日本大百科全書(ニッポニカ) 「数(すう、言語学)」の意味・わかりやすい解説
数(すう、言語学)
すう
多くの言語にみられる文法範疇(はんちゅう)の一つ。一つ、二つ、またはそれ以上の事物を表すための単語の形のうえの表現で、単数singular、双数dual、複数plural、言語によっては参数trialも、肆数(しすう)quatrialもある。屈折語においては、たとえばロシア語のslovarj(辞書、単数):slovari(複数)のように、語形変化(語尾変化)として現れるが、これは性、格の区分と重なっているので、先にあげた主格ばかりでなく、slovarja(辞書の、所有格単数):slovarej(複数)、slovarju(辞書に、間接目的格単数):slovarjam(複数)、slovarj(辞書を、直接目的格〈偶然、主格と同じ形〉単数):slovari(複数)などのように、ほかのすべての格にわたるものである。日本語では、人物名詞には、「学生」―「学生たち」、「子」―「子ら」のように、一種の接尾辞をつけて複数にあたるものを表すが、これは厳密な意味では数といいがたい。なぜなら、「学生たち」はかならずしも「学生」の複数でなく、学生とその仲間の工員さんたちを含めて「学生たち」ということもあるからである。「おじさんたち」という場合には、むしろ複数の「おじさん」を表すことはまれで、おじさんとその家族(つまり自分にとっては、おばやいとこたち)を意味するのが普通である。この種の接尾辞のつく範囲は方言によって異なることもある。中国語の北京(ペキン)方言では、複数接尾辞-men(們)は日本語のように人物名詞にしかつかないが、西北方言では、机や石ころのような無生物を表す名詞にもすべてつく。
数のカテゴリーは、名詞ばかりでなく、それに対応する動詞にも及び、たとえばロシア語ではčitaju(読む、一人称単数):čitaem(一人称複数)、čitaešj(読む、二人称単数):čitaete(二人称複数)のように、動詞の語尾変化のうえにも現れる。
[橋本萬太郎]
『泉井久之助著『印欧語における数の現象』(1978・大修館書店)』▽『『月刊言語第7巻第6号 特集 性と数』(1978.6・大修館書店)』