横断面分析(読み)おうだんめんぶんせき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「横断面分析」の意味・わかりやすい解説

横断面分析
おうだんめんぶんせき

クロスセクション分析cross-section analysisともいう。物事や人間行動に関するいくつかの変数間の関係を分析するに際して、同種類の多くの個体に関する一定時点の統計資料に基づいて分析を行うもので、一つの個体あるいは一定範囲の個体を集計したものを対象として、それを異なった時点について観測した資料に基づいて分析する時系列分析に対するものである。たとえば、家計の経済活動に関して、所得消費という2変数間の関係を分析する場合に、世帯人員数やその年齢構成、居住地域などの所得と消費以外の諸特性がほぼ同じであると思われる家計の多くについて、同一月あるいは同一年におけるそれぞれの所得と消費の統計資料を求め、その資料(これを横断面資料あるいはクロス・セクション・データという)を用いて回帰方程式を推定するなどの方法によって、両変数間の関連を数量的に分析することができる。

 横断面分析は、一定時点あるいは一定期間におけるある変数間の関連を多くの同種類の個体についての資料に基づいて分析するものであるから、時系列分析とは異なって時間的な発展過程を直接に分析するものではないが、いくつかの異なった時点あるいは期間の資料について同様の横断面分析を行うことによって、変数間の関連の時間的な変動過程を把握することができるし、また、ある一定時点において計測された関係自体、一般に、相当に長期間にわたる安定的な関係を示していると理解することもできる。たとえば、先に示した家計における所得と消費の関連についていえば、低所得の家計が高所得の家計へ移行するというように、各家計の所得水準が大幅に変動するのには、かなりの長年月を要するものと考えられるし、また、特定社会における消費行動の特性や慣習も長年月をかけてしか変化しえないものだからである。

 時系列分析との対比のうえで横断面分析のもつその他の特徴としては、横断面資料は一般に時系列資料よりも多くの標本数を得ることができる(前者においては観測する個体の数を増やせばよいのに対して、後者においては過去にさかのぼるほど資料を得るのが困難になる)ため、変数間の関連につき適切な推定結果を得るのに妨げとなる多重共線性が回避しやすいという点があげられる。また、これに関連して、一般に横断面資料による変数の変域が広範囲に及ぶことから、変数間の関係を表す回帰式において適合度の高い結果を得るためには、線形関数や対数線形関数に限らず、より多様ななかから推定すべき関数形を選択することが必要となる。

 横断面分析においては、時間的な変動過程については、それを一定時点における個体のばらつきによって表現しようとするものであるから、十分な把握をなしえない面がある。これに対して、時系列分析においては、逆に、個体間の関係よりも時間的な変動過程が過剰に計測される傾向がある。そのために、横断面資料と時系列資料とをともに用いて分析を行うこともなされている。先に述べた、いくつかの時点に関する横断面分析の結果を時間的変動として検討することも、その一つの試みである。

高島 忠]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「横断面分析」の意味・わかりやすい解説

横断面分析
おうだんめんぶんせき
cross section analysis

同時点の経済統計を用いて行う経済分析をいう。統計資料には時の経過の順に並べた時系列資料と,同時点を横 (たとえば地域的) にみる横断面資料があり,一般に前者を用いる場合を時系列分析,後者を用いる場合を横断面分析という。また両者を用いる場合にはプーリング・データを使用した分析ということもある。

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