知恵蔵 「明治日本の産業革命遺産」の解説
明治日本の産業革命遺産
日本は、幕末から明治末期にかけて(1850年代~1910年)、西洋の技術を積極的に導入し、製鉄・製鋼、造船、石炭産業を基盤に短期間で高度な近代産業化を成し遂げた。2014年1月、日本の内閣はこれら九州・山口と関連地域の遺産群は産業化の成果の過程を示す遺産であるとして、国際記念物遺跡会議(イコモス)に推薦書を提出。15年5月、イコモスから「登録」勧告の評価を受けた。三菱長崎造船所のクレーンや八幡製鉄所(現・新日鉄住金八幡製鉄所)など稼働中の施設が登録されるのは、国内では初のことである。なお、建物の老朽化が著しい端島炭坑(軍艦島)については、緊急及び長期的な保全の取り組みが必要と付記されている。
しかし、「登録」勧告の時点で、委員国の一つである韓国が強い異議を唱えた。23の遺産のうち7カ所で、およそ計5万7900人の朝鮮半島出身者が労働を強制されたという歴史があり、これを無視したまま登録するのは世界遺産の精神に反するというのが理由である。一方、日本政府は産業遺跡群の対象時期は1910年までに限っており、韓国が問題視している戦時中の強制徴用の時期とは重ならないと反論した。その後、6月21日(日韓基本条約調印50周年の前日)に行われた日韓外相会談で、「徴用工」の歴史を明示するなど、韓国側の要望を一部受け入れることで合意に至った。
同年7月5日、「徴用工」という表現に対する日韓の解釈の違いを残したまま、正式に登録が決定した。
(大迫秀樹 フリー編集者/2015年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報