此・是・之・維・惟(読み)これ

精選版 日本国語大辞典 「此・是・之・維・惟」の意味・読み・例文・類語

これ【此・是・之・維・惟】

[1] 〘代名〙
[一] 他称。事物、場所、時、人などについて、話し手側、すなわち相手に対する我の側、相手を含んだ我々の側に属するものとしてさし示す(近称)。ここにあるもの。→あれかれそれ・こ。
① 事物についてさし示す。眼前の事物ばかりでなく、話題の事物をもさす。
古事記(712)上・歌謡「ぬばたまの 黒き御衣(みけし)を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸(むな)見る時 はたたぎも 許礼(コレ)は適はず」
② 人物についてさし示す。平安時代では、敬意を含めた例が多い。このかた。現代では、目の前にいる自分の妻や子供などを、話し相手に示す場合にいう。
※伊勢物語(10C前)六一「昔、をとこ、筑紫までいきたりけるに、これは色好むすき物とすだれのうちなる人のいひけるをききて」
③ 場所についてさし示す。→こちらここ
※土左(935頃)承平五年二月九日「ここにひとびとのいはく、これ、むかしなだかくきこえたるところなり」
④ 話し手および相手が現に存在する時をさし示す。いま。現在。
落窪(10C後)四「これよりまれ出で立ち給へ。京におはせん限りは見奉らむ」
[二] 自称。話し手自身をさし示す。わたくし。自分。
※多武峰少将物語(10C中)「いとうれしう問はせ給へるなむ。つれづれなるに、これよりこそ聞えまほしけれど」
[三] 対称。相手をさしていう。あなた。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「山の主(あるじ)、大きに驚きて『これは何ぞの人ぞ』、俊蔭答ふ、『清原の俊蔭』」
[四] 漢文訓読、また訓読体の文章に用いる。
① 提示された主題を指定する。述部の前におかれる。
※続日本紀‐神護景雲元年(767)八月一六日・宣命「瑞書に細勘(くわしくかんがふる)に是即景雲に在」
② 発語の辞など。①を転用したもの。
江都督納言願文集(平安後)二・六十御賀擬作「維月維星皆為楽況於吾身。寿也孝也誰不賀、況於一人乎」
[2] 〘感動〙
① 人に呼びかけ、注意をひく語。多く同輩や目下に対して用いる。もし。こら。おい。→これさ
狂言記丼礑(1660)「いやこれ。参りませいの。御ざりまするか」
民謡などのはやしことば。
俚謡・ながし(明治大正)奈良県南葛城郡「とかく、ナンヨイヨイヨイ、音頭と、コレなすびとは、かけこゑ一つで、コレとれたもの」
[語誌](1)近世の漢文訓読体や候文体では、漢文の助辞的用法の「之」等を「これ」と読む。有之(これあり)、無之(これなし)、以此観之(これをもってこれをみるに)など。指示する内容をとりたてて考える必要のない場合も多い。
(2)法令文では、動詞の目的語を文頭に提示する際には、「これ」をもとの目的語の位置に代入する習慣があった。憲法第二三条の「学問の自由は、これを保障する」など。これは、漢文体の素地に受け入れた、ドイツ法律の翻訳文体といわれる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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