氷期(読み)ヒョウキ(英語表記)glacial stage

デジタル大辞泉 「氷期」の意味・読み・例文・類語

ひょう‐き【氷期】

氷河時代のうち、特に寒冷で、氷床が拡大して発達した時期。氷河期。→間氷期

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精選版 日本国語大辞典 「氷期」の意味・読み・例文・類語

ひょう‐き【氷期】

〘名〙 氷河時代のうち、特に気候が寒冷で温帯地方までも氷河に覆(おお)われた時期。新生代第四紀更新世の氷河時代には古い順にビーバー、ドナウ、ギュンツ、ミンデル、リス、ウルムと呼ばれる氷期があった。氷河期。

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改訂新版 世界大百科事典 「氷期」の意味・わかりやすい解説

氷期 (ひょうき)
glacial stage

第四紀更新世のいわゆる氷河時代には,両極のみならず中緯度の平野・丘陵部も広く大陸氷河におおわれた気候の寒冷期があり,そのような時期を氷期という。氷期は現在の気候と同等の温暖気候の時期である間氷期interglacial stageと交代をくり返している。氷期はさらに,現在にくらべれば気温は低く,植生の回復も現在ほどではないにしても温暖化した時期の亜間氷期によって亜氷期に区分される。

 第四紀の氷期はドイツのA.ペンクとE.ブリュックナー研究(1901-09)により,次のようになっている。アルプス北ろくの河谷にある,いずれも融氷水堆積物である低位,ならびに高位の段丘礫層と,それらよりも高位置にある新・旧のシート状礫層を,上流へ追跡するとそれぞれ別の終堆石に移行している。このことから,低位から高位への4層の礫層をもたらした別々の氷河作用が識別され,それぞれの氷河作用の模式地の,低い新しいものから,高い古いものへの河谷名である,ウルム,リス,ミンデル,ギュンツを氷期名として採用し,氷期を区分した。それぞれの氷期における氷河の前進のあいだには段丘の形成があり,その形成期は間氷期にあたる。ペンクとブリュックナーの研究のあと,ギュンツ氷期に先行するドナウ氷期,ビーバー氷期が加えられ,各氷期はそれぞれ2~3の亜氷期に区分された。

 最終(ウルム)氷期の極相(最後の亜氷期)以後の氷床後退期(約1万年から1万数千年前まで)を晩氷期とし,それ以降の現在までを後氷期postglacial ageとして区分している。後氷期はスカンジナビア氷床スウェーデンのラグンダ湖付近で2分裂した時期などを,そのはじまりの基準にしている。後氷期には約6000年前に,現在よりも平均気温が2~5℃高いクライマティック・オプティマムclimatic optimum(気候最適期)といわれる世界的な高温期があり,それをはさんで前後3000年にわたる後氷期高温期(ヒプシサーマルhypsithermal)がある。この時期は,日本でも縄文海進として知られる世界的な大海進期にあたっている。

 氷期,間氷期の気候区分には,最近では絶対年代を推定できる古地磁気編年法と併用し,広く対比がおこなえる次のような方法が用いられている。一つは,深海底コア中の浮遊性有孔虫化石の暖海種の消長という従来の古生物学的方法に加え,有孔虫殻の酸素同位体(18O/16O)法による過去の水温の変化を知る方法である。ほかには陸地表面の10%をおおう風成の細粒石英質堆積物のレスによる方法がある。レスは氷期の氷河作用によるものであり,間氷期,亜間氷期にはその堆積が中止して表面が風化し,土壌化がすすむ。したがってレス帯が氷期,古土壌帯が間氷期を示すものとして,氷期・間氷期サイクルをたどることができる。日本の関東ローム層の堆積もレスと同じく氷期に対比され,レスと同じように時代が古いほど,したがって高い段丘ほどローム層が累重している。
氷河時代
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百科事典マイペディア 「氷期」の意味・わかりやすい解説

氷期【ひょうき】

氷河時代のうちでも特に寒冷で氷河が著しく発達した時期。かなり温暖であった間氷期と区別される。第四紀の氷期は高・中緯度での氷河の消長によって設定され,アルプス周辺ではギュンツ(第1),ミンデル(第2),リス(第3),ウルム(第4)の4氷期が以前から知られていたが,現在では,ギュンツ氷期以前にドナウ氷期を(あるいは,さらに以前のビーバー氷期をも)認めている。スカンジナビア氷床ではエブロン,エルスター,ザーレ,ワイクセルの4氷期,北米ではネブラスカ,カンザス,イリノイウィスコンシンの4氷期が設定されている。氷期の中でさらに氷河の消長が識別されるときは,ウルムI,II,III,IV亜氷期というふうに呼ぶ。→氷河性海面変化
→関連項目ウルム氷期ギュンツ氷期ミンデル氷期リス氷期

