機会原因論(読み)キカイゲンインロン(英語表記)occasionalism

翻訳|occasionalism

デジタル大辞泉 「機会原因論」の意味・読み・例文・類語

きかいげんいん‐ろん〔キクワイゲンイン‐〕【機会原因論】

精神にも物体にも独自の作用因を認めず、それを神だけに帰する説。心身間に直接の相互作用を否定し、唯一真なる原因である神が精神あるいは身体一方機会原因として他方に働きかけるとする。ゲーリンクスマルブランシュらが唱えた。偶因論

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精選版 日本国語大辞典 「機会原因論」の意味・読み・例文・類語

きかいげんいん‐ろん キクヮイゲンイン‥【機会原因論】

〘名〙 (occasionalisme の訳語) 哲学用語。一七世紀、デカルト二元論立場から、オランダの哲学者ゲーリンクスやフランスのマルブランシュらが唱えたもの。事物はすべて、自力で他のものに働きかける真の原因であることはなく、たとえば心と身体の間も、神が一方の状態を機会として他方を変化させるという関係にすぎないと説いた。偶因論。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「機会原因論」の意味・わかりやすい解説

機会原因論
きかいげんいんろん
occasionalism

偶因論ともいう。デカルト哲学の残した心身関係と自由の問題解決を目ざして現れた学説コルドモアやゲーリンクスにみられるほか、マルブランシュがこの学説にたつ一大形而上(けいじじょう)学を展開した。デカルトは精神と物体(身体)の二元論をたて、両者をそれぞれ「思考」と「延長」を本質とする異種実体と認めると同時に、人間の精神と身体との合一をも承認した。これに対し、この学説は二元論を貫徹し、異種の実体間の直接的相互作用を否定する。神のみが結果を現実に産出する能力をもつ。精神にある変化が生じるとき、それを「機会原因」causa occasionalis(ラテン語)として、神がそれに対応する変化を物体に生じさせるのであって、直接に精神が物体(身体)に作用を及ぼすのではない。逆もまた同じであるとされる。さらには、物体相互間にも同じ考えが適用された。こうして、デカルトと比べると、機会原因論では人間精神をはじめ被造物の神に対する受動性が著しく強調されることになった。

[香川知晶]

『桂寿一著『デカルト哲学とその発展』(1966・東京大学出版会)』

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改訂新版 世界大百科事典 「機会原因論」の意味・わかりやすい解説

機会原因論 (きかいげんいんろん)
occasionalism

偶因論ともいう。デカルト以後の哲学の重要問題であった心身問題や神と世界の問題を,神の作用を強調する方向で解決しようとして,17世紀後半のデカルト学派の哲学者コルドモアGéraud de Cordemoy,ゲーリンクスマールブランシュらが立てた説。世界の事象の唯一の真なる原因は神であって,これらの事象の自然的原因はすべてただ神の作用の機会原因,すなわち神がその事象を生起させる際の条件にすぎないとされる。たとえば心身問題において,デカルトは精神と物体(身体)を互いに独立する2実体として峻別する一方,人間においては両者の実体的結合をみとめたが,この説によれば,心身のあいだの直接的相互作用は否定される。身体からの刺激で精神に感覚が生まれたり,あるいは精神の意志によって身体を動かす場合にも,その刺激または意志は単なる機会原因であって,真の原因は神にあるとされた。
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百科事典マイペディア 「機会原因論」の意味・わかりやすい解説

機会原因論【きかいげんいんろん】

フランス語occasionalismeなどの訳。〈偶因論〉とも。デカルトが心身分離の二元論を説いたのに対し,G.ド・コルドモア,ゲーリンクスマールブランシュらが説いたもの。身体からの刺激で精神に感覚が生じたり,精神の意志によって身体の運動が生じるのは,神が前者を機会として後者を変容させるからであるとするなど,あらゆる事象の真の原因を神に帰する。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「機会原因論」の意味・わかりやすい解説

機会原因論
きかいげんいんろん

偶因論」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の機会原因論の言及

【ゲーリンクス】より

…ベルギーのアントワープに生まれ,ルーバン大学に学んで,のち同大学の教授,ついでオランダのライデン大学教授となり同地で没した。代表的な機会原因論者の一人。デカルトは精神と物体とを独立する実体として分離しながら,人間においては心身結合をみとめたが,ゲーリンクスは両者の直接的相互作用を否定し,身体の刺激によって精神に感覚が生じたり,精神が意志によって身体を動かす場合も,真の作用者は神のみであって,神が身体の刺激または精神の意志を〈道具〉ないしは〈機会〉として感覚または身体の運動を生ぜしめるとした。…

【心身平行論】より

…物的事象はあくまで他の物的事象とのみ,心的事象は他の心的事象とのみ因果連関をなし,両系列の間には相互作用はないとみなす。〈平行論Parallelismus〉という用語はフェヒナーのころから用いられたが,哲学史上,平行論の立場をとったのはまず17世紀の機会原因論者である。彼らは物心二元論に立ち,物心対応の真の原因を神に帰した。…

【マールブランシュ】より

…彼の課題はデカルト哲学に拠りつつ新しいキリスト教哲学を樹立することにあった。代表的な機会原因論者で,物理現象であれ心身の相互作用であれ,世界のすべての事象の真の原因は神であり,その自然的原因はただ神の作用の機会となるにすぎないと考えたが,これはデカルトが理論的には不徹底のまま残した心身問題の整合的な解決をはかるとともに,また神の偉大を強調するものでもあった。彼はまた人間は〈万物を神において見る〉と考えた。…

※「機会原因論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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