時系列分析(読み)ジケイレツブンセキ(英語表記)time series analysis

デジタル大辞泉 「時系列分析」の意味・読み・例文・類語

じけいれつ‐ぶんせき【時系列分析】

ある対象に関する数量の継続的な時間変動を分析し、将来の予測に役立てる手法。株価・為替レート・消費需要・気温や雨量などの自然現象について、その変動の傾向・周期・不規則なふるまいなどを、解析的・統計的・確率的な手法を用いて分析することを指す。

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改訂新版 世界大百科事典 「時系列分析」の意味・わかりやすい解説

時系列分析 (じけいれつぶんせき)
time series analysis

時系列解析ともいう。時間的順序を追って一定間隔ごとに観察され,しかも相互に統計的依存関係が認められるようなデータの系列を時系列,あるいは時系列データという。年度ごとの国民総所得,四半期ごとの輸出入実績,月ごとの失業率,毎日の株価などの経済指標をはじめ,政治,社会,文化などの各分野での多くの基礎統計は時系列といえよう。一方,化学工場では原料の投入量や各種の操業条件,さらには作られた製品の特性が時々刻々測定され,均質で高品質の製品を得るようにプロセスの制御が行われており,ここでも時系列データが重要な働きをする。ほかにも,ほぼ11年の周期の知られている太陽黒点数のような天文や気象のデータ,ニホンカモシカの生息数といった生物学でのデータなどにも時系列として観測されるものが多い。このような時系列データを対象とする統計的解析は時系列分析と呼ばれ,統計学の一分野を構成している。

 時系列分析の主要な目的は最適な予測や制御を行うことにある。予測とは過去および現在のデータから今後の動向を予想することで,政府による経済動向の予測をはじめ,各種商品の需要予測などのために多くの手法が開発されている。予測はたんに未来の値を推定するにとどまらず,施策や対策の効果ないし影響を定量的に把握することに意味がある。一方,制御は,さきに述べた工場でのプロセス制御をはじめ,糖尿病や痛風の治療にも見られるような人体中の複雑な機能を一つのシステムとみなして一定の状態に保つように制御しようとする考え方に広く応用されている。また,現象を一つの動的なシステムとしてとらえた上で,システムへの入力とそこからの出力との関係(伝達関数)を,明らかにしたい場合もある。

 分析の最終目的が予測であれ制御であれ,当該する現象の時系列データの時点間の相互依存関係の構造や変動要因の把握が分析の前提となり,多様な時系列に共通に扱える問題も少なくない。最近では,ボックスG.E.P.BoxとジェンキンズG.M.Jenkinsによる後述のARIMAモデルのような汎用性の高いモデルや赤池弘次による情報量基準によるモデル選択の研究などがあり,別途に発達してきた経済時系列の分析手法とあいまって,今後の発展と手法の普及が期待される。

 時系列分析の基本は,データを図示し,データ全体のなめらかな動きとその動きからのずれの成分をみることである(図)。時系列をx1x2,……,xt,……とし,

 xtmtyt  (t=1,2,……) 

と書こう。ここで,mtはなめらかな動きの成分,ytはその動きからのずれを表す。mtを抽出するにはフリーハンドで曲線を引くのも一つの手であるが,前後を含めた3個のデータの平均,すなわち

 m^t=(xt-1xtxt +1)/3

で推定する3点移動平均法をはじめ,多点の重み付き平均をとる一般的な移動平均法が古くから考察され使用されている。移動平均法の一つの欠点は全体的な傾向から一つだけ著しくはずれた値があるとき,その影響が強く残存することで,そのような危険をさけるため移動中央値法(前後3点や5点の中央値をmtと推定する方法)を組み合わせて利用する方法も工夫されている。なめらかな動きからのずれytについては,とくにとび離れた値を検出してその理由を考えたり,ytのばらつきを見てなめらかな動きの曲線に幅をつけて解釈することなどに用いることが基礎となる。

 経済時系列ではその変動を次の四つの要素からなると考えることが普通である。

 趨勢変動要素(T)--かなりの期間にわたる漸進的な傾向性で,しばしばトレンドtrendといわれる。

 循環変動要素(C)--1年以上の周期

  cycleでほぼ規則的に反復される変動。

  いわゆる景気変動がその代表例。

 季節変動要素(S)--季節seasonとともに毎年ほぼ規則的に反復される変動。

 不規則変動要素(I)--原系列(O)から以上のT,C,Sの成分を除いた不規則な変動。

この中で,とくに季節変動を除去することを季節調整と呼び,アメリカ商務省で開発されたセンサス局法が手本となって,日本でも経済企画庁のEPA法や通商産業省のMITI法が開発されて使用されている。また,景気の循環変動を計測するために,経済企画庁では25の系列からなる景気動向指数を発表している。なお,もとのxtmtytの式に戻って,トレンドとしてのmtに時刻tの適当な関数,たとえば直線,ロジスティック曲線,ゴンパーツ曲線,指数曲線などを仮定して,最小二乗法で推定を行って予測に用いることも多い。また,周期性を持った時系列の分析にはフーリエ解析が利用される。

 以上に対し,xtmtytの式のytをかく乱あるいは誤差と呼んで,mtは一定と考えた上でytを分析することを目的とする数学的理論が,A.N.コルモゴロフ,N.ウィーナーなどによって発展されている。現実には,観測される時系列からモデルを構築する必要があり,そのためには特に自己回帰モデルと移動平均モデルが研究されている。自己回帰(auto-regression。略してAR)モデルは

 yta1yt-1a2yt-2+……+apyt-p+εt

移動平均(moving average。略してMA)モデルは

 ytb1εtb2εt-1+……+bqεt-q

と書かれ,εtは互いに独立な同一分布に従うと仮定される。この二つのモデルを結合し,さらに一般的に拡張したものがARIMA(auto-regressive integrated moving averageの略)モデルと呼ばれている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「時系列分析」の意味・わかりやすい解説

