教区(読み)キョウク

デジタル大辞泉 「教区」の意味・読み・例文・類語

きょう‐く〔ケウ‐〕【教区】

布教や信者の指導・監督の便宜上設けられた区域。

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精選版 日本国語大辞典 「教区」の意味・読み・例文・類語

きょう‐く ケウ‥【教区】

〘名〙 布教や信者の指導または監督の便宜のために設けた区域。
※その前日(1963)〈遠藤周作〉「大明村はN神父が管轄する教区だが」

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改訂新版 世界大百科事典 「教区」の意味・わかりやすい解説

教区 (きょうく)

日本で教区という語は,パリッシュparishとダイオセスdioceseという二つの異なる語の訳語として用いられ,やや混乱している。以下パリッシュを教区,ダイオセスを主教区あるいは司教区と訳し分けて説明を加えよう。教区とは,教会組織の最小の単位であり,より上位の組織である主教区(司教区)に属している。主教区(司教区)は,その名称が示すように,一人の主教(司教)の司牧する領域である。イギリスの場合,歴史的に形成された主教区は,州といった行政区画と必ずしも一致しない。これらの主教区は,さらに二つの大主教,すなわちカンタベリーヨークの大主教に分属している。大主教の管轄区域を管区provinceと呼ぶ。宗教改革と19世紀の諸改革によって,イギリスの教会組織の手直しが行われたが,基本的な枠組みは,ローマ教皇の下にある西方教会のそれと異ならない。したがって,カトリック教会でも,その呼称は異なるものの,同様の組織,すなわち聖堂区(小教区),司教区,(首座)大司教区が認められる。日本では,キリスト教の普及と組織化が進んでいないので,教区という場合,主教(司教)の司牧する領域を指し,ヨーロッパのような教区,聖堂区が形成されているとはいえない。

 教区は宗教上の単位であるが,政治上も重要で,ことに宗教改革以降国教会の形態をとったイギリスではその果たした役割は大きい。イングランドは約1万3000の教区から構成されている。教区とは,レクターrectorと呼ばれる教区司祭の司牧する領域で,通常農村部では一つの村落であり,都市部では一つの都市がその規模に応じて数教区ないし数十教区から構成されている。教区の中心,すなわち集落の中央に,墓地を含む教会用地があり,礼拝の行われる教区教会堂parish churchと牧師館rectoryとが建てられている。本来中世において,会堂内の祭壇の置かれた内陣の維持管理費,教区司祭の給与,貧民への施しのために十分の一税が課せられ,やがて近世にはいると,会堂の会衆席のある身廊の維持管理費,礼拝に必要な物資の調達,教会役員の給与のために,教区民に教区税が課せられた。教会役員は,教会委員,教区書記,墓掘り男であった。教会委員は教区民と教区司祭の意見が一致すれば1名,一致しない場合にはそれぞれ1名の計2名が任命されるならわしであった。教区の運営は教区司祭と教会委員によって行われ,会堂の祭服室vestryで会議が開かれた。したがって教区民の全体集会教区総会common vestryと呼び,教会委員会をselect vestryと呼ぶ。十分の一税の収納者であるレクターが宗教法人等であって,村に不在の場合,教区民の牧会のために,代牧者として,ビカーvicarあるいはインカンベントincumbentと呼ばれる司祭が任命されることがある。

 このようなイギリスの教区は,地方行政の単位でもあった。アングロ・サクソン人が異教徒であった古代の村落共同体の集会は,中世の教区の教区総会に転換されていき,近世以降,教会組織である教区が,地方行政の最小単位として利用されることとなった。例えば,ヘンリー8世は,出生(聖洗式),結婚(聖婚式),死亡(葬送式)を教区簿冊parish registerに記録させ,戸籍関係の業務を教区に行わせたし,エリザベス1世は,救貧法の施行に当たって,教会委員を役職上救貧法の定める民生委員に任命するように命じ,社会政策の担当者として教区を利用したのである。このようなことが可能であったのは,英国国教会が国教会であって,教会と国家とが組織的に一致していたからである。19世紀に入るとその矛盾がようやく明確になり,1894年の〈地方自治法〉によって,地方自治の最小単位として村会が設けられ,村長・助役が置かれた。これまで議会の法令の定めに従って教区書記が保管してきた地図(公図),諸記録は,村会に引き渡された。他方,教区民に非国教徒,すなわちピューリタンやカトリック教徒が多くなるにつれて,教区税を強制徴収することに疑義が生じ,1868年〈教区税強制徴収廃止法〉によって,教区税は任意徴収となり,併行して,十分の一税も金納化され,有償で廃止されていった。最終的には,1921年の法令によって,国教会の教区としての教区会総会の設置が認められ,教区は完全に教会のものとなり,地方行政の単位と区別されることになった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「教区」の意味・わかりやすい解説

教区
きょうく
ecclesiastical district; diocese

組織化された宗教が,行政と宗教的奉仕を行うために設定した単位地区。ローマ・カトリック教会では,小教区は司牧にあたる司祭がいる教会に,信徒たちが日曜日のミサに出席できる範囲である。多数の小教区の上に司教区が設けられて,普通これが教区といわれ,その統括者として司教がおかれ,教会の基本的な行政,司牧,宣教単位をなしている。教区は階層的に組織され,重要な司教区には大司教がおかれ,大司教区と呼ばれる。司教区や大司教区は,中世では世俗的にも広い地域であった場合が多い。イギリス教会の教区は,そのまま国の最小地方行政単位になっている。

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世界大百科事典(旧版)内の教区の言及

【救貧法】より

…さらに,当時のエンクロージャーによる農村人口の減少,産業の発展,貨幣悪鋳などの諸要因とあいまって,貧民が大量に発生し,その対策が必要とされたのである。1601年のエリザベス救貧法は浮浪と乞食の禁止と処罰,児童と成人を問わず労働能力ある者の就業,無能力者の保護を末端の地域自治体である教区に命じた。実際の運営は教区の貧民監督官が当たり,必要な経費は救貧税として徴収した。…

【主教】より

…しかし2世紀中葉までにはエピスコポスが聖職の最高位として確立した。キリスト教の中心地は必ず主教をいただくことになり,その管轄区(教区と呼ぶ)は,ローマ帝国の行政区分に準じて定められた。主教は,1世紀末の教父クレメンスが主張したように,使徒の権能を受け継ぐとされている。…

※「教区」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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