東南アジア神話(読み)とうなんあじあしんわ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「東南アジア神話」の意味・わかりやすい解説

東南アジア神話
とうなんあじあしんわ

東南アジアの神話は、その地理的な位置からして、一方ではオセアニア、他方では中国、インド神話と関連がある。つまり、東南アジアの平地に栄えた古代文明は、ベトナムが中国文明の影響を強く受けたほかは、みなインド文明の影響のもとに発達したのであって、その影響は神話にもみられる。これに反し、山地の諸民族は比較的より純粋に本来の伝承を伝えてきたため、東南アジア神話の宝庫である。このような山地民の神話は、一方ではオセアニアの諸神話に連なるとともに、中国南部の少数民族の神話とも共通するところが多い。

大林太良

東南アジア神話のおもな形式

東南アジアの神話はその形式、モチーフにおいて、世界の他の地域の神話や民話と共通するものが多いが、東南アジアにことに特徴的に分布しかつ発達しているもののなかに、次のような世界起源神話がある。

 天地分離神話としては、フィリピンのバゴボ人の神話に、原初、あまり天が低くて米がうまく搗(つ)けないので、女が天に、昇ってしまえと叫んだため、天は今日のような高さになったというのがある。スマトラ島のトバ・バタック人の神話では、天神ムラ・ジャディが大地がくさくていやだと、神々の座を大地から遠く引き離したため、天と地は分かれたといっている。ボルネオ島のドゥスン人の神話では、天が低いために、太陽が妊婦の腹にあまり強く照りすぎて妊婦のぐあいが悪くなり、それを怒った夫が太陽の昇るところに行って、当時七つあった太陽のうち六つを吹き矢で射落とし、残った太陽は怖がって高いところに逃げたが、そのとき天も高くなったという。これは、中国南部から東南アジアの一部に分布する太陽征伐の話が、天地分離神話と接合した例である。今日の世界は世界が一度できたあと、大洪水があってその後再建されたものだという洪水神話も多く、ことに東南アジアでは、生き残った兄妹が結婚して人類の先祖となる形式が特徴的である。人類起源についてはそのほか、大地や岩の中から先祖が出現した形式が、アッサムラオスインドシナの南東部山地、インドネシアの東半部に分布し、メラネシアにも広がっている。ベトナムのラデ人の神話では、先祖が地中から出るとき、きれいな女たちは化粧に手間どって出発が遅れ、地表への穴を頭が二つある水牛にふさがれてしまったため地下に残った。それでラデ人には美人がいないという。

[大林太良]

『大林太良著『神話と神話学』(1975・大和書房)』『大林太良著『世界の神話』(1976・NHKブックス)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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