明治日本の産業革命遺産(読み)めいじにほんのさんぎょうかくめいいさん

知恵蔵 「明治日本の産業革命遺産」の解説

明治日本の産業革命遺産

官営八幡製鉄所(福岡県)、端島炭坑(通称軍艦島」・長崎県)、旧グラバー住宅(長崎県)、松下村塾(山口県)、韮山反射炉(静岡県)、橋野鉄鉱山・高炉跡(岩手県)など、8県にまたがる23の施設・遺構で構成される、世界文化遺産。登録名は「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼造船石炭産業」。日本の世界遺産登録としては、2014年の「富岡製糸場と絹産業遺産群」に続き、19件目(文化遺産では15件目)となる。
日本は、幕末から明治末期にかけて(1850年代~1910年)、西洋の技術を積極的に導入し、製鉄・製鋼、造船、石炭産業を基盤に短期間で高度な近代産業化を成し遂げた。2014年1月、日本の内閣はこれら九州・山口と関連地域の遺産群は産業化の成果の過程を示す遺産であるとして、国際記念物遺跡会議(イコモス)に推薦書を提出。15年5月、イコモスから「登録」勧告の評価を受けた。三菱長崎造船所のクレーンや八幡製鉄所(現・新日鉄住金八幡製鉄所)など稼働中の施設が登録されるのは、国内では初のことである。なお、建物老朽化が著しい端島炭坑(軍艦島)については、緊急及び長期的な保全の取り組みが必要と付記されている。
しかし、「登録」勧告の時点で、委員国の一つである韓国が強い異議を唱えた。23の遺産のうち7カ所で、およそ計5万7900人の朝鮮半島出身者が労働を強制されたという歴史があり、これを無視したまま登録するのは世界遺産の精神に反するというのが理由である。一方、日本政府は産業遺跡群の対象時期は1910年までに限っており、韓国が問題視している戦時中の強制徴用の時期とは重ならないと反論した。その後、6月21日(日韓基本条約調印50周年の前日)に行われた日韓外相会談で、「徴用工」の歴史を明示するなど、韓国側の要望を一部受け入れることで合意に至った。
同年7月5日、「徴用工」という表現に対する日韓の解釈の違いを残したまま、正式に登録が決定した。

(大迫秀樹 フリー編集者/2015年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

知恵蔵mini 「明治日本の産業革命遺産」の解説

明治日本の産業革命遺産

九州の5県と山口、岩手、静岡の計8県に点在する23資産で構成される近代日本の産業遺産群。「恵美須ヶ鼻造船所跡」(山口県)、「官営八幡製鐵所」(福岡県)、「軍艦島」の通称で知られる「端島炭坑」(長崎県)、「韮山反射炉」(静岡県)など、幕末から明治期の日本における重工業分野(造船、製鉄・製鋼、石炭産業)の急速な産業化の軌跡を示す一連の産業遺産により構成されている。2009年にユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界遺産暫定リストに追加記載され、14年に国が「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」の名称でユネスコへ推薦書(正式版)を提出。15年、ユネスコの諮問機関であるイコモス(国際記念物遺跡会議)から世界文化遺産への登録勧告が行われた。同年6月末より開催されるユネスコの世界遺産委員会で登録の可否が最終判断され、正式な登録名が確定する。

(2015-5-8)

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