残・遺(読み)のこる

精選版 日本国語大辞典 「残・遺」の意味・読み・例文・類語

のこ・る【残・遺】

〘自ラ五(四)〙
(イ) 全体のうちの一部がなくならずにあとにとどまる。
万葉(8C後)五・八四九「能許利(ノコリ)たる雪にまじれる梅の花早くな散りそ雪は消(け)ぬとも」
(ロ) 他の者が去ったあと、一部の者がそこにとどまる。
※枕(10C終)一六一「やうやうすべり失せなどして、ただ頭の中将・源中将・六位一人のこりて」
(イ) 死んだあともなくならずにある。後世に伝わる。
源氏(1001‐14頃)若菜下「今こそかくいみじき身を受けたれ、古への心ののこりてこそかくまでも参り来るなれば」
(ロ) 事のすんだあとまで消えずにある。
古今(905‐914)仮名序「しぼめる花のいろなくて、にほひのこれるがごとし」
(ハ) 時に恨めしい気持、不満などが消えずにある。心残りがする。
※人情本・閑情末摘花(1839‐41)初「お前が左様やさしくして呉るから、己アもう今夜に死でも残る所はないが」
③ 周囲の人たちが死んだあと、まだ死なずにいる。死におくれる。
※源氏(1001‐14頃)末摘花「故ひたちのみこのすゑにまうけていみじうかなしうかしづき給ひし御むすめ心ぼそくてのこりゐたるを」
浮世草子西鶴置土産(1693)一「さても残(ノコ)らぬたはけ者爰で恋をせぬは風呂へ入てあかをおとさぬに同じ」
⑤ ある範囲期限までになお余地余裕がある。
※門(1910)〈夏目漱石〉二「今日半日の生活が急に惜くなって、残(ノコ)る六日半の非精神的な行動が、如何にも詰らなく感ぜられた」
相撲で、土俵ぎわまでまだ余地がある。また、技をかけられて、まだ倒れない状態にある。→のこった

のこ・す【残・遺】

〘他サ五(四)〙
(イ) 一部分をあとにとどめておく。なくさないようにする。
※万葉(8C後)五・三七七四「我が背子が帰り来まさむ時のため命能己佐(ノコサ)む忘れたまふな」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「御かたみにとて、かかるようもやとのこし給へりける御さうぞくひとくだり」
(ロ) 他の者が去ったあと、一部の者をそこにとどめておく。
平家(13C前)三「二人はめしかへされて都へのぼりぬ。いま一人はのこされて」
(イ) 人が立ち去ったあと、また、死んだ後にとどめておく。後世に伝える。
※万葉(8C後)一八・四一一一「時じくの 香(かく)の木の実を 畏くも 能許之(ノコシ)たまへれ」
(ロ) 事のすんだあとも消えずにあるようにする。
※古今(905‐914)一・四八「ちりぬともかをだにのこせ梅花こひしき時の思ひいでにせん〈よみ人しらず〉」
③ 言わずにとっておく。隠しておく。
※源氏(1001‐14頃)柏木「など、かく思す事あるにては、今まで、のこい給ひつらむ」
④ ある範囲や期限までに、なお余地や余裕をもつ。また、気持に余裕をもつこともいう。「あと五日を残すのみ」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉五「後ろは羽目板の間を二尺遺して吾輩の鮑貝の所在地である」
⑤ 囲碁で、終局して互いの地を数えあったとき、相手より何目か勝っている。あます。
⑥ 相撲で、相手の攻めに対し土俵ぎわで踏みこらえる。
※相撲講話(1919)〈日本青年教育会〉常陸、梅の爛熟時代「駒ははたいたが、太刀はよく残してつけ入り」
[補注]「何かおもひ残する事もなし」〔浮・西鶴諸国はなし(1685)三〕のように、連体形に「残する」を用いる例が西鶴の作品に見られる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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