行、保財、勝利をもたらすとされた。形像は通常、三面、各三眼、八臂(はっぴ)で金剛杵(こんごうしょ)、弓箭(きゅうせん)などを持ち、猪(いのしし)に乗る姿で示されるが、天女像の場合もある。

[奈良康明]

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百科事典マイペディア 「摩利支天」の意味・わかりやすい解説

摩利支天【まりしてん】

仏教を守護する善神。サンスクリットのマリーチーの音写。威光・陽炎とも訳す。もとインドでは梵天の子と称し,日光,風の神として信仰され,その姿を隠し,しかもよく障害を除くとされた。日本では武士の守護神として信仰された。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「摩利支天」の意味・わかりやすい解説

摩利支天
まりしてん

サンスクリット語 Marīciの音写で,「陽炎」を意味したがそれを神格化したもの。もとはヒンドゥー教の神であったが,のちに仏教の守護神として採用された。この神を念じれば,すべての災厄を免れることができるとされる。

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世界大百科事典(旧版)内の摩利支天の言及

【イノシシ(猪)】より

…日本では猪突猛進の武者が猪にたとえられるが,ヨーロッパでもイギリス王リチャード3世が猪にたとえられ,15世紀,フランスの猛将ラマルク伯ギヨームは〈アルデンヌの猪〉というあだ名をもらった。なお,ゲルマンの女神フレイヤは猪にまたがり,さらに摩利支天も猪にうちまたがるとされている。【山下 正男】
[日本民俗]
 日本では通常猪と書くが,これは中国では家猪,すなわち豚を指すので,漢字を用いる場合には注意を要する。…

※「摩利支天」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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