止・留・停・泊(読み)とまる

精選版 日本国語大辞典 「止・留・停・泊」の意味・読み・例文・類語

とま・る【止・留・停・泊】

[1] 〘自ラ五(四)〙
[一] 動かないでいる。そこに位置して離れないでいる。
① 動いていたものが、動かなくなる。停止する。立ちどまる。
万葉(8C後)一九・四一六〇「吹く風の 見えぬが如く 行く水の 登麻良(トマラ)ぬ如く」
※枕(10C終)九五「簾のもとにとまりて見たる心地こそ、飛びも出でぬべき心地すれ」
② とりやめになる。中止になる。
※枕(10C終)九八「いとなみ、いつしかと待つことの、さはりあり、にはかにとまりぬる」
③ 続いていた物事がとだえる。
※宇治拾遺(1221頃)五「さて夢さめて、涙とまらずして」
④ 通じなくなる。「水道がとまる」
浄瑠璃・生写朝顔話(1832)宿屋の段「ヲヲ其侍は今の先渡った。が、俄の大水で川が留った」
[二] 一定の位置に固定する。
① 付着する。固着する。つく。
※栄花(1028‐92頃)暮待つ星「とまりたる匂などもなべてならずと」
② 目・耳・心などに印象が残る。
源氏(1001‐14頃)帚木「よきあしき事の、目にも耳にもとまる有様を」
③ 落着する。終結する。決着する。終わる。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「ましてことはりも何も、いづこにとまるべきにか」
④ つかまる。特に、鳥や虫などが枝の上などでからだを安定させる。
日葡辞書(1603‐04)「トリガ キノ エダニ tomaru(トマル)
※俳諧・俳諧新選(1773)三「とまらんと水にも望むとんぼ哉〈鼓舌〉」
⑤ (「高くとまる」の意) えらぶっている。
※人情本・仮名文章娘節用(1831‐34)前「ヘンおつうとまりたがるやつだの」
⑥ 妊娠する。「腹に宿る」意と「月経が止まる」意と両方からいう。
※俳諧・天満千句(1676)八「六はらをさすりあぐれば心の臓〈未学〉 たった一夜でとまると覚て〈西似〉」
[三] 行かないでいる。残る。
① あとに残る。とどまる。
※万葉(8C後)九・一七八六「み越路の雪降る山を越えむ日は留有(とまれる)吾れを懸けて偲はせ」
② 生き残る。とどまる。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「今までとまり侍るがいと憂きを」
[四] (泊) ある場所に、ある時間、継続してとどまる。
① 船が港で夜を過ごす。停泊する。
※土左(935頃)承平四年一二月二九日「廿九日、おほみなとにとまれり」
出先で宿をとる。宿をかりる。宿泊する。やどる。
※枕(10C終)一四「つば市。大和にあまたある中に、長谷に詣づる人のかならずそこにとまるは、観音の縁のあるにや」
③ 宿直する。とのいする。
※源氏(1001‐14頃)末摘花「御とのゐ所に、やがてとまり給ひぬるやうにて、夜ふかして、おはしたり」
[2] 〘他ラ四〙
① やめる。よす。
御伽草子木幡狐(室町末)「われ思ふ子細ありて思ひたちぬる事なれば、いかにとどめ給ふとも、とまるべきにてあらず」
② 停止させる。くいとめる。
※浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)下「野口のみぞの水氷滑るをとまる高足駄

と・める【止・留・停・泊】

〘他マ下一〙 と・む 〘他マ下二〙
[一] 動きを停止させる。また、動こうとするものをおさえる。
① 動いているもの、動こうとするものを動かないようにする。進ませなくする。
※万葉(8C後)四・五三二「うち日さす宮に行く児をまがなしみ留(とむれ)ば苦しやればすべなし」
※源氏(1001‐14頃)手習「道すがら行きもやらず、車とめて、湯まゐりなどし給ふ」
② それまで続いていたものを途絶えさせる。
※俳諧・春の日(1686)「連哥のもとにあたるいそがし〈冬文〉 滝壺に柴押まげて音とめん〈越人〉」
③ 特に、生命を断つ。殺す。
※浄瑠璃・出世景清(1685)五「一人をとめんことは案のうち物こわきにかいごんで」
④ さえぎる。制止する。おしとめる。
※万葉(8C後)二・一七八「み立たしの島を見る時にはたづみ流るる涙止(とめ)そかねつる」
※源氏(1001‐14頃)竹河「あまたの人におくれ侍りにける、身の憂へも、とめがたうこそ」
⑤ 禁止する。さしとめる。
※歌舞伎・盟三五大切(1825)大詰「その代り一年分払って立たっしゃい、さもないと、貴様の諸道具をとめるから、さう思はっしゃい」
※魔風恋風(1903)〈小杉天外〉前「それが為に四五日以来外出を禁(ト)められ」
⑥ 固定させる。つなぎとめる。
※後撰(951‐953頃)秋中・三〇八「白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞちりける〈文屋朝康〉」
[二] ある場所に、ある時間継続してとどめ置く。
① (泊) 宿泊させる。また、停泊させる。泊める。滞在させる。
※万葉(8C後)一五・三六二七「あが心 明石の浦に 船等米(トメ)て 浮寝をしつつ」
※浄瑠璃・丹波与作待夜の小室節(1707頃)中「こりゃ小まん此旦那殿ちそうしてとめましや」
② 罰などとして、その場所を動かさずとどめおく。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前「『おいらじゃねへよ、あの子だようヨ』『翌(あした)また留(トメ)られやうと思って、お師匠さんに云告てやらア』」
③ 香などを衣服にこもらせる。付着させる。
※源氏(1001‐14頃)須磨「月影のやどれる袖はせばくともとめても見ばや飽かぬ光を」
※浮世草子・日本永代蔵(1688)四「白むくの寝巻に留(トメ)らるるかほりに」
④ (「心をとめる」「目をとめる」の形で) そのことに関心を持つ。注目する。
※源氏(1001‐14頃)若紫「あらし吹く尾のへの桜散らぬ間を心とめけるほどのはかなさ」
[三] しるして後に残す。とどめて後に残す。
① その場所にとどめ残す。後に残す。
※源氏(1001‐14頃)橋姫「命あらばそれとも見まし人知れず岩根にとめし松のおひすゑ」
② 足跡をこの世に残す。すなわち、生命を保つ。生きながらえる。
※源氏(1001‐14頃)真木柱「みづからは、かく心憂き宿世今は見果てつれば、この世に跡とむべきにもあらず」
③ 書きしるして残す。書きとめる。
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉中「腹の中の小言帳に委細留(ト)めて」

と・む【止・留・停・泊】

〘他マ下二〙 ⇒とめる(止)

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