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「氷期」の意味・わかりやすい解説

氷期
ひょうき

氷河時代において中緯度地域まで氷床や氷河が大規模に進出拡大して存在した時期。反対に氷河があまり発達しなかった時期を間氷期という。氷期はつねに寒冷な気候の継続ではなく、そのなかにあっても氷河の後退縮小した温暖な時期が2~3回あり、これを亜間氷期といい、一方、亜間氷期と亜間氷期の間で氷河がふたたび前進拡大する寒冷な時期を亜氷期という。氷期は地球規模の気候変動で、その周期は10万年とされる。氷河の前進と後退の時期は高緯度と低緯度地域とではずれ、高緯度地域ほど氷期が長期間となる。したがって一つの氷期の年代は地域により異なり、その絶対年代を厳密に決めることは困難である。第四紀の氷期については、古くからアルプス周辺、旧ソ連地域、北アメリカなどで氷河性堆積(たいせき)物(氷堆石、氷縞(ひょうこう)粘土など)から氷河の消長が研究されてきた。アルプス北方では5回の氷期が認められ、古いほうからドナウ氷期、ギュンツ氷期、ミンデル氷期、リス氷期、ビュルム氷期とよばれて、長く第四紀氷河時代の区分の標準とされてきた。しかし、最近の深海底堆積物の研究によると、この100万年の間に10回の寒冷期(氷期)のあったことがわかってきた。

[松島義章]

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知恵蔵 「氷期」の解説

氷期

地質時代の特に最新の260万年に、現在より寒冷でより広く氷河が発達した時代の氷期と、温暖で氷河が縮小した間氷期とが繰り返し地球を見舞った。氷期には大陸に厚い氷床が発達して海水面が低下し、間氷期には氷が解けて海水面が上昇した。この大きな気候変動を、ミランコビッチ・サイクルという。第47次南極地域観測隊は、ドームふじ基地での氷床深層掘削において、深さ3000mを超える氷床コアの採取に成功した。2004年9月、英仏など欧州の共同研究チームが、南極ドームC基地で、過去74万年間に8回の氷期・間氷期の繰り返しがあったことを実証しているが、それを超えて過去100万年前まで地球環境変動の復元ができると期待されている。さらに氷床下の岩盤掘削へと挑戦の予定。深海底コアからの有孔虫化石の酸素同位体比が、氷床量の増減に関係しているため、さらに古い時代まで寒暖の変動周期が推定されている。

(斎藤靖二 神奈川県立生命の星・地球博物館館長 / 2007年)

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「氷期」の解説

氷期
ひょうき

氷河時代のなかで氷河や氷床が拡大して中緯度にまで達した寒冷な時期。第四紀更新世の氷期には,ヨーロッパでは北緯50度,北アメリカでは北緯40度付近まで氷床におおわれた。氷床の成長にともなって,海水面は現在より100m以上低下した。そのため日本海には対馬暖流が流入しなくなり,宗谷海峡は陸橋となった。北海道にはツンドラ的な環境も出現し,永久凍土も形成され,北方からマンモスなどが移動してきた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「氷期」の意味・わかりやすい解説

氷期
ひょうき
glacial age

氷河時代のうち,特に気候が寒冷となり中緯度圏の非山岳地域にも氷河の発達した時期をいう。第四紀の氷河時代には,ギュンツ,ミンデル,リス,ウルムなどの氷期があった。なお氷期と氷期の間の気候温暖な時期は間氷期といわれる。

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世界大百科事典(旧版)内の氷期の言及

【氷河時代】より

…それはドナウ川沿いの河川名をとり,ビーバー,ドナウ,ギュンツ,ミンデル,リス,ウルム氷期と古い方から順に,その頭文字がアルファベット順に工夫されている氷期名である。それぞれの氷期glacial stageの間に間氷期interglacial stageがおかれたが,氷期の融氷水礫層が間氷期には風化されることにより,風化の程度から間氷期の時間の相対的な長さが考えられた。スカンジナビア氷床があった北ヨーロッパでも同じように河川名を採用し,古い方からエルスター,ザーレ,ワイクセル氷期とし,その間に海成層で特徴づけられる間氷期を,海成層の分布域のホルスタイン,エームの名で区分した。…

【氷河時代】より

… 更新世の氷河作用の研究では,多氷河作用が認められたヨーロッパ・アルプスで氷河時代の編年の先鞭がつけられた。それはドナウ川沿いの河川名をとり,ビーバー,ドナウ,ギュンツ,ミンデル,リス,ウルム氷期と古い方から順に,その頭文字がアルファベット順に工夫されている氷期名である。それぞれの氷期glacial stageの間に間氷期interglacial stageがおかれたが,氷期の融氷水礫層が間氷期には風化されることにより,風化の程度から間氷期の時間の相対的な長さが考えられた。…

※「氷期」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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