(読み)う

精選版 日本国語大辞典 「有」の意味・読み・例文・類語

う【有】

〘名〙
① (bhava の訳語) 仏語。有情としての存在、その存在の仕方、生存などの意。三有、四有、二十五有などや、十二因縁の中の一つなどとしてあり、果(か)を招く業(ごう)、あるいはその業の果としてあるものなどをいう。
平家(13C前)二「むすぶ、早玉の両所権現、〈略〉八万四千の光を和げ、六道三有(ろくだうさんう)の塵に同じ給へり」 〔大乗義章‐八〕
② あること。所有すること。また、その所有物。ゆう。
太平記(14C後)二三「欲界の衆生を悉く我有(ウ)に成さんとする時、諸天善神、善法堂に集て、般若を講じ給ふ」
菅江真澄遊覧記(1784‐1809)迦須牟巨麻賀多「奥州も鎌倉殿の有(ウ)となりし事を聞き涙を流しける」
③ 哲学用語。存在。

ゆう イウ【有】

[1] 〘名〙
① あること。あるもの。存在。
百学連環(1870‐71頃)〈西周二上「英の being (体)なり。此ビイーンなる語は有なる字にして、その有とするものは体なるが故に、今之を体と称するところに用ひしなり」 〔老子‐四十章〕
② 所有すること。自分の物とすること。また、その所有物。〔文明本節用集(室町中)〕
西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一三「既に一銭の有をも尽して、債主に賠(つぐの)ひたれば」
[2] 〘語素〙 「さらに」「その上また」の意をあらわす。
※山陽詩鈔(1833)一・癸丑歳偶作「十有三春秋、逝者已如水」 〔論語‐為政〕

あ【有】

(ラ変動詞「あり」の連体形「ある」(一説に終止形「あり」)が、助動詞「べし」「めり」「なり(伝聞・推定)」を伴うとき、撥音便化して「あん」となり、その撥音が表記されなかったもの。主として平安時代に行なわれた表記法)
伊勢物語(10C前)六五「この女は蔵にこもりながら、それにぞあなるとは聞けど」
※伊勢物語(10C前)四六「目かるれば忘れぬべきものにこそあめれ」

あろ【有】

〘動〙 動詞「ある(有)」の連体形の上代東国方言。
万葉(8C後)一四・三五〇九「たくぶすま白山風の寝なへども子ろが襲着(おそき)の安路(アロ)こそえしも」

ありい【有】

感動〙 「ありがとう」の省略「あり」をのばした言い方。威勢のいい商売でいう。「毎度ありい」
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉九「ありいといはないうちが千両だ」

ゆう‐・する イウ‥【有】

〘他サ変〙 ゆう・す 〘他サ変〙 もつ。もっている。所有する。
※正法眼蔵(1231‐53)三界唯心「しるべし、三界外に一衆生界蔵を有せしむるは、外道大有経なり」

あろ【有】

〘連語〙 動詞「ある(有)」の未然形に推量の助動詞「う」の付いた「あろう」のつづまったもの。
※浄瑠璃・生玉心中(1715か)中「是々、万事皆聞てであろ」

ゆう‐・す イウ‥【有】

〘他サ変〙 ⇒ゆうする(有)

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デジタル大辞泉 「有」の意味・読み・例文・類語

ゆう【有】[漢字項目]

[音]ユウ(イウ)(漢) (呉) [訓]ある もつ たもつ
学習漢字]3年
〈ユウ〉
…がある。存在する。「有益有害有効有罪有志有望有名有利有料有力烏有うゆう固有通有万有
持っている。「含有共有具有国有私有所有占有保有領有
さらに加えて。「有余/一年有半
語調を整える助字。「有司有虞氏ゆうぐし
〈ウ〉
ある。存在する。「有情有無有象無象有頂天希有けう未曽有みぞう
仏教で、存在すること。生存。「三有さんぬ中有
[名のり]あり・すみ・とお・とも・なお・なり・みち・もち・ゆ
[難読]有職ゆうそく

ゆう〔イウ〕【有】

あること。存在。「無からを生じる」⇔
持っていること。所有すること。「敵のに帰する」
存在2
数字とともに用いて、さらに、その上また、の意を表す。「十余年」

う【有/優】[漢字項目]

〈有〉⇒ゆう
〈優〉⇒ゆう

う【有】

《〈梵〉bhavaの訳。生じること、あることの意》仏語。生存。存在。また、その場所。生死・輪廻りんねの根源となるもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「有」の意味・わかりやすい解説

有 (う)

ウパニシャッドの思想家ウッダーラカ・アールニによれば,この宇宙ははじめ〈有sat〉のみであったが,それがみずからの意思で火を,火は水を,水は食物(=地)を創造した。〈有〉はその3者の中にアートマン(自我,本体)として入り,3者を混合して名称と形態(現象界)を開展した。熟睡時と死時には逆をたどって〈有〉に帰入するが,凡人はそれを知らないで世界の多様性に翻弄される。この〈有〉は一般にはブラフマン(梵)と称され,上述のごとく実はアートマンと同一である。なお,後世のベーダーンタ学派では,仏教の中観派の用法をまねて,ブラフマン(=アートマン)を勝義(真実)有,現象界のものを世俗有と言い分ける。仏教一般では,生死輪廻する主体としての〈有bhava〉を想定し,特に死後再生するまでの間を〈中有(中陰)〉という。またヒンドゥー教の聖典であるプラーナ文献でも,ウッダーラカ・アールニの〈有〉をうけて,天地開闢の始源的存在を〈有〉に帰している。
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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【ウッダーラカ・アールニ】より

…その思想はおもに《チャーンドーギヤ・ウパニシャッドChāndogya‐upaniṣad》の特に第6章に,わが子シュベータケートゥへの教えというかたちで伝えられている。それによれば,太初,宇宙は〈(う)sat〉のみであったが,〈有〉は火・水・食物を創造し,その3者の中にアートマン(自我)として入りこみ,3者を混合して名称nāmaと形態rūpa(現象界)を開展したという。人が死ねば,この逆をたどって〈有〉に帰入するという。…

【仏教】より

…紀元前5世紀ころインドに出たシャーキャムニ,すなわち釈迦(しやか)によって創唱された教えで,キリスト教,イスラムと並ぶ世界三大宗教の一つ。現在,(1)スリランカ,タイなどの東南アジア諸国,(2)中国,朝鮮,日本などの東アジア諸国,(3)チベット,モンゴルなどの内陸アジア諸地域,などを中心に約5億人の教徒を有するほか,アメリカやヨーロッパにも教徒や思想的共鳴者を得つつある。(1)は前3世紀に伝道されたスリランカを中心に広まった南伝仏教(南方仏教)で,パーリ語仏典を用いる上座部仏教,(2)はインド北西部から西域(中央アジア)を経て広まった北伝仏教で,漢訳仏典を基本とする大乗仏教,(3)は後期にネパールなどを経て伝わった大乗仏教で,チベット語訳の仏典を用いるなど,これらの諸地域の仏教は,歴史と伝統を異にし,教義や教団の形態もさまざまであるが,いずれもみな,教祖釈迦をブッダ(仏)として崇拝し,その教え(法)を聞き,禅定(ぜんじよう)などの実践修行によって悟りを得,解脱(げだつ)することを目標とする点では一致している。…

※「有」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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