汝・己(読み)な

精選版 日本国語大辞典 「汝・己」の意味・読み・例文・類語

な【汝・己】

〘代名〙
① 自称。わたくし。自分。→語誌(1)。
対称。おまえ。あなた。
古事記(712)上・歌謡「山処(やまと)の 一本(ひともと)(すすき) 項傾(うなかぶ)し 那(ナ)が泣かさまく 朝雨の 霧に立たむぞ」
[語誌](1)①の確例はないが、(イ)「大国主命(おおくにぬしのみこと)」の別名の「おほ(あ)なむちのみこと」を「日本書紀」などで「大己貴命」と表記しているところから、「己」の字に「ナ」の読みがあったのではないかと推定されること、(ロ)「万葉集」にも、ふつう「自分自身」と訳される「な」に「己」の字を用いた例がある(万葉‐一七五五「己母尓(ながははに)」、万葉‐三二三九「己之母乎(ながははを)」など)こと、(ハ)親しい人を呼ぶのに用いる上代語「なおと(弟)」「なせ(夫)」「なにも(妹)」「なね(姉)」などの「な」は、一方において「わがせ」「わぎも」などのように「わ(我)」を付けるいい方があり、これらの「な」も、古い自称代名詞用法のなごりであろうと推定されることなどによって認められる。
(2)②の対称の「な」は、「なれ」とともに、奈良時代には、もっとも一般的な対称代名詞として用いられている。特に歌ではもっぱらこの語を使用するが、敬意は高くなく、対等もしくはそれ以下相手に対して用い、動物植物などに呼びかける時にも用いる。「なれ」が単独で用いられるのに対して、「な」は名詞の上に付いてこれと熟合するか、助詞「が」を伴って名詞に続く用法が多いが、時代の古いところでは「を」「に」などの格助詞や、係助詞が付く用法も多い。

うぬ【汝・己】

[1] 〘代名〙
① 対称。相手をののしったり軽んじたりする場合に用いる。
※浄瑠璃・国性爺合戦(1715)千里が竹「ヤアヤアうぬは何国(いづく)風来人
② (反射指示) 自分自身のこと。侮蔑的に用いる。てめえ自身。〔かた言(1650)〕
腕くらべ(1916‐17)〈永井荷風〉二〇「自分(ウヌ)が先へ立って知合友達へ出すやら」
[2] 〘感動〙 相手に対する、激しいののしりのことば。おのれ。
※歌舞伎・幼稚子敵討(1753)口明「うぬ、さふぬかすと、責めて責めて責殺すが、それでも厭(いや)か」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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