民族の祭典/美の祭典(読み)みんぞくのさいてんびのさいてん(英語表記)Olympia Teil Fest der Völker/Olympia Teil Fest der Schönheit

日本大百科全書(ニッポニカ) 「民族の祭典/美の祭典」の意味・わかりやすい解説

民族の祭典/美の祭典
みんぞくのさいてんびのさいてん
Olympia Teil Fest der Völker/Olympia Teil Fest der Schönheit

1936年開催のベルリンオリンピックの公式記録映画。監督はレニ・リーフェンシュタール。写真など他の芸術分野にも多大な影響を与えた映像が賞賛されながら、ナチスのプロパガンダ映画として、芸術と政治、あるいは政治に対する芸術家の姿勢という観点から、今日なお多くの問題を提起する作品。

 45人のカメラマンが動員された膨大な映像素材から最終的に2部作として完成し、両作をあわせて『オリンピア』と呼称している。古代ギリシア精神の継承聖火リレーでイメージ化したプロローグが強い印象を残す『民族祭典』は、開会式と陸上競技種目で構成される。『美の祭典』では水泳馬術などその他の競技でまとめられ、選手たちの鍛え上げられた肉体と運動の躍動感が、編集の生み出すリズムと相まって視覚効果を高めている。作品としての完成度を追求するため、充分な撮影のできなかった競技では再現映像を使ったり、練習時の撮影素材を流用したりするなど、記録としての「真正さ」にはかならずしもこだわらない編集もみられる。

 両作でベネチア国際映画祭作品賞に輝き、各国語版も製作されたが、リーフェンシュタール自ら赴いたアメリカでは、「水晶の夜」とよばれるナチスの歴史的なユダヤ人迫害事件の直後と重なり、作品は正式に公開されることもなく、彼女はナチス協力者として厳しい批判にさらされた。日本では1940年(昭和15)夏に『民族の祭典』が公開されて記録的な興行的成功を収め、数か月後の『美の祭典』公開に際しては配給会社によって、前畑秀子(まえはたひでこ)が制した女子200メートル平泳ぎ決勝のニュース映像が挿入された。

[濱田尚孝]

『『東和商事合資會社社史』(1942・東和商事合資會社年)』『瀬川裕司著『美の魔力――レーニ・リーフェンシュタールの真実』(2001・パンドラ)』『ライナー・ローター著、瀬川裕司訳『レーニ・リーフェンシュタール――美の誘惑者』(2002・青土社)』『スティーヴン・バック著、野中邦子訳『レニ・リーフェンシュタールの嘘と真実』(2009・清流出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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