機械(横光利一の小説)(読み)きかい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「機械(横光利一の小説)」の意味・わかりやすい解説

機械(横光利一の小説)
きかい

横光利一(よこみつりいち)の代表的短編小説。1930年(昭和5)9月『改造』に発表。31年4月白水社刊『機械』に初収録。ネームプレート製造所に働く「私」と職人の「軽部(かるべ)」「屋敷」、そしてそこの「主人」の人間関係を、網目状に広がる自意識を通して描いた作品。主人公の「私」は、人間の意識の底に「見えざる機械」の力が働いていて、それが人間の関係を意志の力では割り切れない方向に促してゆくと考える。昭和文学に心理主義的側面を特徴づけた短編とされ、プルーストジョイスの作品とも符合すると評価された。劇薬を扱う職人がしだいに意識を混乱させてゆくプロセスも読み取られ、公害を告発する側面も書き込まれており、1930年代の都市の病巣を意識化した作品と理解してもよい。

[栗坪良樹]

『『機械・春は馬車に乗って』(新潮文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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