有神論(読み)ゆうしんろん(英語表記)theism

翻訳|theism

精選版 日本国語大辞典 「有神論」の意味・読み・例文・類語

ゆうしん‐ろん イウシン‥【有神論】

〘名〙
① 神が世界から超越して世界と無関係であるとする理神論に対して、人格的な神があって、宇宙はこの神の創造したものであるとする見解、また立場。人格神論
※善の研究(1911)〈西田幾多郎〉四「前者は所謂有神論 theism の考であって」
② 一般に、何らかの意味で神の存在を認める立場。無神論に対していう。
※真理一斑(1884)〈植村正久〉四「基督教の如きは有神論の最も高尚精英なるものを基本として其教道を組織したるものなれば」

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デジタル大辞泉 「有神論」の意味・読み・例文・類語

ゆうしん‐ろん〔イウシン‐〕【有神論】

神の存在を肯定する立場。⇔無神論
汎神論理神論などに対し、世界の外部に存在し、世界を創造してこれを永遠に支配する人格的な唯一神を信じる立場。人格神論。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「有神論」の意味・わかりやすい解説

有神論
ゆうしんろん
theism 英語
Theismus ドイツ語
théisme フランス語

この用語キリスト教をめぐる近代議論において、ユダヤ・キリスト教的に理解された神を認める立場を本来さすものであるが、さらに広く、一神教多神教を含め、人格的な神を認める立場をさす場合もある。

 その本来の議論の文脈からいえば、有神論は〔1〕神を人格的存在とする点において、そのような神の存在を認めない無神論と、また、神そのものは超人格的な絶対者であって、これを人格的なものとするのは人間知性による未熟な描写にすぎないとする立場と対立し、〔2〕神は世界とは区別され、これを超越した存在だとする点において、世界は神の部分ないし様態であって、神は万物に内在するとする汎神(はんしん)論と対立し、〔3〕世界を創造したのちも継続的にこれを保持し支配するとする点において、神は世界をいったん創造したあとは、それが自然に動いていくに任せたとする理神論と対立する。

 有神論にたつ場合には、そのような神を有限なことばによって表現できるか、理性によって自らの立場を正当化できるか、神の完全性との関係において悪の存在を整合的に説明できるかといった問題に直面することになる。

[清水哲郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「有神論」の意味・わかりやすい解説

有神論
ゆうしんろん
theism

神の存在を認める哲学的,神学的立場 (単なる信仰ではない) 。ギリシア語で神を意味する theosより 17世紀にキリスト教の内部でつくられた言葉であるが,立場そのものは古代より存在し,一宗派に限定されない。キリスト教についていえば,まずそれは無神論に対立し,また神の存在は認めても人間の理性ではそれをとらえられないとする不可知論とも対立する。神が世界より離れ,超越して存在するとみる点で汎神論と対立するが,同時にその神は世界や人間精神に内在して働き続けているとする点で理神論とも対立する。また神がペルソナ的存在であり,崇拝されるべきものであるとする点でも理神論と区別される。有神論と理神論は語源的には同義であり,同時期に用いられはじめたから,17~18世紀の用語では一部に混同があるが,理神論との区別は有神論にとって本質的に重要なものである。有神論は以上の主張を哲学的,神学的概念をもって理論的に展開するものであるから,その主たる部分は「神の存在の証明」にあてられる (→存在論的証明 ) 。宇宙霊魂の存在によるプラトンの証明 (『法律』 10巻) ,宇宙論的証明の原型を示したアリストテレスを源流として,アウグスチヌスアンセルムストマス・アクィナス以下現代にいたるまで多くの理論が展開されている。

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百科事典マイペディア 「有神論」の意味・わかりやすい解説

有神論【ゆうしんろん】

英語theism(ギリシア語theos〈神〉に由来)などの訳。一般に,神の存在を認める哲学上・宗教上の立場。無神論に対する。限定された意味では,理神論に対して,創造主にして永遠の支配者たる人格神の存在を主張する立場をいう。また汎神論に対して,神の超自然性・超越性を強調する立場をさす。神の属性や数(一神か多神か),また多神の場合の相互関係などについては,それぞれの立場や宗教によって異なる。

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世界大百科事典(旧版)内の有神論の言及

【無神論】より

…神の存在を否定する哲学的学説。有神論theismに対する。無神論という言葉はしばしば濫用されたが,汎神論理神論不可知論等と混同されてはならない。…

※「有神論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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