教書(読み)キョウショ(英語表記)litterae pastorales[ラテン]

デジタル大辞泉 「教書」の意味・読み・例文・類語

きょう‐しょ〔ケウ‐〕【教書】

ローマカトリック教会で、教皇司教が信徒を教導するため公式に発する布告・書簡。
米国で、大統領や州知事が連邦議会または州議会に出す政治上の意見書。メッセージ。「一般教書」「予算教書
英国で、国王から議会へ、また議会の一院から他の一院へ発する文書。
教科書のこと。
「その方言を以て―を訳し、児童をして暗誦せしめ、いてその父母隣近に伝えしむ」〈中村訳・西国立志編
御教書みぎょうしょ

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精選版 日本国語大辞典 「教書」の意味・読み・例文・類語

きょう‐しょ ケウ‥【教書】

〘名〙
諸侯将軍の発する命令書。きょうそ。→御教書(みぎょうしょ)
② 主権者、教権をもつ者などが一般に出す命令、布告、メッセージなど。
(イ) ローマカトリック教会で、司教がその教区の聖職者または信徒に対し、教導するため発する公的書簡。
(ロ) イギリスで、国王から議会に発する書面。また、議会の一院から他の一院に発する書面。メッセージ。
(ハ) アメリカで、大統領または州知事から連邦議会または州議会に事務を報告し、または立法上の注意をうながすために発する書面。また、国民に呼びかけ、政府の意向を示す文書。「年頭教書
③ 教科書。
評判記・満散利久佐(1656)序「伝記教書(ケウショ)を、しるし置て、初心のともがらに、しめさんとする人」

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改訂新版 世界大百科事典 「教書」の意味・わかりやすい解説

教書 (きょうしょ)
litterae pastorales[ラテン]

カトリック教会において,信仰・道徳問題について一般信徒を教導するため司教の発する書簡。司教が定期的に(たとえば四旬節または待降節もしくは年頭等に当たって),または特殊事情から(たとえば祝典,緊急問題に対する態度決定,異端弊害の排除等の理由から--このような場合にはその地域を担当する司教団の共同教書の形式でなされる。日本ではこのような特殊事由の場合には,全国の教区長たる教区裁治権者の全司教により共同でなされる)説教壇より読み上げられて信徒あてに出され,また聖職者あてに出される書簡である。今のところ,教区長が教区内の信徒にカトリック信仰を教導する任務を果たす一番容易な形式である。

 歴史的にも,使徒たちはすでに言葉だけでなく書簡をもって初代教会信徒に呼びかけていた。たとえば,ポリュカルポスのピリピ人あて書簡は多く聖堂において公に朗読されたし,アタナシオスのようにアレクサンドリアの諸司教は,毎年管下の司教に書簡を寄せ,その中で復活祭の日,四旬節の開始を知らせ,またはその他の諸事項を説明した。17~19世紀には司教の訓令,したがってまた教書もしばしば国家の認可制度(プラケトPlacet)に依存した。ローマの司教たる教皇の教書は,回勅勅書,教皇書簡などということもある。その中で最も影響力のあるのは教皇の回勅である。またそれに次ぎ,一地域全体の(多くは,一国の)司教らの共同教書が強い。
執筆者:

教書 (きょうしょ)
presidential message

アメリカ合衆国大統領が憲法2条に基づき,連邦議会に対して口頭ないし文書で行う報告・勧告。ジェファソン大統領が議会に自ら出席せず,書記にメッセージを朗読させたことから,この名がある。定期的な一般教書予算教書・経済報告教書,必要に応じての特別教書がある。年頭の一般教書はウィルソン大統領以来,直接演説するのが慣行。大統領には法案提出権がないため,教書がそれに代わる意味をもっている。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「教書」の意味・わかりやすい解説

教書
きょうしょ

三権分立のため立法権をもたないアメリカの大統領が、重要な内外政策に関して連邦議会に送る文書または口頭による政策指針書。アメリカ合衆国憲法第2条3節の「随時、連邦議会に連邦の状態に関して情報を与え、または必要かつ適切と判断する法案を議会が審議するよう勧告する」に基づく。定例のものに一般教書ないし年頭教書State of the Union Address、予算教書、経済報告がある。ベトナムからの米軍の段階的撤退と核軍備充実を示唆したニクソン・ドクトリン(1969年7月)のような随時の教書は、ことに予算法案に関連しては数多くある。第二次世界大戦後、1970年代初めまでは、これらの教書、ことに定例の教書は、アメリカの動きが世界の政治と経済に大きく影響したため、世界的に関心をもたれたが、一つには連邦議会の発言権強化により教書の内容が葬られることもあり、またアメリカの相対的な国際的地位の低下のため、かつてほどは注目されなくなった。

[陸井三郎]

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百科事典マイペディア 「教書」の意味・わかりやすい解説

教書【きょうしょ】

米国大統領が連邦議会に口頭ないし文書で行う報告・勧告。厳格な三権分立のため,大統領は議会での立法審議には参加できず,教書の形でのみ政策と法案の提起ができる。主要なものに毎年年頭に出す内外情勢の分析と基本的政策に関する一般教書,経済全般の報告と基本的政策に関する経済報告教書,新会計年度の支出見積りに関する予算教書,その他立法勧告,調査報告,拒否権発動などの際に随時出される特別教書がある。
→関連項目大統領制

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「教書」の意味・わかりやすい解説

教書
きょうしょ

アメリカ憲法は大統領に対して,連邦の状況について議会に報告する義務と,政策を議会に勧告する権利とを与えている。これらの報告や勧告を教書と呼ぶ。その伝達は文書,口頭のいずれかによる。そのうち一般教書 (年頭教書) は毎年の年頭に議会に対し,内政外交に関する一般的状況とその対策が盛られたもので,重要な位置を占めている。特別教書は随時送付され,具体的な立法が勧告される。この制度は三権分立の厳格なアメリカ政府において,大統領が議会に対して指導力を発揮するための手段となっている。

教書
きょうしょ
pastoral letter

カトリック教会などで,司教または主教が,特定の事項について,あるいは特定の時期に,その教区の信徒に指針を与え,教導するために公開する書簡。教皇が発するときは回勅 encyclical,大教書 bulla,小勅書 breveなどと呼ばれる。

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知恵蔵 「教書」の解説

教書

アメリカ合衆国憲法第2条により、大統領が議会に対して義務付けられた、連邦の状況についての報告及び政策提案。一般教書(State of the Union Message)は、年頭(通常1月最後の火曜日)に行われるところから年頭教書ともいう。大統領に法案提出権がないため教書という形で議会に諸政策の勧告を行うが、大統領の国内政策や外交政策全般を盛り込んだ一般教書、予算教書(Budget Message)、経済報告(Economic Report of the President)を三大教書と呼び、ほかに特別教書(Special Message)がある。

(細谷正宏 同志社大学大学院アメリカ研究科教授 / 2007年)

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世界大百科事典(旧版)内の教書の言及

【アメリカ合衆国】より

… 大統領は国の元首として国民統合の象徴でもあり,また行政の最高責任者として首相の機能をもつ。大統領は法律執行の職務のほか,官吏任命権,条約締結権などを有し,また議会に教書messageを送ることによって積極的に立法を勧告するとともに,逆に法案への署名を拒否vetoすることによって立法を阻止することもできる。さらに,大統領は国軍の最高司令官として統帥権を有し,ことに戦時には巨大な戦争権を行使する。…

※「教書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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