時系列分析
じけいれつぶんせき
time series analysis

ある特定の対象(価格・消費などの経済事象、気温・雨量などの自然現象など)の時間的変動を継続して観測することによって得られた統計数字の系列を時系列データtime series dataとよぶが、それについて、その変動をもたらす背景の解明やその将来変動の予測などを目的に、解析的あるいは確率論的手法を用いて分析すること。タイム・シリーズ分析、時系列解析ともよばれる。

[高島 忠]

基本的方法

時系列データの変動の背後にあると思われるメカニズム(変動機構)を解析的手法を用いて解明しようとする試みはすでに19世紀の末ごろから始められていたが、この研究がもっとも精力的に展開されるようになったのは1920年代であり、アメリカを中心に、経済活動に絡む景気予測について、この手法がさまざまに考案され、適用された。そのような実証面での分析手法の開発と並行して、時系列の変動メカニズムを確率モデルを構成することによって分析する研究が推し進められ、とくに第二次世界大戦後には、確率過程の理論と結び付くことによって発展してきている。

 確率モデルによらないで行う時系列分析の基本的方法は、時系列データの変動をいくつかの変動構成要素に分解し、そのもっとも基本となる構成要素の変動について、すでに知られている曲線のうちのもっともよく適合するものを当てはめる、というものである。まず、実際に観測される時系列データは、次の4要素から構成されると想定する。

(1)もっとも基本的な長期的・構造的変動要素としての趨勢(すうせい)変動
(2)周期の一定しない中期的な上下波動としての循環変動
(3)季節あるいは一定期間ごとにかなり明確な周期性をもって現れる季節変動
(4)短期的・偶発的な変動要素としての不規則変動
 その構成形態については、一般に4要素が足し算の形で結合する加法型と、掛け算の形で結合する乗法型とが使われる。構成要素別分解に際しては、まず季節変動要素を分離することが行われるが、それに際しては、構成形態や周期性についての仮定の相違によって、移動平均法、連環比率法、センサス局法など種々の手法が考案されている。とくに経済時系列データについては多くの場合に原系列に対して季節調整を施すことが必要とされることから、日本でも経済企画庁(現、内閣府に統合)によるEPA法、通商産業省(現、経済産業省)によるMITI法などが開発され、使用されている。季節変動部分の分離後のデータについては、さらに不規則変動を算定・分離したのち、なんらかの仮定を設定することにより趨勢変動と循環変動を分離計測することも行われる。時系列データを以上のように完全に分解するまでもなく、おおよその変動傾向を知りたい場合には、移動平均値を計算することによって局所的な変動を取り除いて滑らかな趨勢を出し、それに対して直線、二次曲線、指数曲線、ロジスティック曲線などの既知の関数形を当てはめる方法が簡便法として用いられる。そのほか、時系列の定常性の仮定の下に、その変動を多くの周期関数が合成したものとして説明しようとするスペクトル分析も、第二次世界大戦後、実際に応用されている。

[高島 忠]

確率モデル

以上のような時系列データに対する実証技術的な分析方法に対して、時系列の背後にある変動メカニズムを分析する研究も発展してきている。その基本的な考え方は、ある時系列の動きは、過去の値あるいは他の要因との関連として系統的に説明可能な部分と、それらによっては説明不可能な偶発的変動部分とからなっていると想定するものである。そして後者の部分を確率変数によって構成する。このような確率モデルのうちもっとも簡単なものは、時系列が一つの確率変動だけから構成されるとする白色雑音モデルであるが、系統的部分をそれ自身の過去の値の一次式として表現される自己回帰モデル(ARモデル)が広く用いられる。また、確率変数部分をも過去の確率変数値の一次式として定式化された自己回帰・移動平均混合モデル(ARMAモデル)は、経済・経営分野において広範な適応性をもったモデルと考えられている。しかし、現実の時系列データの変動や性質を説明するにはいずれの手法やモデルにも限界があり、場合に応じて種々の手法を組み合わせ、あるいは選択、適用することが必要となる。さらに、問題によっては、時系列分析以外の計量経済学的手法などをも取り入れることが考えられなければならない。

[高島 忠]

『溝口敏行・浜口宗雄著『経済時系列の分析』(1969・勁草書房)』『杉原左右一著『時系列の統計的研究』(1984・東洋経済新報社)』『山本拓著『経済の時系列分析』(1988・創文社)』『赤池弘次他編『時系列解析の方法』(1988・朝倉書店)』『新田功他著『経済・経営時系列分析』(2001・白桃書房)』『P. J. Brockwell and R. A. DavisIntroduction to Time Series and Forecastion, 1996, Springer-Verlag(邦訳、逸見功他訳『入門時系列解析と予測』2000・シーエーピー出版)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「時系列分析」の意味・わかりやすい解説

時系列分析
じけいれつぶんせき
time series analysis

広義には時系列資料を用いた経済変量間の関係分析をいい,同時点の経済統計を用いて行う横断面分析と区別する意味で使用されるが,通常はもっと狭義の,すなわち時間の経過順に配置された時系列資料から,その各種変動を処理する統計的分析をいう。時系列資料は各種の要因により変動するが,通常は,(1) 長時間の規則的な変化を示す傾向変動 (趨勢変動) ,(2) ある周期をもって繰返される循環変動 (景気変動) ,(3) 1年を周期単位とする季節変動,(4) 原系列から (1) ~ (3) の変動を除いた不規則変動 (残差変動) の4要因が考えられており,時系列の性質をみた場合に比較的わかりやすいため実用化されている。

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時系列分析

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