榻の端書(読み)しじのはしがき

精選版 日本国語大辞典 「榻の端書」の意味・読み・例文・類語

しじ【榻】 の 端書(はしがき・つまがき)

昔、女が、言い寄る男の誠意を確かめるために、百夜通って榻に寝たら会おうといったので、男は九九夜まで毎夜来て、榻の端に証拠を書きつけておいたが、百夜めに支障があって行くことができず、思いを遂げえなかった、という伝説。男の恋の熱烈さ、また、恋愛の思うようにならないことのたとえとされる。
散木奇歌集(1128頃)恋下「しるしあれや竹のまろねを数ふれば百夜はふしぬしぢのはしがき
※仮名草子・薄雪物語(1632)上「心中はみたらし河ほどに御入り候へども、しぢのつまがきにて候へば、此人やらん、日に千度おもひやるとはよも知らじ通ふ心の物をいはねば」
[語誌]「古今集‐恋五」の「暁のしぎのはねがき百はがき君が来ぬ夜は我れぞ数かく〈よみ人しらず〉」の「しぎのはねがき」を、「しぢのはしがき」とした本によって作られた伝説であると「袖中抄」にある。深草少将小野小町、あるいは藤原鳥養(とりかい)と藤原永平(ながひら)の娘との物語として流布した。しかし、「古今集」の有力伝本に「しぢのはしがき」の本文はなく、歌意も「鴫の羽がき」が自然で、「榻」説はこじつけか。ただ、平安鎌倉期歌人に広く知られ、「思ひきやしぢのはしがきかきつめて百夜も同じまろ寝せんとは〈藤原俊成〉」〔千載‐恋二〕などと詠まれた。藤原定家も「古今集」の本文としては退けた上で、「榻の端書き、捨つべからず」〔顕注密勘〕と言う。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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