核の傘(読み)カクノカサ(英語表記)nuclear umbrella

翻訳|nuclear umbrella

デジタル大辞泉 「核の傘」の意味・読み・例文・類語

かく‐の‐かさ【核の傘】

核保有国が、その核戦力背景にして自国および友好国の安全維持をはかること。「核の傘に入る」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「核の傘」の意味・読み・例文・類語

かく【核】 の 傘(かさ)

核兵器の保有国が、自国を中心に平和を維持しうると考える範囲で、保有しない同盟国の安全を守る態勢

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「核の傘」の意味・わかりやすい解説

核の傘 (かくのかさ)
nuclear umbrella

現代の国家安全保障は,核兵器脅威への対処を考える必要があるため,非核保有国は何らかの形で核保有国による核の保障を期待することが多い。自国に対する核脅威について核保有国の核戦力に依存することを〈核の傘に入る〉という。また,核保有国の立場から,同盟国に対して核兵器によって安全を保障することを〈拡大抑止extended deterrence〉という。アメリカは北大西洋条約機構NATO)に参加している西欧諸国や日本などの同盟国に対して,核脅威に対して保障を与えている。

 NATOは,冷戦期にはアメリカの〈核の傘〉による保障を確実なものとするために7000発にのぼるアメリカの核兵器の西ドイツなどへの配備を求め,加盟国の間で核計画グループを構成して核兵器の配備や使用などについて検討を加えてきた。冷戦の終結後,アメリカの核兵器の配備を縮小することを求め,現在では航空機搭載の核兵器を冷戦期の10%以下の数百発の水準に削減した。また,核兵器の使用についても,冷戦期は柔軟反応戦略に基づいて,核兵器の使用を抑止するだけではなく,通常戦力の大規模攻勢に対しても核兵器による抑止を考え,このためにアメリカの核戦略では〈核の先制使用〉の可能性を排除していなかった。

 冷戦後,NATOは核兵器の役割について,〈最後の手段としての兵器〉(1990年7月,NATO首脳会議ロンドン宣言)と位置づけ,ヨーロッパの安全保障の再保障の役割を強調している。アメリカ政府内では同盟国に対する〈拡大抑止〉は必要との考え方が強いが,〈核の先制使用〉については冷戦の終結によってその必要性は失われたとの意見と,第三世界の大量破壊兵器拡散の危険性が高まったとして依然として必要と見る意見に分かれている。

 日本の場合,1957年5月閣議決定を見た〈国防の基本方針〉で〈(外部からの侵略に対しては)米国との安全保障体制を基調としてこれに対処する〉との方針を定めて以来,核脅威に対してはアメリカの核の傘に依存することを基本としている。冷戦後の1995年11月に策定した〈平成8年度以降の防衛計画の大綱〉(新防衛計画大綱)でも〈核兵器のない世界を目指した現実的かつ着実な核軍縮の国際努力のなかで積極的役割を果たしつつ,核抑止に依存する〉と述べ,アメリカの核の傘に依存する方針に変化は見られない。
核戦略 →軍縮
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「核の傘」の意味・わかりやすい解説

核の傘
かくのかさ
nuclear umbrella

核保有国に働く抑止の機能を非核保有国に及ぼす状態。現代ではいかなる国の安全保障も核兵器の存在を抜きにしては考えられず,特に核兵器の圧倒的な破壊能力とそれに対する有効な防御手段がないことから,核保有国が非核保有国に及ぼす脅威は深刻な問題となる。そこでアメリカは同盟国が核攻撃にさらされれば自国の核兵器で報復することを約束して核の傘を差伸べている。しかしアメリカが自国の死活的利益に直接つながらない場合でもあえて核交戦に踏切ることができるかどうかという問題が指摘されている。ワルシャワ条約機構の解体とソ連邦の崩壊によって,ロシアの核の傘は縮小した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の核の傘の言及

【核戦略】より

…また在日米軍基地には戦略爆撃機や原子力潜水艦に対する支援機能を持つものもあり,米軍基地を核と通常兵力用にはっきりと区別することはむずかしくなっている。 日本政府は日米安保体制のもとで,アメリカの〈核の傘〉の下に入っているので,日本に対する核脅迫や核攻撃をアメリカが抑止する責任を負っていると主張してきた。アメリカ政府もまた,日本に対する核保障を強調してきた。…

※「核の傘」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android